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魔科学時代のオカルト研究部  作者: SierraSSS
学校の七不思議編
20/43

第十六話 急変

 「はい、じゃあカメラを回すよ。 三、二、一」


 ホムンクルス。

 人造人間を指す言葉であり、錬金術などの特殊な方法で作られた人間がそう呼ばれる。

 資料によれば、この魔素実習室の中にそのホムンクルスの入った瓶が突然現れるのだとか。

 そして現れたホムンクルスは全ての質問に答えてくれて、その代償に少量の血を求めるらしい。

 聞いた限りでは特に害も無くインパクトに欠ける気がするが、中学生という時期を考えればこういった占いじみたものがあってもおかしくないのだろう。

 

 「はい、撮影完了。 今回も外れだ」


 少し考え事をしている間に撮影が終わったそうで、部長はさっさと部屋を出て行ってしまった。

 こうして一人取り残されてもなんら嫌な気配や不思議な感覚はなく、ここが本当に外れなのだろうという事がわかる。

 怪異と遭遇した時の感覚とまではいかずとも、あの階段には周囲が異様に静かに感じられるような、独特の雰囲気があった。

 本当の七不思議に分類されるものには恐らく、同じように何かしらの独特な雰囲気があるのだろう。


 「ほら、次は二階の放送室だよ。 日も暮れてきてるし少し急ごう」


 部長の言う通り窓から差し込む光はだいぶ低くなっていて、もうじき夕暮れに差し掛かる頃だろう。

 怪異にせよ霊にせよ、本格的に動き出すのは夜だ。

 それまでに候補を可能な限り減らすと共に、夜に向けての準備も終わらせないといけない。


 「わかりました、行きましょう」


 放送室に関しては、一人で校内に残っていると自分の死ぬ時の声が聞こえてくる、というものであったが結局これも外れであり、室内を撮影しただけで調査終了となってしまった。

 もともと放送室自体が狭いのもあるがあまりにもあっけない調査終了に、この学校の七不思議自体が疑問に思えてきてしまう。

 こんな調子で、本当に七不思議なんてものが存在するのだろうか。


 ともあれ、予定外であった階段も含めるとこれで四つ。

 階段〇理科室×魔素実習室×放送室×と、打率二割五分だ。

 候補はまだいくつかあるのだが日も暮れてしまった事から夜の準備を優先する事とし、今は部長のリクエストで宿直室へと向かっている。


 「夜はまだ寒そうだし厚手の布団でもあるとありがたいんだけど」

 「ここで寝るつもりなんですか?」

 「深夜まで待つとなるとそのくらいは欲しいよ。 晩ご飯はどうしようか」

 「食べに行っても良いですし、言って貰えたら何かコンビニで買ってきますよ」

 「食べに行くのは異変を逃しそうだし、コンビニかな。 せっかくだから一緒に行こう」


 長い廊下に、俺と先輩の話し声と足音だけが響き渡る。

 日の暮れた廊下には何とも言えない寂しさが満ちており、五時のチャイムで友達と別れて帰った昔の記憶が呼び起こされるようだ。

 夕焼け空と校舎の組み合わせにこれほどもの悲しさを感じるとは。

 中学校の記憶も高校生活や大学受験を経ている為か遠い記憶のようで、中学校から今に至るまでで自分が別の人間になってしまった気すらしてくる。

 そんな事を考えながら部長と並んで歩き、ほどなくして目的の場所へと到着した。


 二階の端、宿直室。

 簡単なコンロとシンク、冷蔵庫に電子レンジと必要最低限は揃っており、押し入れには薄手の布団が二組入っている。

 教室に戻らずとも、ここで夜を待てば良いのではないだろうか。


 「新聞部に拠点変更の連絡を入れて、ここで夜を待つのはどうですか」


 俺の提案に部長は少し考えた後、軽く頷いてから口を開いた。


 「まぁそれでも問題ないか。 鞄を取りに戻りつつ、コンビニへ向かおう。 道すがら、新聞部には私から連絡を入れておくよ」

 

 提案が受け入れられ、俺たちは宿直室を拠点とするために元拠点である教室と、その足で近くのコンビニを目指す。

 新聞部は今頃どうしているのだろうか。

 あちらは七不思議と断定されたものを調査している分、こちらより負担も大きいだろう。

 湊は小野寺さんにこき使われていないだろうか。

 色々と思うところはあるが、宿直室で合流してから聞くとしよう。 


 その後教室へと戻り鞄の回収を済ませ、コンビニで食料品の調達を完了させた。

 教室内に新聞部の姿はなく、大量にあった機材もだいぶ数が減っていた。

 部長によれば、新聞部は七不思議の地点にカメラやセンサーを設置しながら移動しており、今は校庭内のプールで準備を整えているのだとか。

 それを聞いたにも関わらず、こうして宿直室でゆっくり食事をとっていると、少し申し訳なさを感じてしまう。

 部長はたいして気にしていないのか、滅多に食べないというコンビニ限定の激辛カップラーメンを美味しそうに啜っている。

 一口勧められたのだが、あんなものを食べたら調査どころじゃなくなってしまうので丁重にお断りした。

 

