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サ終ゲームのリスタート  作者: 橋 みさと
第2章 その、力は小さくとも
20/52

アイサイドB

◆◇◆◇◆


アイBが宿ったのは、やせ細った三十路の男性の身体である。


その身体に残された記憶を読み解くことで、主に夜から早朝にかけて、少人数で仕事をしていることを知ったアイBは、こちらの世界に来てすぐ身体の動かし方をマスターし、その日の夜から数日、元々の男性の仕事をこなしてみた。


そして最初に感じたのは……。


『この平和な世界の人々は、他者との関わりを望まない者が多いのかもしれない』


ということだった。


スカオー世界なら当たり前のように皆、初めて会う人とも挨拶を交わして協力し合っていたのに……この世界では、明確なそれがない。

ワープ手段となっている細長い鉄の箱に乗ってみても、人はみな無言で、手元の小さな画面に夢中だ。


『両隣りに人がいると認識してるのか……?』


それすら疑わしくなる。

中には歩いて移動する間ですら、その画面から目を離さない者までいて、案の定ぶつかりそうになった。


『つか、何にそんなに集中しているんだよ?』


そっと画面を盗み見てみると、何かの映像か、文章を見ていることが多く、忙しく指を動かす人の画面を盗み見た時は、スカオー世界でも見るチャット欄のようなものに、文字を入力している最中だった。


『お、こいつは珍しく、文字で他人と関わろうとしているのかも』


だがよく見ると、「●●は早く辞任しろ」とか、「昨日●●してきた」のような、単に自分の考えや経験を公表しているだけで、それを見た他人がどう反応するかを期待している感じではない。


『いや……全く知らない相手だからこうなだけで、職場ならもう少し違うだろ』


と期待して職場に行ってみたものの……ここでも挨拶すら交わさない者が結構いて、ただ与えられた仕事を、黙々とこなすだけだ。

仕事の休憩時間になっても、「話しかけてくるな」という雰囲気で、それぞれが手元の小さな画面に夢中なのだからもう、この世界のことをもっと知るつもりだったアイBとしては、途方に暮れるばかりである。


仕方なく、こちらの世界にしかない「買い物」という行為で得た「食事」を、テーブルに並べる。こんな方法でHPを定期的に回復しなければならない生活は不便ではあるが、「味覚を楽しむ」のは気に入っていた。


『もしかして、スカオー世界そのものや、そこに集まった人たちが特殊だったのか……?』


そう思うと何だが無性に、入れ替わった人々が今どうしているかが気になってしまい、アイBはそっとスカオーのアプリを立ち上げる。

スカオー世界との繋がりは一旦遮断されているので、アプリを開いて様子を伺う程度では、中に残した人々に感知されることはない。ないが……


『これじゃあ、自分も他の人々とまるで変わらないな』


苦笑しつつ、ワールドチャットの履歴を頭から表示させた。

本来であれば、履歴表示件数は最新から決まった数までしかプレイヤーには確認できないのだが、アイたちはシステム側に近い存在なので、その気になればかなり遡って確認できる。


入れ替わり直後は、他人に助けを求めている履歴が目立った。

だが途中から突然、「何の敵はどういう行動をする」といった情報交換が活発になり……最新では他人を心配して呼びかける履歴になっている。


『どういう展開だ、これ?』


今度は適性者ギルドのエリアチャット履歴を頭から表示させてみると……予想外なことに、「みんなで協力してハッピーエンドに辿り着く」なんて、夢みたいな話になっているではないか。


『いや……そこから最新ワールドチャットの履歴に繋がってるなら、どうせ失敗したんだろ』


そう思い、適性者ギルドの最新エリアチャット履歴を見たところで……アイBは衝撃を受けた。

こちらの時間で日付が変わった頃だというのに、リアルタイムでどんちゃん騒ぎをしていたからである。


まさかと思いつつ、その辺にいるプレイヤーのステータス画面を開くと、銅等級に昇格しているではないか。しかも一人ではなく、少なくとも片っ端から確認した全員が、だ。


『そんな馬鹿な……。まだあれから、3日しか経っていないのに?』


銅等級に昇格したということは、森林地帯(昼)のボスである、アークタルラを攻略したということだ。

だがシステム上、武器ガチャを100連しか引けない彼らにそれができるとしたら……かなり幸運な、ほんの一握りのプレイヤーのみのはず。


実際、確認したプレイヤーのほとんどは、装備品に火属性の目ぼしいものはなかったし、たった3日でこんなに大勢がクリアできるほど甘い敵でもない。


『みんなで協力した、から……?』


それしか考えられない。だがそれでも、一体どんな裏技を使えば可能だというのか。

気になって調べてはみたが、それ以上詳しいことは2つのチャット履歴からは読み取れなかった。


『そうか、オレはこれを求めていたのか……』


何故この身体の持ち主が、スカオーの続編がしたいと強く願ったのか……今なら分かる。


誰かと協力できることに、喜びを感じていたんだ。たとえそれが、命のやり取りだったとしても、これほどまでに「生きている」と実感できるのなら、人々の心が半分死んでいるこちらの世界より、ずっといい。


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ユウ:明日は1日かけて山岳地帯(昼)で装備集めだから 皆さんもそろそろ休まないと

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そのログを見て、彼らは今後もボス討伐を目指すのだろうと察した。


見てみたい……どうやってそれをやり遂げたのかを。

そして可能なら、他のアイたちと一緒に目撃し、語り合いたい!


ここまでのペースから、明日か明後日にはもう、山岳地帯(昼)のボス討伐に入るのかもしれない。問題は、それまでにどうやって、他のアイたちとの連絡を取るか……。


他のアイたちとの直接の連絡先は知らないが、いい方法があるじゃないかと思い、アイBは本来運営にしか使えない特殊なキーボードを操作した。


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運営からのお知らせ:どうやら奴らはもう アークタルラを倒したらしい 近日中に次のボスを目指しそうだ

これを見た奴は オレと一緒にそれを目撃しないか? 連絡を待つ

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これなら他のアイたちも見てくれるかもしれないと期待して、ワールドチャットに「スカオー語」でそう書き残す。履歴そのものはプレイヤーたちにも見えてしまうが、どうせスカオー語なら通じないから問題ないだろうという考えだ。


そろそろ休憩時間が終わるので、アイBはそのままアプリを閉じた。


◆◇◆◇◆

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