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交合の儀式

女性が襲われる描写が苦手な方は閲覧をおやめ下さい

礼拝堂の神像の前では、若姫の祭服を着たリリーが蹲っていた。なぜか栗色の髪が紅く染められている。

大神官の号令で、赤い祭服に身を包んだ神官達がリリーを取り囲む。

ルカもその輪に加わって、これから何が行なわれるのか注視していた。

すると、昨日会ったシレーヌとかいう青髪の女が寄ってきて、「あんた、薬飲んでないね?」と文句をつけてきた。

だからなんだと思って睨むと、

「まあ、いいわよ。」と言うシレーヌが肩に触れ、「めちゃめちゃに汚しておいで」と輪の中心のリリーに方に押し出された。

その途端、イライラした気持ちが湧き上がって、リリーを組み伏せて泣かせたい衝動に飲み込まれてしまった。

頭に血が上って何も考えられぬまま、怯えるリリーを捕まえて若姫の祭服の裾を引き裂いた

シレーヌが手を叩いて喜びの声を上げている。

シレーヌの歪んだ笑顔を見て嫌悪感が湧いた事で一瞬、衝動の奔流から逃れることができた。

すかさず手首に鼻を近付け、ラトナの香油の匂いに意識を集中する。

イライラがすっと引いて、今度はリリーに対する罪悪感に押しつぶされそうになる。

衣服を引き裂かれ、男達の前に肌を晒して、リリーは泣きじゃくっていた。

ルカはリリーにゆっくり近づいて、少し強引に抱き寄せた。

香油の付いた手首をリリーの鼻先にやると、リリーは匂いに気付いたようだった。

これ以上怖がらせないように、そっと耳元に口を寄せて、心から謝る。

申し訳ありません。」

しかし、シレーヌが望む儀式を遂行しないと、リリーをこの場で殺すと大神官が言っていた。

ルカだけは助けるなどと言っていたが、どうせリリーを辱めた末2人共殺す気に違いない。

それでも、この場で火をつけられたり刺されたりするよりは、海上に出た方が生き残れる確率が上がるはずだ。

とにかくシレーヌが喜ぶ見世物を見せてやらねば。

「この交合<まぐわ>いが上手くいかなければ、あなたを短剣で突かなければいけないのです。

どうぞ、力を抜いてわたしを受け入れてください。

ラトナの香油を塗って穢れを祓い、女神に許しを乞いましょう」

リリーに切羽詰まった状況を説明すると、諦めたように頷いて力を抜いてくれた。

ルカは祭服の袂からラトナの香油を出すと、周りに見せつけるようにいやらしい手つきでリリーに塗りたくる。

それからリリーを四つん這いにして覆い被さり、狂ったように腰を振った。

背負った鏡が重くて疲れる。

限界まで頑張って、リリーの上に乗り、体を弛緩させた。

リリーの祭服が破れているとはいえ、お互い服を着たままルカが腰を振っただけだが、シレーヌは上機嫌だった。

ルカが正気に戻っていることに気付いていないらしい。

リリーはルカの下でうつ伏せに体を投げ出して放心している。

ルカは自然にその頭を撫でて慰めた。

しばらくそうしていると大神官がリリーとルカを「蜜月」に連れて行くようにと命じた。

この辺りでは、結婚式を終えた夫婦が狭い小屋で2人きりで過ごす習慣がある。

リリーとルカにもそれをさせるつもりらしいが、連れて行かれたのは香の煙が立ち込める真っ暗な部屋だ。

同僚の神官が「おいルカ、大丈夫か?水飲むか?」と声をかけてきた。

「ここに閉じ込める気なのか?」ルカが聞くと、「明日の昼までと聞いてるぞ。」との答え。

「マジかよ厠もねーじゃん」ルカが吐き捨てると、ありがたいことに同僚が「今行っとくか?」と聞いてくれたので、まずはリリーに水を飲ませ、厠に連れて行った。

リリーにも話は聞こえていたようで、疲れた様子で用足しに行った。

ルカも喉が渇いていたのでコップの水を飲み干し、空のコップを厠に持って行った。

海に出る時、身体を縛られるかもしれないから、コップを割って、破片をを厠にあった手拭いに包んで隠し持った。

部屋に閉じ込められる前、同僚が気を利かせて「壁際に水を置いておくぞ。ここな?」と部屋の隅に水を置いていってくれた。

