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魔科学時代のオカルト研究部  作者: SierraSSS
降霊術編
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第一話 部活説明会と人の念

 「魔素というまだ説明のつかない物質が発見された今、真にオカルトと呼べるものがまだ残っていると思うかい?」


 部長はそう疑問を投げかけながら、聴衆に向けた演説を再開する。


 「人の感情や意識、視覚、嗅覚、物理的な空気の動きさえ魔素で操れるのだから、降霊術だってそう思わせているだけかも知れないし、ポルターガイストだって魔素に長けた者がただ動かしているだけかも知れない。 そう考えるのが当然ではないか」


 大きな黒板の前を左右に行き来しながら部長は話を続ける。


 「そんな中、真なるオカルトを選定し、探究しようというのが我が部活、オカルト研究部だ」


 壇中央に立ち、得意げな顔をする部長とは対照的に、聴衆はいまいち理解できていないような、なんとも言えない表情を浮かべている。 こうなるのではないかと予想していたが、予想通りかそれ以上か、教室内にははっきりとした温度差が出来ていた。


 「興味のある者は旧校舎の部室まで来てくれたまえ。 では」


 言い終わるや否や部長は教室を後にして、旧校舎の方へと帰って行ってしまった。


 「以上です。 構わず続けて下さい」


 説明会の再開を促し、部長の後を追うように教室を出る。

 冷ややかな視線を受けながら出た廊下の先には、足早に部室を目指す部長の後ろ姿があった。

 

 「せめて活動内容くらいは話した方が良かったんじゃないですか?」

 「あれで構わないさ。 どうせ依頼次第で活動内容も変わるんだし、オカルト研究が根幹なのは伝わっただろう」


 長い髪をなびかせながらすたすたと進む部長に並び部室を目指す。

 比較的最近建てられた新校舎から旧校舎へ進む道はタイムスリップしているような錯覚を覚えるほど変化が多く、校舎と校舎を繋ぐ中門などは特にそれを感じてしまう。

 この薄汚れた木製の門と、その先に続く薄暗い木製の廊下に、所々塗装の剥げた木製の壁と、ほとんどが木でできた旧校舎は、温もりを感じるどころか一昔前のホラー映画を連想させる。

