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紅蓮将軍、野良猫を拾う  作者: 八葉
第二章 帝国を継ぐ者
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第84話 鉄拳こそが紳士の武器

 場違いなほどに綺麗に晴れ渡った空に噴き上がる真っ赤な血。


「イグニスッッ!!!!」


 レンの悲痛な叫び声が廃都に響き渡る。


(……ヤバい!!!)


 咄嗟に魔力で左肩の出血を止めたファルメイアだが、これは傷を塞いだわけではない。

 ただ押さえているだけだ。出血は止まっているが魔力は消費し続けている。

 そしてこの状態では威力の大きな魔術の集中は不可能だ。

 左手も使えない。利き腕ではないのが不幸中の幸いではあるが……。


(いきなりメッチャクチャ劣勢!! さて、これどうしたものかしらね……)


 戦闘開始直後の窮地に奥歯を噛んだ紅蓮将軍。

 一方で攻撃を終えたギュリオージュも相手に深手を与えながらすぐさま追撃に移ろうとはしなかった。


(あ~……いってー……。マジですか、ジャガーノートで軽減してもこのダメージかよ)


 並みの上位魔術師の攻撃魔術ならほぼノーダメージにできるはずのジャガーノートの突進。

 それで受けたファルメイアの魔術は彼女のすぐに次の行動に移れないほどのダメージを与えていた。

 見た目は大したことはなさそうなのだが全身に激しい痺れのようなものが残っており若干のフラつきがある。


 そして、その事をファルメイアを見抜いていた。


(ダメージは入ってるか……。よし、行くしかないわね!)


 反転攻勢に入る紅蓮将軍。

 肩の傷を押さえながらでは大きな魔術を行使することはできない。

 その分は手数でカバーする!


(うおッ! 来やがりましたよ!! 効いてるのがバレてるなこれ!!)


 中級魔術を乱打しながら向かってくるファルメイア。

 それを迎撃するギュリオージュ。

 先ほどまでとは攻守を入れ替えた攻防だ。

 現在の所、両者は互角。


 だが……消耗を続け回復の見込みはないファルメイアに対し戦いながら徐々に復調していっているギュリオージュ。


 状況は紅蓮将軍にとっては極めて不利であった。


 ─────────────────────────


 氷の巨体が華麗に宙を一回転する。


「ぬゥゥゥゥゥん!!!! 紳士的(ジェントル)垂直落下式脳天砕き(ブレーンバスター)!!!!」


 アイスゴーレムの首を掴んで抱え上げたアドルファス。

 そのまま頭を下にして地面に叩き付ける。

 轟音が響き渡り砂煙が上がった。


 その向こう側にムクリと起き上がってくる巨体のシルエットがある。

 ……二体だ。


「ハハハ……おいおい、耐えてるよ。天魔七将の攻撃に持ちこたえてるよ、俺」


 虚ろに笑っているアイザック。

 アドルファスは険しい表情をしている。

 この技ならば内部の本体に衝撃が通るかと思ったのだが……。

 どうやらあのゴーレムのボディはショックをいかなる方法でか内部の創造者に通さない仕組みになっているようだ。


 アイザック・バロールという男は元々才能は評価されていた男であった。

 まともに勤め上げてさえいれば今頃はいずれかの師団の副長クラスにはなれていた事だろう。

 だが、そうはならなかった。


 上官の妻と不倫して露見した。

 後は軍用費の横領もあった。

 不倫は相手から持ち掛けられた。

 横領は主導したのは別の士官だ。なんとなく仲間にされてしまって犯行に手を貸した。


『流されやすい小悪党』……それがアイザックの本質だった。


 流刑地同然のダナン大要塞に追いやられて十五年。

 気づけば長官になっていた。

 そこへやってきたのがギュリオージュだ。

 実権はあっという間に奪われ彼女の小間使いのようになった。


(あ~あ、ちっくしょ……その場その場で適当に流されて生きてたらいつの間にか呪いの砂漠で七将と戦ってるとか冗談キツすぎるぜ……)


