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サ終ゲームのリスタート  作者: 橋 みさと
第2章 その、力は小さくとも
19/20

銅等級昇格

探索エリアでは通常、戦闘中以外は武器を使うことができないようになっているが、エリアボス設置場所付近に限り、「戦闘中以外でも回復可能なエリア」が狭いながら存在する。


元々はボス連戦や戦闘前準備のために用意された場所なのだろう。ボス戦闘が終わるとここに自動で送られるので、火属性選抜チームもそこで待機していた。

いや、「動けずにいた」というほうが正しいか。


戦闘終了でHP1状態に回復しているとはいえ、前列で全体攻撃を受け戦闘不能になった照輝さん、Miyabiさんの意識が、まだ戻っていない。特に照輝さんは2度、HP最大値オーバーのダメージを受けているので心配だ。


「濡れ鼠になりな」


観戦エリアではくろんさんを明らかに心配していた感じだったのに、高圧的に言うジャスティアさん。

それでいて、使っているのはちゃんと水属性の単体回復メイスなあたり、彼はなかなか厄介な性格なのかもしれない。


そんなことを思いつつ、私は観戦エリア機能を解除した。こうすると中にいた人は全員、強制的に探索エリアに移動となる。

そのほとんどは火属性選抜チームを心配しつつも、大勢いても邪魔になるだけなので、適性者ギルドにさらに移動していった。


「前々から思ってたが、今日こそ言わせてもらうぜ。

痛いの駄目なくせに、お前は自傷しすぎだ! しかも最後はガッツ受けかよ!」

「ティア……怒鳴らなくても聞こえてるわ……。あと……私はファイターなんだから、そこは諦めて……」

「ちっ、だからせめてお前と同じパーティなら良かったのに…。何で俺の耐性メイスは水なんだよ!」

「それから……私以外の人も、気にかけて」

「めんどくせぇ」


相手の名前を略して呼んでいるあたり、やはり知り合いのようだ。

しかし、プリーストとして、それでいいのか…?


思ったのは私だけではなかったようで、くろんさんも頭を抱えていた。


「はっ! 今、Loveの気配がした気がする…」


ここでようやく、Miyabiさんの意識が戻った。それがきっかけで目覚めるのもすごいな。


「Love……? ティアはただの、学校の同期よ……?

プリーストなのにほぼ一匹狼だから……私以外ともちゃんと、交流してほしいんだけど……なかなか聞いてくれないのよね……」


つまり、それなりに親しいリアルの知り合いということか。


その発言を聞いたジャスティアさんは、苦虫を嚙み潰したような顔をし、後から回復作業に加わったプリーストさんたちも含め皆、何とも言えない顔をしていた。


ちなみに熾天使セラフィムさんも来ていたのだが、チョコケーキさんがジェスチャーで回復を断り、自己回復を始めたので、少し前に適性者ギルドに移動済だ。


「まあ…自傷については、我もそう思う。だが、命を賭して立ち向かうのも悪くない」


そう言いつつMiyabiさんに闇属性回復メイスを振るのは、金髪をサイドポニーにしているシクザリアさん。

性別2の高身長で、動きやすそうな白の上下服に、水色の大きなマントを合わせている。


しかし通常のプリーストのイメージとは裏腹に、四白眼で背中からコウモリの翼が生えており、顔の上半分に影がかかっているので、怪しい「死神」ボイスがハマりまくっていた。


「すごいね、盾役さまぁ。これからもずーっと見てるよ…ファイト」


照輝さんに地属性回復メイスを振るのは、有紗さん。

紫色の長い髪と青いツリ目。性別2の中身長で、服装は普通の事務員さんっぽい白シャツにオレンジのタイと黒スカートだが、「ヤンデレ」ボイスで意識のない相手にそう小声で話しかけているあたり、こちらもただのプリーストではなさそうだ。


「よく頑張ったな、イイコイココ」


最後に°˖✧はぴ✧˖°さんを風属性回復メイスで癒すRuyさん。

どうやら有紗さんと同じ身長・髪型のようだが、こちらは赤色だし、目もくりっとした茶色なので、「幼馴染」ボイスの通り、かなり親しみやすい印象を受けた。頭にはピンクのリボンをつけ、赤くて丈の短い和服に身を包んでいる。


