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君の音色に惹かれて

作者: かふぇ。

君の音色に惹かれて


松山栞:(まつやましおり)18歳。音楽の神に愛された天才と名高い少女。音楽大学付属の高校に通う超エリート。おしとやかで華麗な雰囲気をかもし出しているが、我が強く、意外とワガママ。完璧主義者。

響澄詩:(ひびききよし)16歳。ピアノが好きすぎる努力家。公立の普通の高校に通っている。マイペースだが、好きなものはとことん。座右の銘は一生懸命。

瀬野先生:松山栞が通っているレッスンの先生。ゆるふわレディだか教えるセンスが神がかっていると有名。セリフはありませんが一応ご紹介。


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


響♂:

栞♀:



┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


響:(M)空には厚い雲がはり、雨が降り続けるある日。立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花。そんな言葉が似合う女性に出会った。

響:もちろん、一目で恋に落ちた。

響:ステージで見たピアノを弾いている彼女は一際輝いていて、まるで花畑の中で妖精たちと戯れているようだ。

響:僕はきっとこの日のためにピアノを弾き続けていたんだ。


栞:(M)ピアノに触れてもう何度目の梅雨がやってきただろうか。いつしか私はコンクールで上位に入ることしか見えてなかった。

栞:梅雨入りのニュースを見ると思う。今年もまた、予選の季節がやってきたんだと。私の唯一の生きる糧。唯一の輝ける場所。

栞:今年こそ・・・1位にならなければいけないんだ。


栞:君の音色に惹かれて(タイトルコール)


響:あの!えっと・・・そこの!春色の!ドレスの人!

栞:・・・

響:えっと!・・・華麗なる大円舞曲!の!

栞:・・・私・・・?

響:そう!あなた!あなたお名前は・・・!!

栞:松山・・・ですけど。あなた誰・・・?

響:響!響澄詩!

栞:・・・?なにかご用でしょうか・・・

響:あなたの演奏めっちゃ素敵でした!

栞:そう。ありがとう。でも当たり前だから。

響:率直にいうと一目惚れしました!!!

栞:・・・そうですか。それはおめでとうございます。では。

響:待って!!

栞:・・・はぁ。まだなにか。

響:連絡先・・・っいや、どこのスクール通ってるか教えてくださいっ!!

栞:・・・嫌。さよなら。

響:あぁっ!待って!

0:栞走り去っていく。

響:行っちゃった・・・


栞:(M)なんだか、変なやつに目をつけられた。本選の譜読みをはじめようとドレスから着替えて更衣室をでたら、さっきの男がどこで聞きつけてきたのか私が通っているレッスンの先生に声をかけている。・・・やば・・・ストーカーじゃんそれは。


響:!松山さん!!

栞:・・・なんですか。

響:僕!あなたと同じレッスン教室に移籍しました!響澄詩です!よろしくお願いします!

栞:さっき聞いた。

響:それにしても素敵な人がいる教室は先生も素敵な人なんですね!快く受け入れてくれましたよ!僕もあなたみたいな素敵な演奏を・・・

栞:(食い気味に)黙ってくれる?

響:!

栞:いろいろ言いたいことはあるけど、まず、そんな簡単に私のような演奏ができるとでも思う?

響:・・・?

栞:あなた。ほんとに世間知らずなのね。今に分かると思うわ。

響:待ってください。

栞:・・・なに?

響:僕も曲りなりにピアノを触ってきたものです。なぜそんな事が言いきれるのですか。

栞:・・・そんなに気になるのなら今回の自分の演奏を聞き返す事ね。それでも同じことが言えるなら大したものよ。

響:自分の演奏を・・・聞き返す?

栞:そうよ。・・・もしかして聞き返した事ないの?

響:・・・ないかも。コンクールの時に少し聞き返すくらいで。

栞:呆れた。自分がどんな世界を聞いてくださる皆様に届けているか知らないでこの場にいるだなんて。

響:世界?

