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魔科学時代のオカルト研究部  作者: SierraSSS
水無瀬瑠璃編1
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第二十六話 意識の共有 

 気がつけばもう午前零時を回り、テレビもどローカルな番組や通販番組を流すのみとなっていた。

 この頃には部長のパジャマ姿にも慣れ、また以前のように平常心で部長の枕として働く事が出来ていた。

 

 「今日一日魔素無しで生きてみて、魔素がいかに重要なものだったか良くわかったよ」

 

 膝の上から見上げるように、こちらの顔を見て部長が語りかける。

 

 「一時的に魔素が使えなくなったり、とかは無かったんですか?」

 「無かったね。 今回が初めてだ」


 気付いた時から魔素が扱えていた人間にとってはそれが普通なのだろうか。

 小野寺さんは自分の生命エネルギーで霊的な能力を扱っているため、使いすぎると一時的に能力が使えなくなると言っていた。

 魔素能力も、自身の体から魔素を発しているなら似たような状態になってもおかしくないと思うのだが。


 「能力が弱くなってもゼロになった事は無いかな。 私自身、私の底はわからないよ」

 「そうなんですか、普通の人はそうもいかないんですか?」

 「普通の人だったら魔素で怪異を退治する、なんて絶対出来ないよ。 魔素は物質的なエネルギーじゃなくて精神的なエネルギーだから、募った恨みや呪いの力とヒト一人の精神力とじゃ全く相手にならない」

 「部長はなぜそれが出来るんです?」


 部長は腕を組んで少し考える素振りをして、うまれた時からそうだったから、と答えた。

 うまれた時から無尽蔵の魔素を持っていて、魔素が扱えて。

 聞けば聞くほど想像も出来ない話だ。

 周りの人が躍起になって調査したり、扱えるようになろうとしている物を産まれた時から持っていて扱えるなんて、一体どんな気分なんだろう。

 〇〇の天才と呼ばれる人だったり億万長者だったり、そういう人たちなら少しは気持ちがわかるのだろうか。

 

 「私は全く参考にしなくて良いよ。 イレギュラー中のイレギュラー、そういう生き物だと思って」

 「ほんと、魔素に関しては部長以外にそんな話聞いた事も無いし、よほどのイレギュラーなんですね」

 「ほんとにね。 それこれ私自身怪異と言っても良いくらいだ」


 お互い見つめあい、ははは、と笑う

 分類で言えばブラックジョークになりそうな冗談だ。

 

 「こんな生活があと二日は続くけど初日はどうだった?」

 「想像よりだいぶ良かったです、あんまり緊張せずに済んでるので」

 「それは良かった。 魔素が無ければ私もただの一般生徒だからね」

 「一般生徒でも男と女でルームシェアはそうそう無いと思いますけど」

 「そう? 漫画ではわりとあるシチュエーションだと思うけど」


 たしかに男女ひとつ屋根の下というシチュエーションは漫画の王道と言って良いかも知れない。

 ただ、それが現実に起こるかというとそんな筈は無いのだが、この部長はそれをわかって冗談で言っているのか、それとも本当に、世の中の人間たちはそんな場面に出くわしていると思って話しているのか、相手が部長なだけに計り知れない。

 両親に大事にされているのもあり、世間から隔離されたお嬢様で、世間についてはほとんど知らないんだ、と言われても信じられるくらいだ。


 「部長、普段からそういう漫画を?」

 「色恋沙汰とは遠い学生生活でね。 勉強も兼ねて色々読んでたんだけど、やっぱり漫画は漫画なのか」

 