こうして見ると、案外普通にイメージする姿のプリーストさんは、少ないのかな…? 私の知るプリーストさんたちが特殊なだけなのか、イマイチ判別が難しい。


「あ、そうだ。これを言いに来たんです。

まだレベルも低いし、装備も満足に整えられない状況の中、本当にお疲れ様でした。後で照輝さんにも伝えますね」


その言葉でようやく、無事にボス討伐が完了したことを実感したのだろう。みんな満身創痍ながらも、やっと笑みが浮かんだ。


「しかし…明日は我が身だな」


シクザリアさんは急に、神妙な面持ちでそう言った。


「と言うと?」

「…スカオーには蘇生メイスが何種類あるか、君は知っているか?」


それは…考えたこともなかった。


「知りませんが…えっと…武器ランクごと・属性ごとに各1種類とかですか?」

「Aランク・Bランクの蘇生メイスは、光属性のみ各1種類だし、それ以下のランクは存在シナイよ。

Sランクだと各属性1種類しかナイから、単体蘇生は全部で8種類ダネ」

「それとなっ、全体蘇生メイスは全部で5種類だけど、そのうちの1種類は『天空海メダル』っていう特殊アイテムが100枚ないと交換できないし、もう1種類は必殺技でも蘇生低確率のままだから、ボス戦には戦略的に使えないぞっ!

つまり実質使える全体蘇生メイスは、3種類だけなんだぞっ!」


有紗さん、Ruyさんがそれぞれ説明を引き継ぐ。


「そんなに少ないんですか…」

「ボス戦に挑むプリーストとして最低限、いずれかの属性耐性メイスと、蘇生メイスを所持していないと話にならない。今回のように、戦略的に必要となる毒解除メイスや与ダメージDOWN槍まで求められるなら、なおさらな。

だが今の説明の通り…その2つの条件を満たせるプリーストは、ごく僅かだ」

「ということは…少なくともシクザリアさんはその、属性耐性メイス・蘇生メイスの条件を満たせる数少ない1人なんですね?」

「…ふふふ、運命に抗ってみるか?」


私の問いに、彼女は悲しげな笑顔でそう肯定した。


「この前のプリースト会議で分かったけど、ここにいる5人と、さっきまでいた熾天使セラフィムさんしか、まだその条件に当てはまらないんだぞっ」

「今後のデイリーガチャで、他の人がよっぽどいいもの出さないと、もう私たちも確定ダネ。

チョコケーキさんは選ばれても逃げなかったから、エライね」

「逃げる…。そう、ですよね…」


確かに、嫌なことから逃げたいと思った人がいてもおかしくはない。それくらい、今回のボス戦は激しかった。今後それと同じ役割を担わねばならない立場なら、なおさらだ。


「私は…そうですね、運命に抗います。ここから出られない運命に」

「あなたも逃げないんだ、エライね」

「そうだなっ! ユウさんがいるから、私たち頑張ろうって思えるもんなっ!」

「えっ? どうして…?」


私の反応に、シクザリアさんは意外そうな顔をした。


「まさか…まだ気づいていないのか? 

火属性選抜チームしか、アークタルラを攻略できる人材はいなかった。だがオブザーバーの君がいたから、我ら全員、本来不可能なはずの銅等級昇格ができる。

つまり今後も、各属性ごとに攻略可能なメンバーが攻略すれば、同じことができると証明されたんだぞ?」

「あっ…! そうか、つまり…」

「今後魔獣を倒す時もきっと、同じことができるよねっ!」


私たち1人ひとりの力は、本当に小さなものだ。

でも…その小さな力を私が、こんな方法で全て束ねられるなら…きっと全員での短期間ハッピーエンドクリアが、実現できる!!


「あ、照輝さん気が付いたヨ」

「……! すまねぇ、あの後どうなった!?」

「倒しました! 照輝さんたちのお陰です。本当にありがとうございました」

「そうか…! 安心したら何か疲れたな、筋トレでもするか?」


これにはさすがに、全員がドン引きしている。


「それは1人でやってΣ(゜∀´(ㅅ• )ガブッ」


チョコケーキさんのツッコミが冴えた。

これで全員移動可能になったので、私たちも適性者ギルドに移動し、クエストクリアを受付のギルド嬢に報告する。


『銅等級昇格、おめでとうございます!

これで「山岳地帯(昼)」の探索許可が出ました。それからこちらは、ギルドからのお祝いです!』


そう言って渡されたのは、4枚の天空海メダル。100枚にはほど遠いが、間違いなく最初の一歩だ。


行動分析戦闘に参加した人も含め、戦闘不能を経験した人が多かったので、この日の残り時間は全て休養に充てられた。

1日半で装備集めとボス討伐までいけたので、私たちに残された時間は、今日を含めてあと…27日だ。

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