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サ終ゲームのリスタート  作者: 橋 みさと
第2章 その、力は小さくとも
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情報分析班

クエスト報告が完了したことで防具が大量に手に入ったので、私たちは各自メインで使用する防具を最大限強化するところまで終わった。

勿論私も、プリースト用防具を強化し装備している。攻撃力は期待できないが、特に魔法防御力が大幅に上がったので、最初よりはダメージを受けず安心感がすごい。


あとは装飾品が揃えば、森林地帯(昼)での風属性装備作成は一旦終了となる。今度は装飾品が報酬になっている討伐クエストを受注して森林地帯(昼)に戻り、レベル上げを兼ねたクエスト対象討伐を再開した。


ちなみに結論から言うと、ワールドチャットを利用した情報交換の効果は絶大だった。


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向日葵:リス型レア・スクワールメイジの遠列攻撃を確認し分析を完了。攻撃は3種類。

【単体魔法】無言詠唱約4秒

【遠列魔法】詠唱「尻尾を振っている」約5秒

【全体魔法】詠唱「杖をこちらに向けている」約5秒 〈状態異常〉魔痕20%付与15秒

【討伐ボーナス】魔法攻撃力


菖蒲:兎型レア・ビックホーンラビの分析経過。

【単体物理】無言詠唱約4秒

【近列物理】詠唱「クゥクゥ」約5秒

【討伐ボーナス】物理攻撃力


梅:鳥型レアに遭遇。分析を開始。


菊:兎型レア・ビックホーンラビの全体攻撃を確認し分析を完了。攻撃は3種類。

【単体物理】無言詠唱約4秒

【近列物理】詠唱「クゥクゥ」約5秒

【全体物理】詠唱「キュイキュイ」約5秒 〈状態異常〉呪い20%付与15秒

【討伐ボーナス】物理攻撃力


藤:こちらも鳥型レアに遭遇。分析を開始。


百合:蜂型レア・ビーファイターの分析経過。

【単体物理】無言詠唱約4秒 〈状態異常〉毒30%付与10秒

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特にこの6名の報告がかなり質が良く、情報更新があった場合もまとめて再掲してくれるので、とても助かっている。どうやら元々有名な方々だったらしく、「花図鑑」を名乗るスカオーの情報分析班だそうだ。

そう言えばプレイヤー名がいずれも、実際の花の名前になっているな。


と、その時、蜂型レア・ビーファイターを含む3匹の蜂型敵に遭遇した。

こいつはまだ単体物理攻撃しか情報共有されていないが、毒付与がすでに確認されているので、他の攻撃も注意しなければ。


レアが出現したと分かった時点でラガマフィンさんはオート機能を解除し、風魔法バフ付与杖の4秒詠唱に入った。彼女もまた、風属性に特化したマジシャンだったらしい。


そうなると序盤は鷹影さんにバフを入れる方が良いだろうと思い、対象者だけ変更していつもの魔導具を使用した。

チョコケーキさんも早速ビーファイターに光属性の槍を投げて、被ダメージデバフをかける。同時に職業特性で、味方全体の被HP回復量が一定時間UPしているはずだ。


「攻め込みます!」


いつもの大剣を胸の前で構え、自身に攻撃バフと被ダメージ軽減デバフをかける行動からの、鷹影さんの風属性斧攻撃。予想通りビーファイターのHPはまだまだ残っている。

この間にもう一人のファイターさんは、雑魚2匹を双剣でそれぞれ片付け、チョコケーキさんは耐性バフを味方にかける。私は少し考えてから、魔導具で自身にガッツを1回付与しつつビーファイターに3多段攻撃をした。


ガッツが付与されている場合、最大HPを超えるダメージを受けても戦闘不能にならず、HP1で生き残ることができる。つまり付与した回数だけ死なずに攻撃を受けられるのだ。

この魔導具は再使用可能時間(リキャストタイム)が100秒とかなり長いので、この戦闘中に再使用することはまず無理だろうが、今回のように様子見が必要な場合は役立つはず……。


「翅を震わせている」


ビーファイターが詠唱を開始した。まだ知らないセリフ、エフェクトオーラは魔法……。これまでの傾向と同じなら、4-5秒で攻撃が来るはずだ。

私は前列のまま待機し、使用したばかりの魔導具の再使用可能時間(リキャストタイム)を元に、詠唱時間を計測する。


この間に前列にいた人は全員後列に退避し、ラガマフィンさんは後列のまま自身へのバフ付与を完了させた。


5秒経過、攻撃が来る!


