霊的存在の無電(ラジオ)へのアプローチについての考察
まず始めに謝らせてください。
論文めいた題名に期待された方には申し訳ないのですが、今からするお話は理論的なものではなく、むしろ与太話に分類されるような内容でございます。
そんな事情にも関わらずこんなタイトルにしたのは……、ひとえにあなた様を釣るため、一人でも多くの人に読んでいただきたいからついた嘘、でございます。
あぁ待ってください!
ブラウザバックしないでください!
期待を裏切るようなことをしてしまったのは申し訳ございません。
気分を害されたのも重々承知ではございますが、ここはぐっとこらえて読んでいただきたいのです。
与太話ではありますが、一応今回の題名に関する話ではありますので。
ワタクシが嘘偽りなく、誠意をもってお伝えいたしますから、何卒、何卒。
……どうやら読んでいただけるようで、誠にありがとうございます。
それでは早速、お話しさせていただきます。
怖い話の中で無電を扱ったものがございます。
例えば電源のついていない無電から人ならざる者の呻き声が聞こえる話、無電から死んだ人間の声が語り掛けてくる話などといったものなどです。
身の毛のよだつ話の数々。
これ、冷静に考えるとおかしくありませんか?
もしこの話を鵜呑みにするのであれば、それは幽霊が無電電波に介入していることになるではありませんか。
そんなことできるのでしょうか。
いや、分かってはいるのです。
幽霊だから面妖な力を持ち、それで電波に小細工をし、無電を動かしてもおかしくないだろうという前提があることは。
ただそれにしても限度がある、とワタクシは考えるわけです。
いくらアナログな家電といえど、中身は精密機器の造りなわけでして、それをポッと出の幽霊が都合の良いように使えてしまったりした日には、無電関係の技術者様たちが悔しさでそれこそ化けて出てくるとものでございましょう。
ですからワタクシは無電から幽霊の声がするというのは嘘、だと思っているのです。
あぁ、そんなつまらなそうな顔をしないでください。
お気持ちはわかりますが。
折角怖い話を読もうと思ったら、まさか幽霊を否定されたら興ざめも甚だしいですよね。
どうかご安心ください。
今までのお話は、いわゆる前座のようなものです。
むしろこれからが今回のお話の肝の部分ですから。
どうか、どうかご安心ください。
きちんと、いますから。
さて、ワタクシは先ほど無電から幽霊の声がするはずがないといいました。けれどそれは無電に関する怪談はすべて出鱈目のお話と切って捨てたいわけではないのです。むしろその逆でそれらの話は本当に起きたことだと考えております。
一見、矛盾したことを言っているように思われるかもしれません。
ですが、それはあなた様が一つ見当違いをしているからに他なりません。
その間違えとは無電から幽霊の声がしなければ、そこには幽霊がいないと考えているという点でございます。
その点を踏まえれば、矛盾は解決するのではないでしょうか。
つまりワタクシはこう考えているのです。幽霊たちは無電から声を出しているのではなく、違う方法、アプローチで無電を使い、人々をコチラ側に連れてこようとしているのではないかと。
では気になるその方法ですが、いたってシンプルでございます。
それは無電から音が出ているかのように、調整して声を出しているのです。
なんでわざわざ、そんなことをしているのか。
回りくどいことなどせず、直接襲えばいいのではないか。
そう思われたかもしれません。
ですが、これにはしっかりと訳があるのです。
順を追ってご説明いたしましょう。
まず初めにお伝えしておきたいのは、襲って人間をコチラ側に連れてくるのは、かなり難しいということでございます。
実は人間というのは思いのほか勘が鋭く、逃げ足が速い生き物でして。
化け物に襲われて命からがら逃げるお話、よく聞くでしょう。
巷では怖い話として流布されておりますが、裏を返せば幽霊が人間を襲い取り逃がした話でしかない訳でして……。
その手の内容が多く語り継がれていることが、人間をコチラ側に連れてくることの難しさの証拠でもあるわけです。
その為人間をコチラ側に連れてくるには、勘を鈍らせ、かつ手遅れになるところまで引き寄せるための一工夫が重要になるわけです。
そこで幽霊たちは『餌』を使うのであります。
好奇心を駆り立て、勘による気付きをなくすようなものが餌になりうるのですが、そう考えると無電はうってつけなわけでございます。
無電からいきなり音が聞こえたら、嫌でも興味が湧いてきてしまうでしょう?
そうして人間を釣り上げるために、幽霊たちはわざわざ使い方も、原理も知らない無電のふりをしているわけです。
どうですか。ご納得いただけたでしょうか。
その神妙そうな顔は、とりあえず腑に落ちたということでよろしいでしょうか。
それとも他の理由が……あぁ、もしかして怖くないことにご立腹の顔でしたが。
そうでした。そうでした。
ワタクシは怖い話をしているのでした。
それでしたらオチとしてこの無電へのアプローチに関する話をさせていただきます。
さて、無電音声のような声を出しているとき、幽霊はどこにいるのでしょうか。
それは獲物である人間に最も声が届きやすいところでございます。
つまりは、後ろにぴったりとひっついているのでございます。
コチラ側に連れてくるのを心待ちに、今か今かと思いながら。
ずっと、ずっと後ろに憑いてまわり、耳元で嘯いているのでございます。
ですから、よろしいですか。
絶対に。
絶対に振り返ってはいけませんよ。
……以上がワタクシのお話でございました。
終わりでございます。
あら、先ほどよりもご不満そうな顔をしてらっしゃる。
幾分かオチが弱い?
なるほど、それは失礼いたしました。
確かにあなた様を引き留めることばかり気にしてしまい、怖がらせることがおろそかになっていたかもしれません。
次の改善点ですね。反省させていただきます。
…………そう、ですね。
お詫びと言っては何ですが、最後に二点ほどお話させていただければと存じます。
まず一点目ですが、先ほどの話で触れた『餌』、これは必ずしも無電である必要はないのです。
人間の好奇心をくすぐるものであれば、なんでもいいわけですから。
ですから、割と日常に餌は紛れ込んでいるかもしれません。
そしてそれは思いのほか、デジタルなものかもしれませんね。
例えば携帯電話や電脳といった電子機器、とか。
何?
アナログ家電である無電さえ原理が分からない幽霊が、より難解な構造の携帯電話などに介入できるはずがないですって?
ははは。
これまでの長々とした与太話をお読みになっているのであれば、お分かりではございませんか。
仰る通り、介入などしておりません。
ただ面妖な力を使って、人間の目を騙しているだけでございます。
例えば、偽りの画面が表示されているようにしている、とか。
思いのほかできるようでございます。
機械よりかは、人間を騙す方がよっぽど簡単ですから。
最期に二つ目ですね。
あなた様が今、お手元で使われている電子機器。
先ほど電源が切れ、使えない状態だったのに悪態をつかれておりませんでしたか?
それなのになぜ。
なぜワタクシの作品が読めているのでしょうね?
それは…………。
あぁ、ここから先はわざわざ文章でご説明しなくてもよろしいですかね。
恐れ入りますが振り返っていただけますか。
おりますから。
ご愛読ありがとうございます。
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