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サ終ゲームのリスタート  作者: 橋 みさと
第2章 その、力は小さくとも
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人知れず

結局あの後も色々な敵の部位破壊を試し、思った以上に武器用魔晶が稼げたが、風属性装備を完成させられるほどの集中力は長く持たず、その日のクエストは終了となった。


ゲーム世界であるがゆえに、空腹もなければ汗や埃で身体が汚れることもないが、冷静に考えると40時間くらいぶっ続けでゲーム世界で活動している。やはり精神的疲労は拭えず、今後も継続的に頑張っていくには睡眠くらいは必要だ。


そこで話し合いの結果、クエストに挑むのはどんなに遅くても「デイリーガチャ復活の8時間前まで」となった。

つまり現実世界なら、21時から翌朝5時までの8時間が睡眠時間ということになる。多少HP自然回復のために休憩を挟んでいるとはいえ、1日16時間クエストに挑める計算なので、これでも頑張りすぎなくらいだ。

ただやはり、残り日数を考えるとのんびりできる精神的余裕もないので、この辺りが落としどころなだけである。


さて、そうなると気になるのは、「どこで睡眠を取るのか」ということだが……ありがたいことにthe 2ndでは、「グループ部屋」と「個人部屋」の機能が追加されているとのことだった。


「グループ部屋」というのは特定のプレイヤーが集まって結成されたグループのメンバーが使用可能な部屋で、「個人部屋」というのは文字通り、各プレイヤーが好きに使用可能な部屋のことだ。

どちらもアバターの時のように、自由に家具等を設置できるらしい。


また今後色々な話し合いを進めていくにあたり、職業別の話し合いが必要になることがあるため、職業別のグループが作成されている。

ちなみにオブザーバーは私一人しかおらず、独立グループを作る意味がないので、ナイトグループに所属した。ナイトは一番人数が少ないのでグループ部屋に余裕があるし、今後スカオーについて分からないことを聞くのにも、ナイトさんたちが詳しいので都合が良いだろうという理由だ。


「さて……こんなところかな」


早速私も、教わった通りに個人部屋を作成し、寝心地が良さそうな大きなベッドを設置した。

ちなみに相互フレンド登録がある場合は、他人の個人部屋を訪問することも可能らしい。


時間的にもうこのまま休んだ方が良いのだが、何となくまだそんな気になれず、ナイトグループ部屋を覗いてみる。複数または全職ガチャを引いた結果、適職がナイト判定だった4人のナイトさんたちが、何やら集まって真剣に話し合っていた。


「どうしたんですか?」


聞くと、みんなそもそもナイトが今回初なので、思ったより活躍できずにいたらしい。にもかかわらず、パーティを組んだ相手が皆、「ナイトをしてくれてありがとう」とお礼を言うので、もっと頑張らなければと話していたそうだ。


その割には、指導してくれそうな単職ナイトガチャを引いた面々が見当たらないけど……。


「さっきまではここで色々と教えてくれてたんですけど、皆さん用事があるからとどこかに。

少なくとも照輝さんは『ちょっとトレーニングしてくるぜ!』って、言ってましたけど……」


すでにナイトを知り尽くしている方がトレーニング? 何のトレーニングだろう?


気になったので今度は適性者ギルドを覗いてみると、普段聞くことのない静かな曲が流れていた。

何だが不思議な感じだ。いつもならガヤガヤしている空間なので、足音がやたら大きく聞こえる……。


と、その時、職業訓練所の方からぼそぼそ声がするのに気づいた。行ってみると7-8人いる。皆、適職判定された職をするのが初の人らしい。他にも訓練中の方がいるとのことだった。


