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紅蓮将軍、野良猫を拾う  作者: 八葉
第一章 炎の記憶の復讐者
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第45話 水着でGO

「海だーーーーーッッ!!」


 誰かが叫んでいる。

 紅蓮師団の誰かだろう、よくわからない。

 浜辺に出てきている師団員が大体全員はしゃいでいるので誰が叫んだとしてもおかしくはないのだった。


「……………………」


 立ち尽くすレン。

 手には大きなビーチパラソルを持って。

 白いパーカーを裸身に羽織ってハーフパンツタイプの水着を着ているレン。


(あれ……?)


 何でこのような状況になっているのか? 心の中で首を捻るレンである。


「ちょっと……レン! さっさとパラソル立てなさいよ! あんたの大事な大事な御主人様が日焼けしたらどうするつもりよ」


 両手を腰に当てて文句を言っているファルメイア。

 深紅の髪の主人は白いフリルの付いたビキニ姿だ。

 相変わらずの美少女っぷりに文句の付け様のないプロポーション。

 きっと彼女を創造した神サマはその時『ちょっとそういう気分だし、盛れるだけ盛っておくか?』みたいな気分だったのだろう。美貌とか、知性とか、魔術の才能だとか……とりあえず乗っけられるものは全部乗せておきましたみたいな人である。


「レン! アタシも手伝うよ。二人でやろうぜ」


 輝く笑顔で近付いてくるヒビキ。

 彼女は大きなブリムの麦藁帽子を被っており水色のビキニタイプの水着を着ている。腰に付けたパレオも水色で白い花柄だ。

 こちらの美少女の水着姿も同年代の男性なら見たら確実にクラッとするであろう。

 普段の男勝りな振る舞いで忘れがちではあるものの、改めてこうやって『女の子』を全開にした彼女の破壊力もかなりのものである。


 どうしてこのような事になっているのだろう……?