「か、かかってきなさい……!」


蜂の毒針が降り注ぐ演出が私を襲う。意識が飛びそうなほどの大ダメージを受けたが、HP1でとどまった。他の4名にMISS表示を確認したので、前列攻撃か。

次の1手を……


「止まりなさい!」

「動いたら負けゲーム!!」

「ぜんたーい、とまれっ」


三者三様の制止の声は間に合わず、私は魔導具の詠唱を開始した後にそれに気づいた。毒付与100%、60秒!!


「ぐはっ!」


魔導具の詠唱終了と同時に、毒による行動時追加ダメージを受け、戦闘不能に陥った私はその場に倒れた。いっそ意識を失いたいくらいの痛みが襲うが、そうはならないらしい。これは確かにトラウマものだ。


「蘇生は当分無理だよ!!」

「このままで良いです。がんばって!」


プリーストの必殺技ゲージがこんな序盤に溜まっているはずがないので、いっそ倒した方が安全だろう。戦闘不能のままでも声は出せるし指先くらいは動かせるらしく、半透明の画面から敵の行動やバフ・デバフの状況などを確認できたので、痛みに耐えつつそちらに集中した。

ラガマフィンさんが必殺技ゲージを使った敵へのデバフ付与を終える。


「あ、しまっ……た?」


とその時、全職ガチャのファイターさんがそう呟いた。何が「しまった」なのかは分からないまま双剣の詠唱が終わり、ビーファイターを切りつける。

特におかしな点はなかったように思えたが……いや。


「攻撃の位置が、ずれてた?」


その直後の鷹影さんの攻撃はビーファイターの身体のど真ん中に入ったように見えた……が、先ほどのファイターさんの攻撃はビーファイターの鉱石っぽい毒針部分に入ったように見えた。どちらの攻撃もHPは減っていたので、外したわけではないのは確かだ。


私は指先を必死で動かし、試しに半透明の画面からビーファイターの色々な部分をタップしてみる。予想外なことに、鉱石っぽい毒針部分をタップした時だけ、別部位としてターゲッティングができた。

敵が小さいので今まで気付かなかったがこれは……。


「この敵……毒針部分だけのターゲッティングができるみたいです……!」

「!?」


その言葉で意図が伝わったのだろう。全員が毒針部分のターゲッティングに切り替えて攻撃を再開した。


攻撃に回す必殺技ゲージを貯める間にビーファイターの単体攻撃が鷹影さんを襲ったが、後列移動で何とか耐え、チョコケーキさんが即、毒を解除する。


ビーファイターがまた無言詠唱を開始する数秒前、火力職3人の必殺技ゲージが溜まった。チョコケーキさんが敵へのデバフをかけ直す。

4秒後……ぎりぎり間に合うか!?


「今こそ動く時!」


鷹影さんが敵のヘイトを取っている状態だが、彼は迷うことなく必殺技を風属性の大剣で放つ!


