幕間 忘れた夢
夢の記憶はほとんど残らない。
覚えすぎている事が脳の負担になるからだ。
目が覚めた瞬間は覚えていても、体を起こし、着替える頃には大抵忘れてしまう。
内容もとりとめの無い物がほとんどで、現実世界とは大きく異なる。
それ故、これは誰の記憶にも残らず、内容に意味は無い。
渉は真っ白な部屋に居て、目の前には白い机と白い椅子、全身を防護服に包んだ白い人が立っている。
横一列に並んだ白い人は三人居て、手に持ったボードに何かを書き込んでいる。
真ん中の人が何かを言って、机にもやもやとした何かの入った瓶が置かれた。
瓶を開け、もやもやに触る。
冷えた体でお風呂に入った時のような、ピリピリとした感覚が指先を襲う。
白い人の書く速度が上がる。
しばらくそうしていると、もやもやは指先から体に吸収されてしまった。
白い人はお互いに顔を見合わせてうんうんと頷いた。
机に次の瓶が置かれる。
その瓶にはもやもやが入っているが前の物とは違うと感覚でわかる。
ピリピリとした感覚と吸収されるもやもや。
結果は同じだ。
しばらくそれを繰り返し、白い人はついに瓶を持ってこなくなる。
そうして白い人は部屋を出て行き、渉は一人取り残された。
世界が一瞬暗くなり、次に明るくなった時には本が見えた。
書かれた文字は波のようにうねっていて、何が書かれているかはわからない。
隣には白い人の一人が座っている。
防護服越しの優しい目。
その人に見守られ、ただただ何が書かれているかもわからない本を読み進めた。
次に世界が明るくなると、白い部屋にはもう何も無かった。
扉が開かれていた為、外に出る。
白い部屋の先はまた白い部屋で、少し大きくなっただけだった。
しばらくするとまた白い人が現れた。
その人たちは白い影のようで、人型をしている事しかわからない。
そうして白い人たちに囲まれて、また世界が暗くなった。