来たわけは
「うむ、こりゃあうまい梅干しだな」
口におしこんだあとにも、指にのこった飯粒をなめ、鬼のウゴウがまたつぎのひとつに手をのばす。
ジョウカイが婆さんにもらった五つの握り飯を、もうふたつたいらげている。
「まあ、まて。食う前に、なぜここにきたのかいってみろ」
ジョウカイは、のばされたウゴウの手をつかみあげた。
ウゴウは『一角』という鬼だ。
握り飯をつかみそこねた手はからだのおおきなジョウカイよりまだ大きく、爪は獣のようにほそながいが、指も腕も、かたちは人とおなじで、立ち姿もおなじだ。
だが、上背もジョウカイより大きく、からだも太い。顔の毛も頭の毛も濃く太く、目鼻も際立って大きいが、よくみればやさしい目をしている。ただし、目玉に白い部分はなく、黄色に割れ目のような縦長の黒目があるだけの目だ。
ああ、と、その目でジョウカイの顔をみたウゴウは、サゲンに行けといわれたんでな、と額からつきでた角をかいた。
「ジョウカイが散歩先で面倒なものにあうようだから、ゆけといわれた」
「ほお、サゲンになにか見えたか」
「なんだかな、餅みたいな、しつこいのがな」
「『餅』か・・・なるほどなあ」
それはたしかに婆さんのはなしにでてきたな、とジョウカイはなっとくし、ウゴウの手をはなした。