 門をくぐり、しばらく廊下を進んだ後、目的の部室へと到着した。


 「さて、ではおとなしく新入部員を待とうか」


 部長はそう言いながら部室正面奥にある定位置へと着席すると、長机の上に何冊かの本を広げた。

 タイトルのない煤けた表紙はいかにもといった感じで、その本たちが普通の物じゃないのはひと目でわかった。


 「待つと言っても本当に来るんですか?」

 「来ないかもね。 まぁ私は君が居てくれたら十分だよ」


 にっこりと微笑みながらそんなことを言うんだからこの部長はたちが悪い。

 普通なら警戒されるであろうオカルト研究部の部長という肩書を持ちながら、学院で一位二位を争う美貌の持ち主であるうえにこの人をからかうような言い回し。

 部長自身がまるで都市伝説かのように言われているのはこれらが原因だろう。


 「……そんなだから妖怪みたいに言われるんですよ」

 「あながち間違いではないけれど飛緑魔じゃあるまいし、それに君を誘惑するのだって意味があるんだよ?」

 「魔性のものに誑かされないためなんでしょう?それにしたって度が過ぎてる気がしますけど」

 「君に居て欲しいのは本心だよ。 本音と建前というのもあるし、もうすぐ一年の付き合いなんだから私の意図も伝わったんじゃないかな」


 目を細めて心底楽しそうにこちらを見ている。

 人をからかうのが好きなのか本当に魔性のものなのか。

 この部長の真意は何年一緒に居たってわからないだろう。


 「よほど好かれているっていうのはわかりました。 それより、その本は意味なく広げたわけじゃないんでしょう?」

 「ああ、私が魔性の類ならもう君を食べてるかもね」


 と、返事をしながらその内の一冊を手に持ち、中頃のページを開いて机に置く。

 本からは古いインクの匂いと、血にも似た鉄の匂いが広がった。


 「これらは古い降霊術に纏わるノートでね。 聞いたところによると口づてに伝わる降霊術を記録した物らしい」

 「降霊術……依頼絡みですか?」

 「うん、今回はこれらの真贋と危険度を調べて欲しいとの事だ」


 机に置かれた本はどれも異様な空気を醸し出しており、明らかに普通ではないのだがこれに贋作なんてものが存在しているのだろうか。


 「どう見ても本物っぽいんですが偽物なんてあるんですか?」

 「いや、今回は全部本物だろうね。ただ、降霊術に纏わる本物かどうかはわからないよ」

 「というと?」


 にやりと怪しげな笑みを浮べてから、部長は開いて置いた一冊をまじまじと観察する。

 本文、表紙、背表紙、上面、下面とひとしきり見回した後、ゆっくりとそれを置くと一息ついてから口を開いた。


 「これは偽物。 降霊術そのものではなく、それに関わる人の念が異質の物へと変えてしまった例だろうね」


 部長がよく言う話なのだが、人の念というものは想像以上の力があるらしい。

 近年になって魔素という形でそれが可視化されつつあるが、そういった概念が無かった時代から、まじない、呪い、祈り、応援、など、人の念はプラスのものからマイナスのものまで幅広く使われており、その効力も様々であるという。 

 この部活では人の領域を出たものを総じて怪異と呼んでおり、その本は正しく人の念により人の領域を外れた怪異と言えるだろう。


 「人の念により怪異化した本、ということですか」

 「その通り。 どういった経緯があったかは知らないけど、よっぽど強い人の念を受けたんだろう。 持ってるだけで運気の下がる呪いの品にはなってるだろうね」


 部長は両手にはめた手袋を外し、本の上に手のひらを重ねる。

 そのまま目をつぶってふぅ、と一息吹きかけると、本からはあの異様な空気が消え去っていた。


 「この程度であればまだぎりぎり人の領域かな。 私の魔素で中和してやるだけで片付いたよ」


 いつものことながらやはり理解ができない。

 魔素が扱えるかどうかは先天的なもので、素質が無い人間には理解のできないものだとわかってはいるが、それでもこうして目の前で空気が変わったのを体感させられては尚更混乱するというものだ。

 あの異様な空気が無くなるという結果を見せつけられ、その過程が両手を置いて息を吹きかけただけなのだから胡散臭く、到底理解できない。

 何度結果を見せられたところで頭が理解を拒んでしまう。


 「相変わらず納得いかない顔だね?」

 「やっぱり魔素というものはわかりません」

 「それで良いんだよ。 私が君の持っていない能力を持っているのと同時に、君は私が持っていない能力を持っているんだ。 先天的に魔素を扱えた私にとって魔素が見えず信用できない君で居てくれることが大切なんだ」

 「こんな時にも冗談ですか?」

 「いいや、大真面目だよ。 君を慰めている訳じゃない。 君は魔素が見えず、わからないことを負い目に感じなくて良いし、劣っているのでは、なんて全く気にしなくて良い。 魔素絡みのことは全て私に任せて、君は今の君のまま一緒に居てくれたら良いんだ」


 どんな顔で部長と話していたのだろう。

 いつもと変わらないうっすらと笑みを浮かべた表情で部長はそう話していたが、そうしてくれたことでだいぶ落ち着いた気がする。

 恐らく部長の言うとおり、魔素を理解できない事がいくらか負い目になっていたのだろう。

 そして表情に出してしまっていたのも想像に難しくない。

 それを部長は言葉どおり、励ますでも慰めるでもなく肯定してくれたのだ。


 「ありがとうございます。 落ち着きました」

 「どういたしまして。 お礼代わりに一緒に居てくれる件について返事を聞かせて貰っても良いかな?」

 「黙秘します」

 「つれないなぁ」


 部長は続く数冊も同じ手順で処置を済ませ、本はついに残り一冊となった。

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