第五話 部長の嘘
降霊術の件が解決し、今日で四日目。
部長は約束通り事件の翌日に詳しい説明をしてくれたのだが、説明されたのは降霊術の失敗で誕生した怪異が裕人さんを誑かし、自身を裕人さんの娘であると錯覚させていた事。
次に、裕人さんは怪異に触れた影響を受け、とても危険な状態である事。
そして最後に、この件にはもう関わるな、という事だった。
終わった依頼に対して関わるなもなにもないと思って反論したのだが、部長は君の口からもう関わらないと聞くのが重要なんだ、と言って聞かず、結局、もう関わらない、と唱える事になってしまった。
そして、そう言い終わるや否や突然の休暇を言い渡され、説明を受けてから今日までの二日間、オカルト研究部はお休みとなっていたのだ。
「部長、言われた通り二日休みましたがもう復帰して良いですか?」
「ああ、良く休めたみたいだしもう大丈夫だね」
いつものように部室の長椅子に座る部長は嬉しそうにこちらを見上げ、手に持っていた紙をこちらへと差し出した。
「なんですかこれ?」
「君の居ない二日間で考えたデートコースだよ。 依頼料も貰ったし、君は大変な目にあったからね」
「はぁ」
見たところ水無瀬市中央区周辺の地図に何かしらのマークがされた物だが、マークのある範囲が不自然に広すぎる。
ましてやその殆どが森や木に因んだ場所となっており、本当にデートコースであるのなら中央区の駅周辺が外れる訳がない。
「駅周辺で遊んだりクレープ食べたりは思いつかなかったんですか?」
「それも捨てがたかったが、こちらの方がより君好みかと思ってね。 不満かな?」
いつもの人をからかう時にする笑顔。
どこか得意げにも見えるその顔だ。
「何かセールスポイントがあれば納得できるかもしれません」
「都市伝説、って聞いた事あるかい?」
こちらの言い終わりを待たず、被せるように聞いてきた。
都市伝説。
人面犬や口裂け女、テケテケにジャンピング婆まで、およそこの世のものとは言えないものの噂だったり怪談だったりのことだと思うが、このタイミングでそれを聞くということはそういうことなのだろう。
「人面犬、口裂け女、テケテケ、ジャンピング婆……」
「妖怪とかが好みだったかな? まぁとにかくそれだけ知っているなら話が早い。 私たちで実際に見に行こう」
「まぁそんなことだろうとは思ってましたけど」
部長は目を輝かせ、地図を片手に様々な都市伝説とそれにまつわるエピソードを語り始める。
定番の怖いものからただただ不思議なもの、中には思わず笑ってしまいそうなものなどもあり、たしかに、こうして聞いているとオカルト研究部らしいデートと言えばそう取れなくもない。
そうして部長の話を聞くこと数十分、あたりが少し暗くなって来たことで一瞬気が逸れ、部室に置いてあるテレビから流れているニュースが耳に入った。
「……さん……発見され……死後数日……」
「あれ、部長今ニュースで」
「ああ、ごめんテレビが点けっぱなしだったね。 消すからもう気にしないで」
くるりとテレビの方に体を向け、リモコンでテレビの電源を切る。
テレビは静かに真っ黒の画面へと切り替わり、聞こえていたニュースも聞こえなくなってしまった。
読み上げられた名前は聞きの覚えるものだった気が……
突如、背中に悪寒が走った。
ほんの一瞬だがとても冷たく、嫌な気配のする悪寒。
なんとなく部長の方へ視線を向けると、部長はテレビの方へ向いており、 何やら真剣な表情をしている。
「ほらほらテレビは良いから、水無瀬市の都市伝説とデートプランをちゃんと聞いて欲しいなぁ」
振り向いた部長はニコニコと笑っており、一瞬した悪寒ももう感じなくなっていた。
あのニュースと悪寒はなんだったのか。
何か気づけそうな気配はあるものの、その一歩手前で霧がかかったように思考が鈍り、その答えにはたどり着けない。
思い出せそうで思い出せない時のような気持ち悪さはあるものの、人が死んだニュースなんて今どき珍しくもないか。
「それで、出発はいつなんですか?」
「次の土曜日にしよう。 予定は空いているかい?」
「はい、問題ありません」
「じゃあ決まりだね。 では水無瀬駅に朝九時集合で」
部長はスケジュール表を取り出し、ペンでくるりと丸を書いた。
あまり期待していなかったデートプランだが、部長の顔を見るに、当人にとってはなかなか楽しみなものなのだろう。
土曜日までかなり時間もあるし、その間にマークの意味やコースの意図を聞いておこう。