現状把握
みんなで協力することになった直後、私たちは人口と職業の調査をした。
結果、まず全部で100名のプレイヤーがベータ版に参加していることが分かった。
前作のベータ版にも参加したことがある人の話によると、本来ベータ版はこんな少人数で行われるものではないらしいが……もしかしたらアイの力で入れ替わりが可能な人数の上限が、募集された「100名程度」だったのかもしれない。
強制イベントストーリーで判定された適職結果を元に集計した、各職業の人口内訳は以下の通りだ。
ファイター:28名(うちファイターガチャのみ選択は17名)。
マジシャン:23名(うちマジシャンガチャのみ選択は14名)。
レンジャー:17名(うちレンジャーガチャのみ選択は10名)。
プリースト:21名(うちプリーストガチャのみ選択は13名)。
ナイト:10名(うちナイトガチャのみ選択は6名)。
オブザーバー:1名(職専用ガチャなし)。
つまり自分を含め、全体の4割が単一の職ガチャを回さなかったことになる。理由は私と同じで、「ベータ版だから複数の職を試そうと思った」というのが大半だった。
何故この集計をしたかと言うと、スカオーのレベルは「職業ごと」にあるからだ。何をするにしてもレベルを上げないことには話にならないが、28日という残り期間を考えると、短期間でゲームを攻略するにあたり、適性職業のレベルのみ上げる選択しかあり得ない。
私に関しても、オブザーバーのレベルを上げてどうなるのかは不明だが、オブザーバーになれるのが私しかいないので、全員一致でオブザーバーのレベルを上げるべきだということになった。
だが火力職はまだしも、補助職と私に関してはソロでのレベル上げはかなり困難なため、ザコ戦でもパーティを組む前提になる。その際にこの集計結果が生きてくるわけだ。
なお、スカオーのパーティ編成は5名が最大なので、100名だと20パーティ作れる計算だが……結果を見ての通り、レンジャーとナイトは20名もいないので、色々なバランス調整をし、ようやくレベル上げパーティが決まる。
早速私は決まったパーティメンバーと共に、探索許可が唯一ある「森林地帯(昼)」へ向かうこととなった。
ちなみに今回のパーティのうち1名は全職ガチャを引いたファイターなので、実質戦力は3名だ。あまり長期戦には向かないメンバーなので、その分単職ガチャを引いた人を多目に配置してくれている。
「おはよーよー!!」
最初に挨拶してくれたのは、プリーストのチョコケーキさん。
赤いツインテールと狐耳、悪戯が好きそうな赤い瞳が特徴で、服も赤を基調としたチェック柄の、裾が長いドレスだ。可愛いものが好きなのか、熊のぬいぐるみを背中と左手に抱えている。性別2の低身長なので、本人もかなり可愛らしい。ボイスは明るくちょっと抜けているセリフが多い「アホの子」だ。
「どうぞ、よろしくお願いします」
次はファイターの鷹影さん。幕末の若い剣士といった感じの和風鎧で、ポニーテールにした黒髪と焦げ茶色の瞳がハマっている。「策士」ボイスの通り、凛々しく礼儀正しい人のようだ。性別1の高身長だけど、話しかけやすい印象である。
私ともう一人のファイターも軽く挨拶したところで、1名足りないことに気づく。辺りを見回すと……。
「すー……すー……」
少し離れたところにある椅子の上で、マジシャンのラガマフィンさんが寝息を立てていた。
白と黒を基調としたゆったりめの上衣に、黒い膝上丈のタイトスカートとニーハイソックスを合わせた、動きやすい服装。人型の耳はなく、銀色のボブカットと同色の猫耳に尻尾……さらに背中からも大きな猫足が2本生えている。相棒なのか、その側には小さな鐘を頭に被る、謎の青い生物が浮かんでいた。
私が軽く肩を叩いて起こすと、緑ががった青い瞳がゆっくり開き、次いで驚いたのかパッと距離を取って、柱の陰からこちらを覗き見た。私より目線が少し高いので、性別2の中身長らしい。
「すまん。いくのか……?」
何だか人慣れしていない猫みたいな人だ。そう言えば「ラガマフィン」というのは、猫の品種だった気がする。ボイスは「怠け者2」のようだ。
「はい、森林地帯(昼)に」
私がそう言うと、警戒しつつも付いてきてくれた。とはいえまだ微妙に距離がある。
「むむむむぅぅ~」
これを見たチョコケーキさんは思うところがあったらしく、少し考えてから……。
「(「 •ㅅ•)「スチャ」
おもむろにクリームたっぷりのパイケーキを取り出した。どこからそんなものをと思ったが、そう言えば見た目装備にそんなものがあった気がする。するとラガマフィンさんの目が、パイケーキに吸い寄せられたのが分かった。
右に左にとパイケーキを移動させるたび、ラガマフィンさんも釣られて右に左に移動する。
「一緒に遊んでよぉ~ヾ(*•ᆺ•)ノ」
言うと、ラガマフィンさんはこくこくと頷いて、ようやく私たちとの距離を縮めた。タイプは全然違うけれど、どちらも動物系のアバターなので、案外気が合うのかもしれない。
「悪くない展開ですね」
鷹影さんも二人の様子を見て安心したようだ。
まずは出発前にギルド嬢からクエストを受注する。
今回受注したのはいわゆる討伐クエストで、決められた種類の魔物を一定数倒すごとに、風属性の魔晶防具が報酬として得られるものだ。クエストごとに討伐対象と報酬内容が異なるので、今回はファイター向け・マジシャン向け・プリースト向けの防具を報酬として得られるクエストを選んでいる。
前作なら防具ガチャが稀に存在したが、ベータ版にそれはないようなので、全員クエスト報酬で整える必要があるためだ。連続報告が可能なので、いちいち戻ってクエストを再受注しなくて良いのは助かる。
全員が同じクエストを受注済であることを確認してから、私たちは森林地帯(昼)へワープする。静かで神聖な森を思わせる音楽が流れ出した。




