顔の名
「ジンロク、そこでなにをしておる?」
『 ここで・・・ ああ、 山の道をとおっているときに、名をきかれ、こたえたときには、もう、 このように ・・・ 』
ざざ、としげみをわけて、ジンロクの首がのびた。
その下にはたしかに臼からとりだしたままのような餅のようなおおきなかたまりがあり、人の肌の色をしたそれが、ぶよりぶより、とゆれている。
ふうん、とウゴウが楽しいようなこえをもらすと、そうかそれなら、と一歩でた。
「 お ぬ し の 名 は な ん と も う す 」
ごあん、と山合にひびくような声でとわれ、餅のようなかたまりが、ぶぶぶ、とふるえると、ぐう、とみあげるほどにのびあがり、そのおもてに、いくつもの顔があらわれた。
『 オキネ ヘイゴ ミキチ
オカネ ゴロウ サンジ
ヨシゾウ オキク トラキチ 』
のびた《餅》にあらわれた顔が名をこたえると、とびあがったジョウカイは、杖の先でその額をひとつひとつ突いていった。
すると、突かれた《顔》たちは餅のなかへとしずみこみ、ひろがっていた《餅》は、すぼむようにちいさくなる。