栞:そう。音楽はいろいろな世界を提供する場だと私は思っているわ。

栞:季節、外国、異世界、喜怒哀楽・・・楽譜にはいろいろな思いや情景が篭っているの。それを届けるのが私たちの義務。

栞:楽譜をただおってるだけなんてそんなんだから本選にも上がれないのよ。

響:こっ今回は予選落ちですけど・・・

栞:今回はって、今まで上がったことないでしょう?どうせ。

響:・・・そうですけど・・・

栞:そんな人が、瀬野先生のレッスンを受けるなんて猫に小判だわ。身の程を知りなさい。

響:っ・・・


響:(M)僕が恋した人はとても可憐で、花のようだが、恐ろしい程鋭いトゲを持った人だった。

響:彼女が言った通り自分の演奏を聞き直してみた。ミスタッチも多いし、確かに楽譜をおっているだけだ。彼女の演奏を聞いた時のような高揚感はまるで無い。

響:彼女を振り向かせるには心に響く演奏が出来なきゃだめだ。

響:それから僕は我を忘れて無我夢中でピアノを弾き続けた。気がつけばとっくに梅雨は明け、蝉の声が鳴り響く季節になっていた。


栞:・・・あなた、そろそろ変わってくれない?

響:えっ

栞:次のレッスン。私の番だから。

響:!松山さん!

栞:というか、まだいたのね。

響:当たり前ですよ。瀬野先生のレッスンは厳しいですが身になるものが多すぎます。こんないい教室そう簡単に辞めませんよ。

栞:・・・そうね。よく分かってるじゃない。

響:あっ次レッスンですよね!変わります。

栞:まって。

響:?

栞:これ。

響:・・・楽譜?

栞:そう。

響:シングシングシング?

栞:ええ。

響:・・・見る感じ連弾のプリモの楽譜ですけど・・・これ、どうしたんですか?

栞:・・・瀬野先生主催の秋の演奏会。知ってるでしょ?

響:はい。今その曲を練習中で・・・

栞:これも。練習しなさい。私は全国大会があるからソロではでないけど、連弾で出させていただけることになったの。

響:松山さん全国行くんですね・・・!さすがです。で、これセコンドは誰なんですか?

栞:私よ。

響:・・・

栞:なに?不満かしら。

響:・・・いやぁ松山さんでも冗談言うんだなって。全国大会行くって言ってたし・・・なにより、松山さんのレベルだったらプリモでしょう。

栞:上手い人がセコンドにまわる連弾もあるし、第一に最初から思っていたけどあなたペダル下手くそすぎるもの。

栞:ペダルの技術は音楽の表現力を高めるためには必要不可欠。そういう意味で瀬野先生は私とあなたの連弾を組んだのだとおもうけれど。

栞:それに、あなたの練習レベルが停滞してるから私と連弾させることでスキルアップを図られたんだと思うわ。

響:・・・

栞:どう?納得した?

響:・・・僕、これめっちゃ弾きこみます。

栞:そうね。じゃないと悪目立ちするわよ。

0:間

栞:・・・それにしても瀬野先生遅いわね。

響:ですね。もうレッスン開始時刻なのに

0:栞の携帯がなる

栞:あら?

栞:はい、松山です。あっ瀬野先生!・・・えっ・・・それは大変ですね。私のことはいいですから、娘さんについててあげてください・・・はい・・・はい・・・。失礼します。

響:・・・瀬野先生何かあったんですか?

栞:娘さんが急に熱が出たんですって。

響:え・・・

栞:仕方ないわ。スタジオはそのままかりてていいみたいだから今日は自主練に・・・

響:(食い気味に)じゃぁこれ!・・・練習しましょうよ。せっかくだし。

栞:・・・いいけど。あなた初見でしょ?弾けるの?

響:任せてください!これでも小さい頃からピアノ弾いてたんで。

栞:・・・ふぅん。言うじゃない。まぁ最初に合わせといた方が雰囲気も掴みやすいしね。

響:パイプ椅子取ってきますね!!

栞:ありがとう。

0:間(栞が指馴らしにピアノを触っている)

響:・・・(小声で)指馴らしから上手いなんて反則ですよ・・・

栞:何か言った?

響:いえ!なにも!やりましょ!!

