きかされる
ジョウカイが散歩にでた先で、名をきかれた娘がゆくえしれずになったときかされるが。。。。 エセ坊主のジョウカイが散歩にでたときのはなし。
一、
ジョウカイがそのはなしをきかされたのは、『散歩』にでてからみっつめの山をこえた谷あいにある集落でだった。
「ほお、ゆくえがしれぬのか」
「ありゃ、お山にかくされたんじゃとここではゆうとるがな、わしはちがうとおもうとる」
白湯のようなお茶をいれてくれた婆さんは、やまのほうをにらんでみせた。
このあたりは山が高くけわしいので、山菜取りなどでも山へは入らず、入るのは山でなりわいをたてるものたちだけだという。
ゆくえがしれぬのは、この集落からさらにくだった村の名産である、お茶農家のうちのひとりの娘だった。
もちろんお茶畑は山の中にはなく、村のなかの高台にあるので、娘は山とはなんの縁もない。
「なんでもな、はじめおかしなことをくちばしりはじめたらしくてな」
「おかしなこと、とは?」
のう、ととさん、だれかが、ずうっと、名をたずねてきよる
「名を?」
だれもいないのに、すぐうしろから、名をきかれるのだという。