この同僚のことは好きだった。別れが辛いという程ではないけれども。

リリーとルカで部屋に入り、扉が閉められると、いきなり真っ暗闇になって、自分の手さえも見えない。

ルカは手を伸ばして手探りでリリーの手を握った。

「リリー様、壁際に座りましょうか」

同僚と話していた時とは別人のように取り繕って問えば、「うん」と返事が返ってきた。

少し冷えるので、リリーの身体を包み込むように抱き締めて座る。

「逃がして差し上げたかったのですが、力及ばず、申し訳ありません。」

リリーが頷いたようだ。

「これでは身動きもできないので、少し眠りますか?」

「もしよかったら、少し話したい。」

リリーが不安げに言うので、ルカは聞かれるまま自分の身の上話をした。

ルカは大陸西部、通称「西王国」の伯爵の庶子だ。

母親は旅芸人なのだが、父の伯爵が気に入って屋敷に留めているうちに身篭ってルカを産んだ。

乳が必要な間はルカの面倒をみていたが、ルカが2歳になる前にルカを置いて屋敷を出ていった。

当時伯爵には男子がいなかったため、乳母が付けられ、伯爵子息として扱われた。

しかし、父の正妻に男子が生まれ、3歳まで育つと、ルカは平民の子として神殿に入れられた。

姉・妹もいるので、旅芸人の息子をスペアとして残すより婿を取った方が良いということになったのだろう。

虐待を受けたこともなく、上品な乳母の薫陶を受け、柔らかな物腰も身についた。

ルカは伯爵夫妻にも自分を産み捨てた母親にも悪い感情は持っていない。

むしろ、神殿の神官達の方が嫌いだ。

高位の者達には、「役に立つ大人になれ」と勉強させられ、厨房だけならまだしも宮大工や飾り職人の手伝いも押し付けられて、神事とは無縁の知識と技術がたくさん身についた。

できてしまえばやらされるのが当然で、大人たちから良いように使われた。

艶やかな黒髪と青い瞳を持つ白皙の美少年だったので、貞操の危機に晒されたのも1度や2度ではない。

この神殿で生涯過ごすなど反吐が出る。

還俗するには多額な寄付金がいるから、そろそろ金持ちのお嬢様を誘惑して結婚に持ち込もうと考えていた矢先、太陽神への捧げ物として攫ってきた娘の世話を言い付けられたのだ。


リリーに怖がられないように、襲ってきた厨房の料理人を半殺しにした話などは省いて、適度に可哀想で神殿が嫌いになるようなエピソードを話して聞かせ、ルカはリリーに一緒に逃げようと誘った。

「この部屋を出たら、私たちは恐らく、日没の岩のそばで海に投げ込まれます。もしも生きて海から上がれたら、一緒に遠くに逃げてくれませんか?」

リリーが拒めば一人で逃げるまでだが、それでは寝覚めが悪い。協力して逃げ切りたかった。

「うん。すぐには無理かもしれないけど、必ず生きて家族の所に帰りたい」

「そうですね。いつか必ずラトナタに行きましょう。」

ルカはリリーの強さに感服した。

さすが若姫に選ばれるだけのことはある。

絶対に生き延びて、ラトナタの土を踏ませてあげようと決意したのだった。


真っ暗闇の中、疲れていたリリーとルカはいつの間にか眠っていた。

部屋にやってきた同僚に起こされた。

同僚は皮を剥いていない果物と果物ナイフ、紅茶を運んできて、「俺は忙しいから果物は自分で切ってくれ」と去っていった。

昨日ルカがコップの破片を隠し持ったのに気付いて、もっと役立つ刃物を持ってきてくれたのだろう。いい奴だ。

多少危ないが、縛られた縄を切れるように祭服の袖にそのまま隠した。

それから2時間ほどして、中級と上級の神官が大勢やってきた。

刃物をくれた同僚が、ルカとリリーをそれぞれ縛っていく。縄が食い込まないように手加減してくれているのがわかる。

ルカが「ありがとな。元気でいろよ」と声をかけると、

「お前もな」と言って泣きそうな顔で船着場に向かうルカの背中を見送った。


お読み下さりありがとうございます。


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