栞:?ええ。じゃ行くわよ。

響:(M)そこから先はもうよく覚えていない。左隣からえげつない低音の波が押し寄せてくる。ちょっと油断すると僕の演奏なんか飲み込まれてしまいそうだ。

響:すぐ側に好きな人がいるという事実を吹っ飛ばしてしまう程圧倒的な実力差。ついて行くのに必死すぎてなんどミスしたかも分からない。

響:一回目の合わせをしただけなのにとてつもない絶望感に見舞われた。自分は下手くそなんだと。もう、そのことしか心に残っていなかった。

栞:・・・まぁ初見でここまで出来れば上出来じゃないかしら。余裕なかったみたいだけど。

響:は・・・?

栞:私も荒かったから、もう少し詰めなきゃダメね。今はもう大会真近だからできないけれど、余裕があったらまた一緒にやりましょう

響:ダメだったのは僕じゃないですか!

栞:・・・

響:プリモが音立てなきゃいけないのに全然立ってなかった。ミスタッチもしまくった!初見だとしても・・・もっと出来た・・・

0:間

栞:・・・ちょっと見直したわ。

響:へ?

栞:あなた、名前は?

響:響・・・ですってば・・・

栞:そう。響。まんねん予選落ちって言ったの取り消す。あなたきっと大物になるわ。

響:え・・・

栞:私と連弾をしても『松山栞には敵うわけない。飲み込まれても仕方ない』と諦める人ばかりだった。私が合わせてあげないとなって思ってた。私と連弾をして悔しそうにしたのはあなたが初めてよ。

栞:(微笑んで)私は初めて、連弾で本気を出せるかもしれないのね

響:・・・!!

栞:連弾の話が出た時は正直乗り気じゃなかったの。全国大会も近いのになんでって思った。でも、楽しくなりそうでわくわくしてる。頼むわよ。響。

響:・・・はい!!

栞:私もあなたの雰囲気に合うように調整したいから

響:(食い気味に)それは大丈夫です。

栞:え

響:僕が松山さんに合わせます。シングシングシングって優しい曲ではないと思うので松山さんが弾いたように少し荒々しいくらいで丁度いいと思うんです。

栞:ぷっ・・・あはははははっ

響:えっ?

栞:響・・・あなた凄いわ・・・!わかった。私は私の全力のセコンドを持ってくる。でもね、連弾ってあくまで2人で1つの曲を作るのよ。擦り合わせは必要になってくると思うからまたお互い時間合う時に合わせましょう?・・・これ。私のレッスン表。

響:あ・・・これっ僕のです。

栞:・・・見た感じ土曜日がレッスン被ってるわね・・・この時間ならレッスン後にほかのスタジオ借りて出来ると思う。

栞:私は他の練習もあるから合わせるのは1ヶ月に1回かな。今月はもう全国大会の曲を詰めたいから連弾はお休み。それを抜いても秋の演奏会までは3ヶ月あるから3回は確実として、本番前のレッスンは絶対2人でのレッスンだと思うから計4回かな。リハーサルは擦り合わせって言うより確認作業だからそれはカウントしない。

響:はい。

栞:目標はここの、演奏会前最終レッスンの時に瀬野先生に有無を言わさない演奏を持っていくこと。

響:えっそんなこと

栞:出来る。私だから。

響:・・・松山さんって

栞:しおり。栞でいいわ。

響:栞・・・さん。

栞:うん。なに?

響:どうしてそんな自信に溢れてるんですか?

栞:事実だから。

響:・・・

栞:なに?その顔。

響:いや・・・栞さんって凄いなって。

栞:・・・なにが?

響:人より優れていても、練習量が半端なく多くても、それでも飄々としていて。

栞:そうかしら。私より練習してる人いっぱいいると思うけど。

響:そうかもしれないですが・・・自分の才能に自惚れないというか。僕がそんな才能を持っていたら、自分の才能に溺れてしまうような気がします。

栞:・・・私なんてまだまだよ。

響:栞さんでまだまだなら僕どうなるんですか。

栞:知らない。

響:・・・僕、栞さんよりいい演奏します。

栞:え、なにその急な宣戦布告。

響:なんか闘志燃えてきました。

栞:・・・そう。じゃっ私も負けない。

響:言いましたね。

栞:んーっ(気持ちよさそうに伸びる)なんか楽しくなってきた!全国大会の曲よりこっちを練習したい気分。

響:それはやめてください

栞:もちろん。全国大会の曲も完璧にする。

響:さすがです。

栞:よっしゃー!やる気出た!ありがとう!