その攻撃はかなりの大ダメージを与えたが、倒すには僅かに足りず、直後のビーファイターの単体攻撃を前列で受けたため、鷹影さんは戦闘不能に陥った。


「後は任せます」

「ごめんね……」


それは恐らく、自身の攻撃が間に合わなかったことへの謝罪。だがきっとそんなのは不要だ。

杖の詠唱が終わり、放たれた風の単体魔法が見事ビーファイターに決まり、HPを削り切った……はずだが。


パキンッ


予想外の澄んだ音を立てて、ビーファイターの毒針が折れた。


普段なら敵を倒した場合、その敵が地面に倒れて消える演出がなされる。

だが今回のは明らかにそれと異なり、毒針を失ったビーファイターが頭に疑問符を浮かべ、そのまま撤退する演出がなされた。一応倒したことにはなったようで、経験値が付与されレベルが上がる……。


全員何が起こったのか把握できないまま戦闘終了となり、戦闘エリアから排出される。

とりあえずこれでHP1になったので、自力で動けるようになった。さすがに2名戦闘不能で満身創痍なので、敵がいないエリアに移動し休憩する。


「わ、特大武器用魔晶をドロップしてる!! 滅多に落とさないのに!!」

「報告するのか……?」

「お願いします。ちょっと今、その余裕がこちらにないので」


そういうの苦手そうだが、こちらの状況を見て名乗り出てくれたのだろう。

今起こったことを余すことなく、ラガマフィンさんが代表してワールドチャットで報告すると、チャットが騒然となった。


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嶋耕作:その部位狙い スクワールメイジの前歯でもできたうー!

このまま倒してみるうー!


U-berry:こちらはビックホーンラビの角が選択できました

試しにデバフを角に付与したら 部位ではなく敵本体にデバフがかかったことになりました


ZERO:どうやら 雑魚でも鉱石っぽい部分を選択できるようよ

しかもレアアイテムをドロップしたわ


嶋耕作:倒せたうー! レアアイテム出たうー!

鉱石っぽい部分を狙うと レアアイテム出やすいのかもしれないうー!

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この報告で、私たち全員顔を見合わせた。


「スカオーに部位破壊ってあるんですか?」

「ないない、そんなの知らない!!」

「少なくとも前作にはありませんでしたし、今作のヘルプ画面にもそういった表記はなさそうです」

「つまり……隠し要素なのか……?」


だとしたら、もう1つ確認したいとことがある。


----------------------------------------------------------

ユウ:すみません 鉱石っぽい部分狙って倒した時の敵 撤退する演出しませんでしたか?


ZERO:したわね 頭に?マーク浮かべて


嶋耕作:こっちも逃げてたうー! 全く同じだうー!


U-berry:こちらも同じです レアドロップもありました


向日葵:【協力要請】ドロップ率分析のため ドロップ有無とその内容の報告

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その後のみんなの報告の結果、鉱石っぽい部分を狙って倒した場合に限り、全ての敵が頭に疑問符を浮かべて撤退する演出をしていたことが分かった。


「何か気になりますね」

「そうですね……。私はあの演出、撤退するというより正気に戻ったように感じました」

「今までが狂ってたってこと?」


そうかもしれない。

狂って、暴走……つまり狂暴化していた? 狂暴化による魔物の襲撃……そうだ、これは元々そういうストーリーだったはずた。


ストーリー上の狂暴化は、「急激に魔光雨を身に取り込みすぎたことで、魔光雨を魔晶化しきれなかったこと」が原因……つまり……!


「あの、もしかしてこのゲームの敵って全部、鉱石っぽい部分がどこかにありますか?」

「そう言えば……魔獣にもあったかも……」

「だとしたら……あの鉱石っぽい部分が魔晶で、それが原因で狂暴化してたから、魔晶を取り除くことで正気に戻ったとか、あり得ませんか?」

「…………あり得ますね。実際ドロップしているのも魔晶ですし」


その後私の仮説を証明するかのように、レア敵の部位破壊をした場合に限り、特大武器用魔晶のドロップ率が80%程度あることが分かった。そして雑魚を含めた全ての敵が同じように、正気に戻ったような演出をしていることも。


「風属性装備が整い次第、火属性に特化した選抜チームで森林地帯(昼)のボスに挑む予定ですから、それに参加する方に部位破壊を試してもらう必要がありそうですね」


その結果によっては、今後の私たちの命運を左右するかもしれない。

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