いまの名は『供物』
「あまいぞ、ジョウカイ。 これだからおまえは、ぬけておる、というのだ」
ウゴウがジョウカイのうしろに腕をくんで立つ。
「こどものころの《イミナ》などつけたままなどで、喰い残されたらどうする?その残りがいつか、土のなかから這いでるやもしれぬぞ」
言って、ジョウカイをおしのけてしゃがみこむと、身をひくめて男をにらんだ。
「 ―― おまえのようなしつこい者には、用心するに越したことはない。 だいいち、『名』は、親父に呪いでとりあげられたわけではなかろう。 おまえが《とりあげられた》とおもっているからおもいだせぬだけだ。それならば、いつほんとうの名をおもいだすかわからぬ」
すると、土にうまった男が、くっ、とわらうような息をもらした。
『 おおそうだ、思い出したぞ。これでおれは助かるぞ。その《山神》には『タダマサ』をくれてやろう。 よいか、おれのいまの名は 』
「 くもつ だ 」
『 く もつ・・・ 』
「そうだ。おまえのいまの名は『供物』よ。『供物』は《山神》にささげられ、喰われるためにある」
男の頭のてっぺんにつきたてていた指を、ウゴウは押した。
獣のようにとがった爪は頭へとは突き刺さらず、ただ、頭が土の中へ、めりめりといやな音をたててもぐってゆき、男は消えた。