響:こちらこそ、いっぱい話せて楽しかったです!

栞:私は残って全国大会の曲を詰めなきゃ。また来月、会いましょう。

栞:(M)そこからの彼の成長は目覚しかった。当の私はコンクール入選止まりだというのに、彼は連弾を合わせる度に技術が上がっているのがわかる。

栞:あんなにひ弱な演奏をしてた彼が立体的な音を奏でるようになった。

栞:私の演奏の後ろを追いかけるだけだったくせに、油断したら飲み込まれそうになる。こんなひりつく演奏は久しぶりだ。自然と笑みがこぼれてくる。音に体が乗っていることがわかる。あぁ・・・そうだ。音楽って楽しいんだ。

栞:・・・コンクールでもこんな風に心から楽しんで演奏出来ていたら・・・結果は変わっていたのだろうか。

0:間

響:・・・緊張しますね。

栞:そう?

響:・・・栞さんって緊張しないんですか?

栞:全国大会では少ししたけど。今は全然。

響:だって僕、前の教室でも音楽発表会出ましたけどこんなにホール広くなかったですよ・・・。

栞:そりゃ、瀬野先生主催だもの。今日の音楽祭は・・・5つの教室の子達が集まってるわね。先生たちは瀬野先生の昔の同級生みたい。

響:ひぇ・・・

栞:何情けない声出してんのよ。男でしょ。

響:男でも情けない声くらいでます!

栞:そんなことで威張らなくても・・・

響:はぁぁ・・・このお昼休み終わったらもう僕らの発表かぁ・・・ソロもボロボロだったのに栞さんの足引っ張ると思うと・・・やば。緊張してきました。

栞:さっきから緊張してるじゃない。それに、そんなにソロ演奏ボロボロじゃなかったと思うけど。最初の頃に比べれば。

響:・・・でも僕的には納得いってないんです・・・20くらいミスタッチしたし、もっと表現できたなぁって思う・・・

栞:・・・あなた耳だけはいいわよね。

響:なんかご飯も喉通らないですよ・・・

栞:・・・はぁ。しょうがないなぁ。手。だして。

響:?

0:栞が響の手を思い切り両手で叩く。

響:いっ・・・たぁ・・・

栞: ソロのことは後で聞いてあげる。今は連弾のことだけ考えなさい。

響:ごめん・・・なさい・・・でもそんな思い切り手叩かなくても・・・手は命

栞:(食い気味に)ソロはどうやって練習してたか知らないから何も言わない。けど連弾は、相当練習してきたと思う。最初の合せより格段に上手くなってる。音楽祭のラストレッスン瀬野先生に何も言わせなかったじゃない。それは私だけの力じゃない。わかるわね?

響:・・・はい。

栞:あなたもここまで成長した。ビックリするぐらい急なスピードで。そんなの才能がなければ出来ることじゃない。

響:・・・あの・・・手・・・離さないの

栞:(食い気味に)いい?私はあなたを信じてる。絶対上手くいくわ。

響:・・・はいっ。

栞:いい子。

0:栞の手がそっと離れる。

栞:あっそうだ。これもあげる。

響:・・・アーモンド?

栞:そうよ。ナッツにはリラックスできる成分が入ってるらしいの。風の噂程度だけど。

響:・・・ありがとうございます。

栞:いいのよ。あとさ。

響:・・・?

栞:・・・敬語。やめなさいよ。

響:えっ

栞:敬語。

響:でも・・・

栞:私はあなたを尊敬してる。こんな短期間でこんなに上達するなんて、才能があるに決まってるもの。尊敬してる人に敬語使われるなんて嫌。

響:・・・わかった。

栞:飲み込み早。

響:それが僕の取り柄でもあるから。

栞:ふふっ・・・だいぶ顔がほぐれて来たわね。

響:栞さんのおかげ。

栞:じゃ行けるね。ステージ。

響:うん。

栞:あっそうだ。

響:なに?

0:栞が響のおでこに唇を落とす

栞:(出来たらリップ音無理だったら響のセリフへ)

響:へっ?!

栞:・・・おでこにキスしたくらいでたじろがないでくれる?

響:いやったじろぎますよっ!!

