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ペンダント


 両親が出会ったのは、集落から離れた町にある出稼ぎの女性を集めた夜の店だった。


 表向きはパブだが金さえ出せば何でもアリなのは暗黙の了解で、青年団の三次会で連れてこられた父は、泣きながら下着姿で踊らされている少女マイカに一目ぼれした。


 彼女にとってはもちろん最悪な出会い。


 しかしブローカーに騙されてこの店に押し込められた身としては、得意客が付くことは地獄から抜け出すための早道だと周囲から言い含められ、しぶしぶ接客した。


 父は、奥手な男で口下手だった。


 背が低く丸っこい身体に手足も短く、毛深いのに早くから頭髪は寂しくなった。

 しかも山奥の棚田を耕し山林を管理する農業従事者で寡の母と二人暮らし。

 結婚の条件としては芳しくなく、嫁のきてもないまま三十代後半に突入した。


 そんな父はマイカに対して無体を強いた事はなく、ただ毎晩通って隣に座りおどおどと酒を飲むだけで、指一本触れないまま金を貢ぐ。



 一方のマイカの心は追い詰められていた。


 典型的な子だくさん一家の長女で、家族の医療費のために出稼ぎを決断。

 それから何度も死にたいと思うような目に遭い、死も考えた。



 そんな時に出会ったのが柚木という客だ。

 彼は国に残る瑞々しい恋人とは似ても似つかないが、金はあった。湧き上がる嫌悪を必死で押し隠し、微笑んだ。


 毎晩通ううちにやがて柚木が初めて恥ずかしそうに差し出したのは、小さな赤い石の付いた可愛らしいペンダント。町の時計屋で買ったらしい。


 きらきらと輝いていて、この国に来て初めて嬉しいと思った。


 思わずマイカが受け取ると、そこから柚木は湯水のように金を注いだ。


 高級品も現金も、マイカが望むなら数日以内に必ず用立てた。それらを全て頻繁に無心してくる実家と恋人へ横流ししていることを知りながらも、マイカの『アリガト』のために惜しむことはない。



 ところがある日突然その店は消える。


 摘発の情報を事前につかんだオーナーが店を閉じ、女性たちを国へ返したのだ。



 マイカは幸運が重なり無事帰郷した。


 しかしそこで目にしたのは、彼女の贈った金品ですっかり堕落してしまった家族と恋人だった。マイカは柚木を財布にしたが、今度はマイカが彼らの財布になっていたことに気付き、愕然とした。


 呆然自失の毎日を送るマイカの元へ現れたのはなんと、弁護士だの通訳だの引き連れた柚木だった。


「愛しています。結婚してください」


 彼は、マイカの国の言葉でたどたどしく訴え、花束を差し出してきた。


 マイカの首には、赤い石のペンダントが下がったままだった。



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