異世界でおめでとう
ああっ
はっぴぃ
にゅー
いえーい
「リィエ様、何をはしゃいでおられるのです」
不思議なダンスを踊っているリィエを見かねてモブキャラの家臣が言った。
川はさらさら、興味がなさそうに流れてる。
「リエちゃま、もうシュカと一緒にお風呂に入っていたことは許しますから、正気に戻って」
リーザがあたふた言った。
狂っとらんわいっ
年が明けたんじゃ
めでたいではないか
めでたいではないか
「だめだ、これ。脳までエロ菌が回ってるわ」
ロウが諦めるように言う。
「えろきん!?」
耳慣れない言葉にリーザが叫ぶ。
ほいっ
ほいっ
リィエがどじょうすくいみたいなへんな踊りを踊り出した。
ちなみにどじょうすくいは安来節である。安来は鳥取県ではなく、島根県である。理恵は鳥取県人だが、安来に結構近いところに住んでいたのだ。
「リィエ様」
そこへレオメレオンが報告に来た。
「魔王サイラスが来ています。シュカと話がしたいのだとか……」
ええっ!?
リィエの目が少女マンガになった。
魔王さまが?
やだ
おめかししなくちゃ!
「シュカはどこです?」
おめかししなくちゃ!
「だめだこりゃ」
シュカは川岸に座り、瞑想していた。
ニムスの楔が内側から肉を破ろうとし、軋みを上げている。それでもシュカは穏やかな顔つきで、座禅を組み、風景とひとつとなっている。風がその茶色の髪を穏やかに揺らした。
姉への想いは今、シュカの心にはなかった。
モーラ姫に頼んでいたアクエリアの蘇生、そのために抑えつけていたニムスの力を解き放ったことも、今はどうでもよくなっていた。
今はただ、すべてを愛していた。
目に入るもの、すべてが同等に愛しかった。
リーザへの淡い恋心も……。
「シュカ」
レオメレオンが彼を見つけ、声をかけた。
「おまえに会いたいという客が来ている」
「どなたです?」
シュカは穏やかな表情を変えず、聞いた。
「驚くな。魔王サイラス・カルルスだ」
レオメレオンは自分自身が動揺しながら、言った。
「フウガ様ではなく、この俺でもなく、なぜかおまえを我が軍の代表としての会談をご希望だ。来てくれるか?」
「戦争を終わらせようという話ならいいですね」
シュカは穏やかに、微笑んだ。
そこへトチ狂った姫様が駆けて来た。
ああっ
はっぴぃ
にゅー
いえーーーいっ!!!
「リィエ様!」
レオメレオンが心配してオロオロする。
「河原の玉石に躓いてこけたりしませぬように!」
シュカくーん
一緒に行くよーっ
かっこいい魔王さまのところへー!
「ご一緒に参りましょうか」
シュカは面白いものを見るように、くすくすと笑った。
「戦争を終わらせる話になるのなら、これ以上楽しいことはありませんよね」




