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いつか きっと
父は役を継いだ息子に、これで満足してはならぬと毎日いいきかせ、素振りの稽古は、竹刀よりも背がひくいうちから、毎朝させた。
『 泰安の世には、刀などいらぬという言葉は父と祖母の耳にははいらず、武芸はかならずいつか必要になると、ふたりは信じておりました』
我が家宝の刀は、ご先祖様が武勇をたたえられ殿様よりたまわりし名刀。この刀と、代々の名に恥じぬよう、おまえが日ごとのおつとめにさらに精を出せば、このとしの暮れまでにはきっと、おまえの名を耳にとめ ――
『 ―― もっとよい役につくはずだと、毎年、毎年、いや。毎日いわれるのです。 そのうち・・・わたくしがそうならないのは、・・・産んだ母のせいだと。祖母だけではなく、父までが母を責めだしました・・・・。母はそれをうけて、自分を責めて病になり、亡くなりました』