幕間 呪いを知る者
ネット掲示板の書き込み、水無瀬オカルト板より。
見たかあの社の画像
呪いのビデオのやつだろ? もう見飽きた
呪いのビデオってなんだ?
自分で調べろよ
知らない奴がオカ板くるな
リンク→■■■■■■■■■■■■■■■■
有能
有能
貼られたリンクをクリックした。
広告ブロックの通知がたくさん出た後、どこかの個人サイトに辿り着く。
時代遅れのデザインのプロフィールと日記が置いてあるだけ。
最終更新日は今から五年前の六月。
レアものゲット! というタイトルが最期の記事だった。
記事の中身は、まだDVDされて化いないOVAのビデオテープを手に入れたというもの。
嬉しそうにその内容をレビューしているだけで呪いのビデオの話はでてこない。
釣りリンクだったかな。
と、追記から様子が変わって来た。
初めて再生した時は普通だった映像に、次見た時には謎の社が映っていたという。
どれだけがっかりしたかが書かれているが、途中からだんだん支離滅裂な文章になってくる。
気になるのは最後の文章。
日記を書いている場合じゃない、行かないと、という一文で終わっている。
社に呼ばれて行ってしまったんだろうか。
それ以上の情報は無さそうだから掲示板に戻る。
再びネット掲示板の書き込み、水無瀬オカルト板より。
このサイトがなんなんだよ?
この呪いは突然ビデオテープに現れる
社に呼ばれた者は正気を失い、いずれ姿を消してしまう
昔からある呪いだ
連投か?
なんだこいつ
昔っていい年してこんな所来るなよ
もう二十年は調査している、全国怪談蒐集旅を知らないか?
宣伝かよ
見たことあるぞB級だけど
あれの監督をやってる
ほんとだろうか。
この手の掲示板じゃ嘘や釣りは当たり前。
証拠が無いと信じられない。
嘘だろ
白石明監督? ほんとに?
書き込みの数が急に増えた。
今まで数分に一個程度だったのが、今や更新を押すたびに二、三個レスが増えている。
マグカップを机に置き、書き込みを必死に追う。
この際、ダメ元で質問しても良いかも。
社から声が聞こえました、場所が知りたいです。
まーたかまってちゃんか
スレの質が落ちたな
人をバカにするようなレスが続く。
やっぱりあの人も釣りだったんだろうか。
まともなレスは無い。
見たのか、詳しくはここでは教えられない
出会い厨?
早く釣り宣言しろよ
全国怪談蒐集旅の製作会社に来てくれ
これで釣りならくそ迷惑だな
警察案件か?
真偽はわからないけど、ほんとなら手がかりになりそうだ。
部長も良い心霊スポットを教えてくれるに違いない。
いつ伺えば良いですか?
平日の9~18時ならいつでも居る
わかりました、明日の14時でもいいですか?
わかった、待っている
この簡単なやり取りの間には数十件のくだらないレスがついている。
とにかくアポは取れた。
部長と先輩に連絡して、明日は白石明さんに話を聞きに行こう。
すっかり冷めてしまったコーヒーを飲み干して、スマホからメッセージを送る。
あの二人は滅多にスマホを見ないから返事が来るか心配だ。
瑠璃さんとの特訓も休みにしないといけないし、そっちにも連絡しておこう。
なんなら、瑠璃さんから先輩に伝えてくれたらありがたい。
流石の先輩も、瑠璃さんからのメッセージなら通知を入れていると思う。
メッセージを送り終わると、突然、コンコンと扉のノック音が響いた。
呪いのビデオの話をしてたもんだからびっくりしてしまい、もうちょっとでマグカップを落とす所だった。
「咲、テレビで怖い話やるって。 一緒に見よ?」
この声はお母さんだ。
お母さんは怖い話が好きなくせに一人じゃ見れないからいつも私を誘ってくる。
「わかった、すぐ行くからちょっと待ってて!」
PCの電源を落とし、ブランケットとマグカップを持って部屋を出た。
お母さんが嬉しそうな顔でポテトチップスの袋を持っている。
私の好きなハニーバター味だ。
「今日はどんなやつ?」
「視聴者から送られた恐怖映像百連発だって~」
「えー、だいたい動画サイトにあがってるやつじゃんそれ」
「いいの、私は見た事ないんだから」
うきうきのお母さんの後を追って階段を下りる。
リビングには彩も居て、私と同じくブランケットにマグカップのリラックスモードだ。
「お姉ちゃん間に合ったね」
「やるなんて知らなかったから、お母さんに言われなかったら見逃してたよ」
新しいコーヒーをマグカップに注いでソファに座る。
テレビはちょうど前の番組が終わって、恐怖映像百連発が始まる所だった。