 大きな野心も向上心もなく、今の自分がやれる範囲で生きていければそれでいい男、アイザック。

 流されるままに生きているのでなんとなくで悪事にも手を染めてしまう男、アイザック。

 そんな男が手にした強化アイスゴーレムは皮肉にも天魔七将と互角に戦えるだけの兵器であった。


「……よろしい」


 突然アドルファス将軍が鎧を脱ぎ捨て始めた。

 がしゃんがしゃんと音を立て彼の足元に鎧のパーツが転がっていく。


「……え? え? 何?」


 呆気に取られるアイザックの前でさらにインナーも引き裂いて破り捨てる。

 傷だらけの鋼の肉体が外気に晒された。


「君を強敵と認め、真なる紳士力にてお相手致しましょうか」

「いやいやいや! いいです!! いいですってそういうの!! もうちょっとユルい感じでいきましょうよ!!? ねえ!!!???」


 アイスゴーレムの中で真っ青になったアイザック。

 ゴーレムが必死に首を横に振っている。


『次』を考えながら戦ってどうにかできる相手ではないと白輝将軍は覚悟を決める。


(EX)紳士的(ジェントル)筋肉(マッスル)ッッ!!!」


 アドルファスの雄叫びと共に彼の上体がボコンと肥大化した。

 超紳士的筋肉とは、白輝将軍アドルファスが普段の生活で蓄積した紳士力(?)を筋肉に充填し(?)破壊力を爆増させる奥義である。

 各所に太い血管を浮かせ、メキメキと音を立てながら筋肉を肥大化(パンプアップ)させつつ拳を振りかぶるアドルファス。


「……は、ハハ……死なねえ、俺は死なねえぞ……。死んでたまるか、こんなとこでよぉ」


 引き攣り笑いを浮かべながらもアイザックは迎撃体勢に入った。

 アイスゴーレムの両腕の先が鋭い刃物に変化する。


「俺はただ……ただ適当に楽に生きていきたいだけなんだよ……それをこんな、こんな命がけの仕事させやがって。誰が悪いんだよこれぇ!? 俺かぁ!? 俺ってことはねえよなあ!?」


 呟きは段々と悲鳴に変わっていった。

 叫びながらアイスゴーレムは走り出す。

 拳を振りかぶるアドルファスに向かって突進する。


「俺はクズだけどさぁ……ここまでの目に遭わなきゃいけない程の悪党じゃねえだろうがよぉぉぉッッッ!!!!!」


 カッ!! とオークの王が目を見開いた。

 その彼の腹部に氷の刃が飲み込まれる。

 やったぞ……と、その一瞬アイザックの引き攣り笑いが喜悦のそれに変化したが……。


 だが……紳士は止まらない。


「『究極・(アルティメット)紳士的鉄拳制裁(ジェントルナックル)』ッッッ!!!!」


 究極の鉄拳が氷の巨兵の胸部中央に炸裂した。

 ……だが、巨兵に変化は見られない。


(……耐えたッッ!!! やったぜッッッ!!!!)


 内部のアイザックが声なき喝采を上げた……その時。

 ビギッッ!!! と音を立てて放射状のヒビがゴーレムの中心部から広がった。


「ああ……そりゃ……やっぱ、こうなる……よな……」


 涙目で虚ろに呟いたアイザック。

 次の瞬間、彼は粉々に砕け散ったゴーレムと共に彼方へと吹き飛ばされて消えていった。


「ぬぅッ……!!」


 それを見届け、アドルファスがその場に片膝を突く。

 彼の腹部にはもげたゴーレムの腕が生やした氷の刃が埋め込まれたまま残っていた。


 ……帝国軍でも屈指の『志のない男』が破れながらも天魔七将に深い傷を与えていたのだった。


 そして、吹き飛んで消えていったアイザックは……。


 彼は廃都を飛び出し外側の砂漠まで飛んできていた。

 無数の巨大な氷片と共に砂漠に落下するアイザック。


「ああぁぁッッ!!! くっそ……いってぇ……痛えよお……。だけど、生きてる。……生きてるぞ俺はぁッッ!!!」


 ボロボロで血塗れながらもアイザックは空に向かって叫ぶ。


 そんな彼の周囲にフラフラと集ってくる者たちがいた。

 ……古代の兵士のゾンビである。


「は? え? オイ……洒落になってねえって……」


 青ざめるアイザック。

 ゴーレムの創造は大量の魔力を消費する為、彼の魔力は今限りなく枯渇に近い状態である。

 しばらくの間次のゴーレムを作り出すことはできない。


「ここまで生き延びてこんなやつらにやられてたまるかよー!!!」


 悲鳴を上げながらゾンビたちから逃げていくアイザックであった。




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