「本職で頑張っていた方の話を聞くと、まるでコンボが組めてなかったことが分かって、習ったことを実践してたんですよ」

「コンボ……って何ですか?」

「実は武器を使う順番によって、敵に与えられる効果が上がったり、増えたり、継続したりするそうです」

「え、まさかそれが、職業ごとにですか!?」

「らしいです。しかもこれ、敵の行動を踏まえてコンボが切れないように立ち回りしないと、とても魔獣とは戦えないらしくて……」


そう言われて思い起こすと、鷹影さんはいつも最初の2手が決まっていた。あれもコンボを考えてのことだったのかもしれない。


「僕らは多分、武器ガチャの結果から言っても、魔獣を倒せないと思うんです。コンボを完成されるための武器が一部不足してたり、属性が揃ってなかったりするので。

でも、せめて装備作りとか、敵の行動調査の手伝いくらいは、ちゃんとできるようになりたいと思ってます。そのためにも、できることはしないとなって」

「皆さん……凄いです」


私も何かで活躍したいと思った。だが何ができるのだろう? まだそれが不透明なままだ。


「あ、そう言えばここ、観戦エリア機能が使えるみたいなんですよ。オブザーバーって観戦に特化した職業特性みたいだし、試してみません?」

「それは……ぜひ試したいです! どこから操作できましたか?」


聞いた通りに操作すると、観戦エリアを作成し移動できるようになった。どうも戦闘している人が受託しているものと同じクエストを受託していないと、観戦できないらしい。今回も「職業訓練をする」というクエストを近くのNPCから受託して作成した。


ということは、今後もし魔獣戦を観戦することになるとしたら、自分もそのクエストを受託できないと駄目なのか……。やはりオブザーバーとしてのレベルを上げるのは必須だな。


通常はこの観戦エリア、ネットカフェの個室並に狭い空間らしいが、オブザーバーとして私が作成すると、ギルドと同じかもっと広い観戦エリアを作成できた。まるで警備用のカメラ監視部屋みたいな感じで、全部で6つの巨大モニターがある。

これなら99人いても余裕がありそうだ。


「皆さんも良かったら、入ってみてくれませんか? 試したいことがあるので」


その場にいた人たちを観戦エリアに呼び込んでから、私は一番最近戦闘を開始した部屋の観戦開始ボタンを押す。


「おおっ!」

「え、すごっ!」


職業特性の説明に「複数パーティの戦闘を同時観戦でき、観戦エリアにいるプレイヤー全員と共有できる」とあったのでどんなものかと思ったが……1番と書かれた巨大モニターに、戦闘エリア内部の様子が映し出された。


4体の練習用自動人形に向かって攻撃をしたり、デバフをかけたりするプレイヤーの状況が、リアルタイムで流れる。なるほど、確かにこれなら共有可能だ。


ちなみにこの練習用自動人形、9億9999万9999という、冗談みたいなHP設定になっている。これは倒せそうもない。というより、倒せないようにわざと設定してありそうだ。


試しに他の観戦開始ボタンも押すと、2番、3番のモニターに別の戦闘エリア内部の様子が映し出された。


「これ、本職の方の見本をみんなで共有したり、自分たちの動きを複数人で確認してもらうのに、すごく役立つんじゃないですか!?」

「ここに本職の方がいれば、解説もしてくれそう!」

「というか、そうしてほしい!」


たしかにその方向なら、私は活躍できるかもしれない……。胸が熱くなった。


「あれ、この部屋だけやたら長く戦闘してますね?」


経過時間が表示されていたので見ると、もう30分近く戦闘しているらしい。気になったので観戦開始ボタンを押してみる。

4番モニターに映し出された光景を見て、全員が言葉を失った。


単職ガチャを引いたナイトさんたち5名が、HP1状態でただひたすら練習用自動人形の攻撃を受けていた。この練習用自動人形は定期的にガッツを5回付与するので戦闘不能になることはないが……。


「どうして……そんなことを……」


自分で経験したから分かるが、HP1状態で受けるダメージは「いっそ意識を失いたいくらいの痛み」なのだ。なのに歯を食いしばり、皆それに耐えている。


「何か話してません? 口元が動いてる」

「あ、そう言えば。音声出せるのかな……」


探してみると各モニターごとに音声のON・OFFが可能だったので、4番モニターの音声だけONにした。


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「こ、腰が……!! 回復を……」

「どうだい、良いトレーニングだろ!」

「確かに痛みに耐える訓練としては最適だろうけど……何でこんなこと思いつくかなぁ?」

「同感です。こんなの誰かにバレたらまた、『ナイトはドM』って言われちゃうじゃないですか」

「そんなぁ、お嫁に行けなくなるかもぉ!」

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そんなことを言いつつも、誰一人としてリタイアしようとしない。まさか30分近くずっと、この状態なのだろうか? だとしたらとんでもない精神力だ。

決して戦闘不能になることが許されないナイトのプライドが、そうさせたのだろう。痛みで動けなくなるようではこの先、味方を守り切ることなどできないと。


私は無言ですべてのモニターを消した。

彼らは知られるのを良しとしていなかった。ならば知らないふりをするのがいいだろう。


「本当に、頭が下がりますね」


その場にいた全員が、それぞれ全力でできることをしようと決意した。

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