 「さて、もう夜の七時か。 とはいえ魔素の反応も無いし、私たちはしばらく異変待ちかな」


 畳に敷いた布団の上でゴロゴロと転がりながら、部長は退屈そうな顔をしている。


 「七不思議候補巡りはもういいんですか?」

 「ああ、もう真相に辿り着いてしまったらしい。 夜の間は危険だから日が昇るまで動くな、とさ」


 スカートのポケットから取り出した携帯の画面をこちらに見せる。

 そこには小野寺さんからのメールが表示されており、部長の言った通り、真相は分かった、朝まで待機。

 とだけ書かれているのだが、いくらなんでも内容が簡潔すぎないだろうか。

 

 「あの、メールの内容が簡潔すぎませんか」

 「恐らく、メールを打つ余裕も無いんだろう。 あちらは随分と修羅場と見えるね」

 「修羅場って、ならここで休んでいる訳には……」

 「ダメだ、君を守りながら校内を進むのは不可能だよ。 君一人置いて行くのも同じく却下だ」


 部長の目はとても真剣で、それが冗談や仲の悪さに起因するものでないことがわかる。

 この部長をもってして不可能だと言うのだから、今回はよほど危険な事になっているのだろう。

 そんな場所に居て、新聞部の二人は大丈夫なのだろうか。


 「わかりました。 でも、新聞部の二人は大丈夫なんですか?」

 「納得してくれて良かったよ。 ここは結界化してあるから、ここを出ない限りは安全だ。 新聞部に関しては、問題ないんじゃないかな」

 

 髪の先をくるくるといじりながら、部長は天井を見上げている。

 言葉通り、新聞部の心配など微塵もしていないようだ。


 「あいつが居るし、教室には私のコートがあるからね。 置いてきといて良かったよ」

 「こうなる事を見越してですか?」

 「いや全然。 帰る時に取りに戻れば良いかと思って置いてきただけだよ」

 「じゃあ結果オーライって奴ですか」


 部長はまあね、と返事をして携帯に視線を移す。

 と、その瞬間、メールを知らせる着信音が鳴り響いた。

 携帯を見る部長の目には真剣さが戻り、食い入るように画面を見ている。

 よほど重要な事が書かれているのだろうか。


 「はぁ……これはだらけてもいられないか」 

 「なにかあったんですか?」

 「咲さんを宿直室まで連れて来るってさ。 二人分の防御となると、もう少し本格的にしないとね」


 小野寺さんも守りながらはきついと思ったのだろうか。

 部長があれだけ信頼を置いていた小野寺さんが湊を足手まといに思う程となると、ここは想像以上に危険な所なのかも知れない。

 そう考え始めた途端、背筋が冷たくなってきた。


 「まずはこのお札を四隅に貼ろうか。 貼った範囲から体が出ないように気を付けて」


 はい、と渡されたお札を手に持ち、椅子に立って柱の出来るだけ高い位置にお札を貼る。

 宿直室にあったセロハンテープで貼り付けているのだが、貼り付け方でご利益が変わったりはしないのだろうか。

 

 「そのお札は私の魔素が籠っただけのただの紙だから、そんなに大事に扱わなくても大丈夫だよ」


 どう扱ったら良いのか戸惑っていたのがバレたようで、部長はふふっと笑みを浮かべながらそんな事を言ってくる。

 確かに、何も書かれていないただの長方形の紙な時点で普通のお札ではないとわかっていたのだが、それでもこんな場面で渡されたのだからそういった物なんだろうと思ってしまっていた。

 ましてや、今後に備えて防御を固めている所なのだから慎重にもなる。


 そうして部長に言われるがまま部屋の四隅にお札を貼り、チョークを使って部屋のほとんどをぐるっと囲める円を書き、コンビニで買ってきていた塩を部屋の出入り口の内側と外側両方に撒いた。

 チョークと塩には部長が魔素を込めており、霊的な防御と魔素的な防御を兼ねているらしい。

 部長は真剣な顔で魔素を込めていたが、それが終わると先程と同じように布団でごろごろとし始めてしまい、連絡が来た時の深刻な雰囲気はどこかへ行ってしまっていた。 


 「あの、もうやる事はないんですか?」

 「ああ、準備完了だ。 あとは私が魔素を充満させておけば問題ないよ」

 「それって大変な事なんじゃ」

 「少し体力を使う程度だから大丈夫。 デザートもあるしね」

 

 部長はにこにこしながらシュークリームを掲げてこちらへ見せびらかしてくる。

 そんな得意げな顔をされても、俺も自分の分としてエクレアを買ってきているのだが。


 「瑠璃さん!」


 そんな緩んだ空気の中に、湊の叫び声が響く。

 着ている部長のコートの両袖をぎゅっと掴み、目には涙を浮かべ、必死の形相で宿直室へと飛び込んできたのだ。

 

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