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魔科学時代のオカルト研究部  作者: SierraSSS
学校の七不思議編
27/43

幕間 怪異と呪い

 喫茶ブラックドッグ 小野寺宗介


 中学校全体を覆い、全てを消滅させられるような強い魔素を持ちながら、なぜプールまで行く必要があったのか。

 僕が一番疑問に思ったその点は、回収したカメラの映像を確認した事で理解できてしまった。

 あの女が獲物をプールに追い込んだ理由はただ一つ。

 一番カメラ映りが良い場所を選んだだけの事なのだ。


 僕たちが宿直室で休憩し、稲垣君があの女を追いかけていたあの時間、カメラが映していたのは完全に怪異と化したあの女の姿だった。

 もはや人型を留めず、見たもの全てを呪うような悪意の塊と化した影。

 夜の闇より一段と暗いその影は、抵抗力の無い人間であれば映像を見ただけで呪いを受けただろう。

 そしてその影は、悪霊と化した生徒の霊をプールの角に追いやると、頭からすっぽりと捕り込んでしまったように見える。

 決定的な瞬間はカメラから遠く、影と霊が重なってしまった為確認できないのだが、その一部始終を収めた映像は全体にひどいノイズが走り、音声も不快な機械音が絶えず鳴り響いていた。

 幽霊と電磁波には強い関りがあり、強い電磁波が脳に影響した結果幻覚を見せていたり、カメラに影響した結果ある筈のない物を映し出したり映像が乱れたり、といった事例も報告されているが、事実、霊の居る場所では電磁波測定器が異常な数値を示す事が多い。

 つまりこの影は、怪異と霊の両方の特徴を持った、特異なものと言えるだろう。

 そんなものが力をつけた悪霊を捕り込んでいるのだから、今後の事を考えると恐ろしい。

 そして更に恐ろしいのは、そんなものがあの水無瀬瑠璃であり、こちらを良く思っていない所だ。


 映像に映るその影は、悪霊をプールの角へ追いやるその直前、カメラに向かって笑みを浮かべている。

 暗い影に浮かぶ、それより暗い漆黒の口が耳のあたりまで裂けた、にたっという嫌な笑い。

 わざわざカメラに向かって笑いかけるのは、カメラがある事を理解してやっている事のアピールだろう。

 こんな姿をわざと映像に残し、呪いまで纏っている。

 これはつまり、この映像を確認するであろう僕に向けた警告だ。

 稲垣君にこっそりと守護霊を憑けたのがバレたのだろう。

 自分は人知を超えた存在で、霊などいくらでも捕り込める。

 それを伝えるパフォーマンスとしてこれ以上のものはない。

 こんなものを見せられては、普通もう関わろうとは思わないだろう。

 まぁ僕はその普通ではないのだけど。

 稲垣君との約束の時間まで残り僅か。

 飲み干してしまったコーヒーのおかわりを頼みつつ、今のうちにどこまで彼に伝えるかを考えておこう。

  

 怪談蒐集芸人、墓地行雄チャンネル動画より。


 「みなさんこんばんは、今回は有料配信という事で、普段の配信では触れられない本当にヤバい話をしたいと思います。 今回のネタはこちら、とある中学校で撮影された本物の心霊映像。 プールを漂う黒い影とトイレの花子さん出現の瞬間です。 なお、今回は専門家の鑑定の結果、心身に悪影響を与える霊障が起こる可能性があるという事で、おふざけなしでお送りしています。 この映像を初めて入手したとされるのは教師に内緒でビデオカメラを持ち込んでいた演劇部の生徒で、撮った映像を受信していたスマホにある日突然、その心霊映像が保存されていたそうです。 そして、その学生が面白半分でその動画をサイトにアップして……」


 「はい、という訳で動画を見てもらったんですが、わかります? ここ。 トイレの花子さんが扉から出てくるこの瞬間、鏡に映ってないんですよね。 それ以降は鏡に映ってるし、ちょっと怪しいなーって事で映像処理の専門家に依頼した所、こちらの映像は合成による偽物だと判明しました。 で、なんで合成だ、ってネタばらししたかなんですけど、後半に流したプールの映像、実はそっちも依頼してまして、なんとそちら、合成ではない本物の映像だと証明されました。 こちら霊能力者のお墨付きも貰いまして、当チャンネルではこの映像を本物の心霊映像と認定、今回の配信の目玉とさせて頂きました。 これからもみなさんに真実のオカルト情報をお伝えしていくので良ければ高評価とチャンネル登録を……」


 月刊心霊図鑑 現代の呪い特集より。


 先日世間を賑わせた、心霊動画を視聴した事によって発生したとされる全国的な体調不良者の続出は、専門機関の調査によって集団ヒステリーと認定された。

 体調不良者のほとんどが影に対する恐怖心や一人で居る時の強い不安感を訴え、過呼吸や奇声、奇行といった特徴的な症状が見られた事からそう認定されたのだが、弊誌ではこちらを現代の呪いの事例としてとりあげたい。

 霊能力者の鑑定により件の映像には強い呪いを纏った影に見える何者かが映っていると判明した事から、それを知らずに動画が拡散された事で今回の事例が起きたと弊誌は考える。

 呪いというものはそれ自体に効果がなくともそれを呪いだと受け手が考えた時点で成立するものと考えられており、ただの動画が呪いの動画として拡散されていくうちに実際に呪いの力を持つ事例もある。

 今回の事例では実際に呪いの力を持つ動画が呪いの動画として拡散されたことで相乗効果が発生し、その力と影響が大きくなったと思われる。

 呪いの歴史は古く、時代の支配者や権力者による呪術合戦が行われた事も記録されており……。

 

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