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第13話『一方、ハーランド工房では その②』

「グレガノの旦那、勘弁してくださいよ。俺たちがクビってどういうことっすか」


「……ふん。剣士に脅されたくらいで尻尾を巻いて逃げ帰ってくる腰抜けどもは、うちにはいらねぇんだよ」


「グレガノさん、あの女、ただの剣士じゃないっす。魔法剣士だったっすよ。いくらなんでも無茶っす」


 俺の目の前で息巻いているのは、新しい工房への妨害工作を任せたゴロツキどもだ。


 自分たちの失敗を棚に上げて、色々と言い訳してきやがる。


「ええい、黙れ黙れ! ごちゃごちゃ言ってねぇで、さっさと出て行け! お前らの代わりなんていくらでもいるんだ!」


「せ、せめて今回の給料、半分でいいから払ってくださいよ」


「ああ? どの口が言ってやがる。なんの成果もないのに払えるわけがないだろうが」


 頬杖をつきながら言うと、奴らは顔を見合わせる。


「……ちっ。こんな工房、こっちから願い下げだよ」


「知ってんだぜ。最近、売上が減ってるって話をよ」


 そして態度を豹変させたかと思うと、語気を強めながらそう言った。


 それからも散々悪態をつくだけついて、ゴロツキどもは去っていった。まったく、どうしようもねぇ奴らだ。

しかし、新しい薬師(やくし)工房とやら……わざわざ工房名にエリンの名を冠して挑発してきた挙げ句、こっちが送り込んだ連中を返り討ちにしやがるとはな。


 勢いよく閉められた扉を一瞥してから、そんなことを考える。


 加えて、あのゴロツキどもが起こした騒ぎに便乗して、工房の名を売りやがった。ええい、考えれば考えるほど腹が立つ。


 俺は怒りに任せて机を叩くも、殴ったところで俺の手が痛くなるだけだった。


「……パパ、あの人たちクビにしちゃったの?」


 その時、愛娘のエルトナが工房長室に入ってくる。机を殴る音が聞こえてしまったのか、怯えた表情をしていた。


「ああ、役立たずはこの工房にはいらないからな」


「……役立たずと言えば、マリエッタも使えないんだけど」


 怒りの感情を隠しながら言うと、エルトナは不満そうな顔で言う。


「話は聞いてるさ……だが、あいつはクビにするわけにもいかねぇ」


 エリンの代わりに雇った薬師……マリエッタは、薬師免許のランクを偽っていたことが最近になって判明した。


 本来ならすぐにでも追い出すんだが、あいつがいなくなるといよいよ薬師がエルトナ一人になっちまう。娘に仕事が集中することだけは避けたい。


 新しい工房ができたのもあって、うちの薬は大して売れねぇが、マリエッタへの給料はある程度払う必要がある。


 そうなると薬の単価を上げるしかないが、値が上がるとますます薬は売れなくなる。悪循環だった。


「しかもエリンのやつ、なんの書類も残してなかったろう。取引先のリストも、薬の調合レシピもだ」


「私たちへの嫌がらせに書類を捨てたのかとも考えたけど、そんな時間はなかったはずよ。マリエッタが言うには、最初っから全部あの子の頭の中に入ってたんじゃないかって」


「いやいや、そんなまさか」


 つい鼻で笑う。取引先のリストはともかく、薬材(やくざい)の組み合わせなんてどれだけあると思ってやがる。熟練の薬師でさえ、お守り代わりに薬材図鑑一式は持っているもんだ。


「……いや、待てよ」


 一代でこの工房を立ち上げたクソ兄貴の娘だけあって、エリンも地頭はいいってのか?


 ふとそんな考えに至り、俺は恐怖する。


「ねぇ……パパ、エリンを呼び戻してくれない?」


 その矢先、エルトナが悲痛な声で言った。


「ば、馬鹿言え、今更どの面下げてそんなことが言える」


 いくら愛娘の頼みでも、それだけは無理だった。


 だからといって、このままだと本当に経営が行き詰まっちまう。なんとかしねぇと……。


 ……その時、工房長室の扉が開き、妻のステラが血相を変えて飛び込んできた。


「あんた、国から請け負った常備薬の納品依頼、不備があったって……!」


「な、なんだと……!?」


「あまりに品質が悪いんだってさ……追加納品が無理なら、今後の取引は考えたいって」


 ……泣きっ面に蜂とは、まさにこのことだった。


「くそ……これから一体、どうすりゃいいんだ……」


 俺は深くため息をつきながら、ただただ頭を抱えたのだった。



お読みいただき、ありがとうございます。

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