栞:ばーか。

0:栞走り去っていく。

響:(M)なんなんだ・・・あの人は・・・心がぐしゃぐしゃになる。こんなんでまともな演奏が出来るわけないじゃないか・・・

響:と思っていたが、僕たちの連弾は驚く程上手くいった。

響:手を叩かれたおまじないのおかげなのか、はたまたナッツの効果なのかはわからないが驚く程にリラックスして弾くことが出来た。

響:今までで1番上手く弾けたのではないだろうか。隣で弾く栞さんもノリノリだ。

響:・・・その姿はなんだかとても楽しそうで、花というより、落ち葉で遊ぶ少女のようだった。

0:間

栞:んーっ楽しかった!久しぶりにピアノ弾いて楽しかったって思った。ありがとう響。

響:いや。僕はなにも・・・でも、僕も楽しかった。なんか未来見えました。

栞:未来?

響:未来。

栞:そう。よくわかんないけどおめでとう。

響:えっもっと詳しくとか聞いてくださいよ。

栞:・・・敬語。完全に剥がすならいいよ。

響:あっ・・・つい。

栞:で?なによ。未来って。

響:いや、隣で弾いてる栞さん見て思ったんだ。弾く曲によって人ってこんなにも変わるのかって。

栞:ふぅん。

響:そんな人たちを見続けていたい。なんなら僕の伴奏で支えることが出来たらサイコーだなって。

栞:そうね。

響:将来の夢?的な感じ。

栞:・・・素敵な夢だと思う。現に、あなたとの連弾はとても楽しかった。そうだ、音楽って楽しいんだったって思い出すことが出来たの。

響:えっ

栞:あなたなら、きっと素敵な伴奏者になる。応援するわ。

響:・・・ありがとう。それで、アンサンブルのレッスンを受けられる教室を探そうと思うんだ。

栞:いいじゃない。

響:でもひとつ懸念がある。

栞:なに?

響:・・・あなたと一緒にいられなくなること。

栞:!

響:・・・僕、今でも

栞:待って。

響:え・・・

栞:それを聞いたら、私の決心が鈍る。

響:・・・?

栞:私、来年留学を視野に入れているの。

響:留学・・・

栞:そう。今通っている付属の大学に入ったらね。日本に思い残すことがあったら、思い切り勉強出来ないと思って。色恋沙汰は避けてきたの。

響:・・・そうだったんだ・・・何も知らずに・・・僕は・・・

栞:いいの。私も自分の心に嘘をつくのは嫌いだから言うだけ言うわ。

響:・・・?

栞:響。あなたが好き。

響:・・・!

栞:私のレベルに合わせて連弾をしてくれた。なにより、私に音楽の楽しさを思い出させてくれた。演奏家として、人として、あなたを好きになってしまった。

響:・・・僕だって、あなたが好きだ。ずっとあの予選の頃から変わらない!いや・・・出会った時よりずっと・・・好きだ・・・

栞:・・・はぁ。言っちゃったわねお互い。

響:これから会いづらくなるのに。

栞:・・・そうだ。これあげる。

響:ピアノの・・・キーホルダー・・・?

栞:そう。再会できるようにお守り。

響:再会できるお守り・・・

栞:そうよ。(深呼吸)はい。今のことは記憶から抹消して。

響:えっ?!

栞:私たち、ピアノ奏者だけど全然違う道を歩むのよ?今日の出来事が枷になったら嫌。私も、あなたも。

響:・・・うん。

栞:・・・また、いつか同じステージにあがることがあれば、その時、語らいましょ。

響:・・・同じステージ・・・

栞:あなたなら来れるわ。連弾であそこまで弾けたんだもの。ソロでも、アンサンブルでもいい。私のレベルまで、駆け上がって来なさい。

栞:・・・そしてまた、今日のように連弾しましょ。大きなホールで、会場を観客でいっぱいにして!

響:・・・素敵だ。

栞:でしょ?約束してくれる?

響:もちろん。

栞:・・・ありがとう。待ってるわ。響。

響:・・・ストーカーだって怒らないでよ?

栞:まだ気にしてるの?細かいわね。

響:結構気にしてる。

栞:悪かったわ。だって、ほんとにストーカーじみてたんだもの・・・

響:失礼な。

栞:ふふっ・・・

響:ぷっ・・・

0:栞と響の大笑いが空高く響く。


0:ー終演


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