 どうやら本当に世間に疎かったらしい。

 依頼人に対する態度だったり通常の人付き合いからそんな気配は全くしなかったが、人付き合いと色恋沙汰は違うと言う事か。


 「それでいつも漫画みたいなからかい方して来てたんですね」

 「漫画みたいも何も、他の方法は知らないよ。 君が教えてくれるなら話は別だけど?」


 ニヤリと妖しい笑み。

 色恋沙汰には疎いと言いながら、自分が人並みならぬ美貌を持っている事はわかっているのだろう。

 もしかしたらそれすら人付き合いの武器、とでも思っているのかも知れない。

 部長の視線から逃げるようにテレビへと視線を移し、今回は事なきを得た。


 「まぁ冗談は置いといて、今夜は一緒に寝てみよう」

 「冗談の延長に聞こえるんですが」

 「大真面目だよ。 謹慎期間中魔素は封印すると言ったけど、こんな機会でもないと披露できない能力があるんだ」

 「その能力とは?」


 視線を部長の方に戻すと、部長はいつになく真剣な顔をしていた。

 膝枕状態で変な話だが、どうやら本当に大真面目らしい。


 「君の魔素と親和性を高められれば、君と私の想像しているものが共有出来るんだ。 わかりやすく言えば、映像付きのテレパシーみたいなものかな」

 「親和性を高めるのはわかりましたけど、一緒に寝る必要はないんじゃ」

 「人の意識を乗っ取らずに同調するのはなかなか難しくてね。 普通、他の人の魔素が入ってくると無意識に追い出しちゃうから、同調するには意識の無い内にタイプを探って追い出されないようにしないといけないんだ」


 それで寝ているタイミングを狙おうという訳か。

 理屈はわかるのだが、なぜその能力をこのタイミングで俺に使おうと思ったのだろう。

 ただ同調するだけなら、昼間にソファで寝転がっていた時にでも言ってくれたら良かったのに。

 わざわざ夜を狙ってくるあたり、他の目的があるように思えて仕方ない。


 「本当にそれだけですか?」

 「それだけだよ」


 何も悪い事は考えていないよ、という目でこちらを見ている。

 こうなってしまうともう、いたちごっこだ。

 断り続けてもお願いされ続け、結局最後には俺が提案を飲む。

 どうせ口では勝てないのだから、もういっそ早々に諦めた方が時間の節約にもなるんじゃないか。

 

 「わかりました、でもそれ危なくないんですか?」

 「大丈夫、痛みも何も無いし害は無いから」


 俺が受け入れた途端に部長は膝枕から飛び起きて、そのまま軽い足取りで寝室の方へ向かって行く。

 その背中を追いかける前に俺はテレビを消し、電気を消し、部長の使ったコップやらを片付け、クッションの位置を元に戻す。

 そうして後を追いかけると、部長は大きな枕を片手に俺の寝室で待っていた。

 

 「ほら、早く早く」

 

 そのまま急かされるように寝室へと押し込まれ、ベッドの上に寝かされる。

 その動きはあまりにもスムーズで、いかに入念に計画されていたのかがわかる。 

 寝る準備は済ませて来たが、こうして椅子に座った部長に見降ろされながら寝るというのはなかなかに難しいのではないだろうか。

 寝返りをうって部長に背を向け、そのまま出来るだけ意識しないように目を閉じる。

 しかし背中を向けて目を閉じていても視線が気になり、とても寝付けそうにない。


 「あの、なにか寝られる魔素とかって無いですか?」

 「あるよ、使おうか?」

 「お願いします」


 ダメ元で言ったのだがまさか本当にあるとは、ますます魔素が便利なものに思えてきた。

 と、ここで予想外の展開になった。

 部長がベッドに入り込み、後ろから抱き着いて来ている。

 なんでこんな事になったのかと戸惑ったのだが、考えてみれば、俺に魔素を使ってくれと言ったのだから当然肌で触れ合う必要がある。

 流石にこれはまずいと思い一度起き上がろうとしたのだが部長の魔素は強力で、抱き着かれたのを認識してからほんの数秒で体から力が抜け、意識がまどろんできている。

 今や抱き着かれているという感覚すらわからなくなってきて、何を考えているのかもわからなくなってきた。

 

 そうして次に意識が戻った瞬間、俺の目の前にはあの日の廃ビルの一室が映っていた。


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