 今一度そこの所を思い返してみるレンである。


 全ての陰謀を仕組んだ黒幕の正体へ迫る為に帝都を離れたファルメイアたち紅蓮師団。

 今回師団が巡察を行うのは帝国内の三つのエリアである。

 その為ファルメイアは巡察隊を三つに分けた。

 それぞれが担当エリアの各都市を回ることになる。


 分隊の一つを率いるのは副長ミハイル。もう一つの分隊も信頼できる将官が率いている。


 出発が決まり準備の最中、近衛衆ジンシチロウがヒビキを連れてファルメイアを尋ねてきた。


「この度の巡察行、是非に響もお連れ頂きたい。本人もそれを望んでおります」

「かっ、必ずっ! 必ずお役に立ちます!! ファルメイア様……どうかアタシも!!」


 頭を下げる親娘に考えた末にファルメイアは了解を出したのだった。


 ヒビキが刺客に襲われ大怪我をしてからは十日ほどが過ぎていた。

 傷はすぐに治療され完治していると聞いていたのだが……その時のヒビキは全身包帯と絆創膏に覆われていた。その事が気になるレンである。


 かくしてヒビキを伴ったファルメイアの紅蓮師団本隊はバカンスの名所として名高いこの帝国南東の海洋都市ヒューターへとやってきたのであった。


「……いいんですかね」


 ファルメイアを団扇で扇いでいるレン。

 主人は今パラソルの下、折りたたみ式の大きな木製デッキチェアで優雅に寝そべっている。


「いいに決まってんでしょ。ワーカホリックじゃないんだから。仕事するときはキッチリ仕事して、遊ぶときは思いっきり遊ぶ……それがデキる奴の条件よ」

「でも、他の皆が……」


 エリアが違うので海には行けない他の分隊の者たちを思うレンだ。


「他の連中にだって空き時間は好きに使っていいって言ってんだから大丈夫よ。ミハイルだって今頃山登りを楽しんでるでしょ」


 はん、と肩をすくめて見せる紅蓮将軍サマ。


 ──一方その頃。


「本当に行かないんですか? 副長」

「山登りいいっすよ?」


 ガチガチの登山装備で全身を固めた紅蓮師団登山部のメンバーが残念そうに言う。

 何故か全員がムキムキムチムチの髭の濃い大男ばかりである。


「行くわけねぇぇぇでしょうがよぉぉぉ!! なぁにが悲しくてプライベートで山登りしなきゃいけねぇんだよぉぉぉ!!!」


 ミハイルの絶叫は半ば悲鳴であった。


「頂上からの景色最高なのになぁ……」

「途中で食べるご飯も美味しいんだよね」


 名残惜しそうに登山部が出発していく。


「くっそぉ~……海行った連中は今頃ビーチでキャッキャウフフしてやがんのかぁ? 許せませんよドチクショウが……どうかアイツらがいった浜に海坊主が出ますように」


 海の方角に向かって祈り、怨念を飛ばすミハイルであった。


 ──そして浜辺。


 小さな熊手とバケツを手にした引き締まった肉体の男たちが集っている。


「よーし、大物を獲るぜ」

「ほぉ? 部内ナンバーワンの座を賭けて勝負といくか?」


 わいわいと波打ち際に向かう男たち。

 紅蓮師団潮干狩り部のメンバーであった。


 そんな彼らを眺めていたファルメイアがデッキチェアから立ち上がる。


「折角来たのにただぐでーっとしてるだけっていうのも虚しいわね。よし、泳ぐわ。付き合いなさい」


「……あ、はい」


 さっさと波打ち際に向かったファルメイアを追って小走りで駆け出したレン。

 その後ろには当然のように無言でヒビキが付き従う。


 そして彼らは三人で泳いだり水を掛け合ったり波打ち際で波と戯れたりして過ごした。


「はーっ……! くたびれたわ。でも楽しかったわね」


 再びデッキチェアに戻ってきたファルメイアがその上で伸びをしている。

 初めはあれこれ考え込んでいたレンであったが、いつの間にか純粋にビーチリゾートを楽しんでいた。その事に彼は今気が付く。


「……ん」


 目を閉じた主人が軽く顎を上げる。

 ……これは、彼女がキスをねだる時の体勢である。

 そろそろ陽の傾きかけた浜辺。

 恋人と口付けを交わすには絶好のシチュエーションかもしれない。だが……。


「いや、その……ええと……」


 慌てるレンが隣を見る。

 口元に手を当て……何やら危うい物を見るかのように動揺しまくったヒビキが自分たちを凝視している。


(できん!!!)


 ここでキスに行けたらそいつの心臓には針金のような剛毛が生えているに違いない。

 残念ながら自分のハートは標準タイプのようだ。


「何をヘタレてんのよ。あんたのそういう所は本当に直らないわね」


 痺れを切らしたファルメイアが口をへの字にしている。


「無理でしょ、どう考えたって……」

「あ~ら? これはまたケダモノのレンちゃんらしくもないお言葉ね。……ねえ、知ってる? こいつ()()の時すっごいのよ。私なんかもー、歯型と爪痕だらけにされちゃってさ~」


(してませェェェェェェェん!!!!! それ、俺された方!!!!!!!)


 悪い笑顔で大袈裟に肩をすくめて見せている主人に、脳内で絶叫するレン。

 だが実際にその叫びは喉から出てくることはない。


「あ、あぁ……歯型!? ……そんな……そんな……レン、お前」


 ガクガクと震えているヒビキ。

 瞳を潤ませ、酸欠になるのでは?と思うくらい呼吸を乱している彼女。

 口の端から少し涎が出ちゃってるのは見なかったことにしたいレンだ。


「よ、よし、アタシだって負けちゃいられないぜ……。アタシに噛み付いてこい! レン!! 蹴ったり棒でぶったりしてもいい……!!!」

「しないよ!!!!!?? むしろお前が俺をどうしたいんだよ!!!!!」


 今度の悲鳴はきちんと声に出ている。

 一体彼女の脳内の自分はどういう残虐プレイを好む極悪ヤロウなのだろうか。

 イメージの齟齬が甚だしいので早急に修正をお願いしたいレンである。


(お父さん。お父さんごめんなさい。……でもこれは俺のせいなんでしょうか?)


 夕陽の空を遠く見やるレン。


 茜色の空に浮かんだイマジナリージンシチロウパパは


『はっはっは、ちゃんと責任とってね』


 と爽やかな笑顔で言うのであった。


 そして沖のほうでは呼ばれた気がして顔を出したものの出て行くタイミングを逃した海坊主が寂しそうな目で浜辺を眺めているのだった。



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