戦争を終わらせる
屋外に設置された席に魔王サイラス・カルルスは着いてシュカを待っていた。その向かいにはレオメレオンが牽制するように厳めしい顔をして座り、魔王の後ろでは第一王女モーラが彼を守るようにして立っている。
「お待たせしました」
そう言ってシュカが姿を現すと、魔王は立ち上がり、丁寧な礼をした。そして改めて自己紹介をする。
「魔王サイラス・カルルスです」
「アーストントンテンプル軍第二軍隊長、シュカ・ルゥレンです」
「貴方にお会いしたかった」
年若い敵軍のNo.4ごときに、魔王が握手を求める。シュカはまるで国王のように鷹揚に笑いながら、それに応じた。
リィエは少し離れたところに立ち、いつもは哀しげな魔王の表情が、希望に明るくなっているのをぼーっと見とれていた。
シュカが言う。
「……で、会談の相手に僕を指名されたのは、どういう理由でしょう?」
「あなたの魔法神は愛の神ニムスだと聞きました」
魔王の顔が真剣になる。
「私は戦争を終わらせたいのです。戦争は民を、兵士を、辛い目にしか遭わせない。私は民を、兵士を、愛しています」
「戦争の火種を作ったのはそっちだぞ!」
レオメレオンが横から詰るように口を挟んだ。
「貴様らが姫に手をかけようなどとしなければ、こちらも蜂起しなかった!」
「レオ。魔王さんの立場もわかってあげて」
シュカが30歳近くも年上のレオをたしなめるように、言った。
「リィエ姫様は魔物しか食べられない身体になられ、しかもその食欲は魔物を食い尽くしてしまいかねないほどに凶悪なんだ。脅威を覚えて排除の必要を感じるのももっともだ」
「だからといって暗殺しようなどとは無礼千万! 魔族らしい蛮行と言わざるを得ぬであろうが! 先ずは話し合いで解決しようとする意思がなかったことは……」
リィエがレオをなだめた。
レオ
魔王さんが殺そうとしたのはリィエ姫じゃなく
リィエ姫の中にいる小早川理恵という名のうんこ人間だったんだ
あの時、小早川理恵が……、つまりはあたしが死んでたら
戦争も起こらず、リィエ姫様も帰って来られてて
すべてはうまく行ってたんだよ
「わかりませぬ!」
レオはかぶりを振った。
「姫様の言うことがさっぱりわかりませぬ!」
「シュカさん」
魔王がレオからシュカに視線を移し、言った。
「気づいてらっしゃると思いますが、今、リィエ姫の中には異世界から転移して来た小早川理恵という女の子が入っています。本物のリィエ姫は小早川さんの身体の中にいる。これは私が2人を救うために咄嗟にかけた呪いによるものです」
「なるほど。やはりそうだったんですね」
シュカは穏やかに魔王の話を聞いた。
「リィエ姫様を助けていただき、ありがとうございました」
「しかし、小早川さんには、同時に新たな呪いがかけられてしまった」
魔王も穏やかに話を続けた。
「魔物しか食べられない身体にされ、私の国の民を貪り食いはじめた」
あい
すいません
ブラックバスみたいな外来種で……
リィエはそう言って土下座して謝ったが、誰も聞いていなかった。
魔王が話を続ける。
「かけたのは貴方がたの国の事実上最高権力者、サイダ・フウガです。彼が死ねばリィエ姫の食欲魔人の呪いは解ける。それで我々魔族の希望は叶う。しかし、異世界に飛ばされたリィエ姫は戻っては来ません。私が死ねば、2人は再び入れ替わる。しかしリィエ姫にかけられた食欲魔人の呪いはそのままでしょう」
「何が言いたいんだ?」
レオが痺れをきらして、言った。
「シュカさん、貴方のニムスの力で私の魔力を一時的に封じることは出来ませんか?」
魔王は話を急いだ。
「また、リィエ姫にかけられた食欲魔人の呪いを解くことは出来ないものでしょうか? もし、それが可能なのなら、戦争を続ける理由はお互いに、なくなる!」
「戦争を……」
レオがはっとして、呟いた。
「終わらせることが出来るのか……」




