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食欲怪人勇者姫リィエのぼうけん  作者: しいな ここみ
第五章:シュカとリーザの恋物語 ~ それとリィエの食物語(たべものがたり) ~
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ゆっくり流れる『今』



えーと……



 17歳のリィエ姫は全裸で15歳のシュカに美容魔法を受けながら、その話を聞き終わると、言った。



ちっちゃい頃のシュカくんとリーザって


けっして仲良くないよね?


むしろリーザがいたから死んでてもおかしくなくね?



「とにかく喧嘩ばかりしていましたからね」

 シュカは苦笑いすると、

「でも、リーザがいなければ僕はあの時、生きるのをやめてしまっていたと思います」

 懐かしそうな顔をして、言った。

「確かに彼女は僕の悲しみを受け止めてはくれなかった。その代わり、僕を怒らせ、僕の感情を全力で受け止めてくれたんです」



はぁ……


ふぅん……



「後になって僕は気づいたんです。悲しみも怒りも同じ感情だって。それを全力でぶつける相手がいたから、いつの間にか僕は癒されていたんですよ」



へぇ……


よくわからん……



 リィエはそう言って深い色を湛える森をぼけーっと眺めた。

『今』がゆっくりと流れていた。



ところで


もうお風呂一緒に入るのやめようか?


リーザに見られちゃったし



「リィエ様がそうお望みでしたらそうしますよ」



考えたら


すっぽんぽんにならんでも


シュカくんの美容魔法受けられるし



「お櫛とお顔は今まで通りに出来ます。手足もすべすべにして差し上げられます。が、気の流れの悪いところが見えなくなりますので、服で隠れた部分はこれまで通りには出来なくなりますが」



髪さえサラサラならいいんじゃね?


めんどくせ


どーせぶさいくだし


……って、あ。あたし今、美少女だったか



「リィエ様」

 シュカは微笑みながら、言った。

「本物のリィエ様がお帰りになるまで、その体を綺麗に保っておいてあげてください」




シュカくん


気づいてたの?



「さすがに変わりすぎですので。以前から薄々気づいてはいました。リィエ姫様のお体の中に、誰か別人が入り込んでしまった、と」



なんだ


そーだったんだ



「でも、見えるようになったのはつい最近からです」



見えるの?


すげー



「魔力の封印を解いてから、見えるものが何だか変わりました」

 シュカは少し悲しそうな顔をして、言った。

「以前は見えなかったものが見えて来た……」



たとえば?


何が見えるの?


人の嘘とか?



 シュカはそう聞かれ、空を見上げた。


「リーザに『真実を見る瞳』を植えつけたのは、実は僕のせいだったこととか」



そうなの?


あれシュカくんがあげたの!?



「あげたって言うより……、僕とリーザはいつも一緒にいたから、僕のニムスの力が影響しちゃったんです」

 シュカはここにいないリーザに謝るように言った。

「それでリーザに変な力が芽生えてしまった」




そうなんだ?


「7歳の時のことです。ある日、僕と一緒に寝てたリーザがノックの音にベッドから身を起こして、起こしに来た家臣の顔を見るなり、僕のほうへ飛んで戻って来ました」



なんか


嘘を見ちゃったのかな?



「ええ。『へんなものが見える!』って僕に抱きついて来ました」



へんなものって?



「家臣は笑顔で『リィエ様はもう起きて食堂でお待ちですよ』って言っただけなのに、そのすぐ上にもうひとつ家臣の顔があって、それが喋ったそうです」



なんて?



「『ぐひひひ。リィエ姫を殺害して、あなたが王位継承権第1位になるのですよ。私が仕えるあなた様が』って」



……まじか



「その家臣はその後すぐに逮捕されました。実際に、リィエ姫を毒殺しようとしていたところを取り押さえられ……」



リーザ……


嫌なものばかり見て育って来たんだねぇ……



「僕のせいだったんです」

 シュカは辛そうに言った。

「ニムスを解放するまで気づかなかった。僕といっつも一緒にいたせいで、ニムスの力が彼女におかしな力を芽生えさせてしまったんです」



ところでシュカくん


さっきの話だと


そのニ……ニジマスとやらの力を解放しちゃったら


早死にしちゃうんじゃないの?



「キャットくんを探そうと思います」

 シュカはのんびり言った。

「また彼に、腕輪を作ってもらえたら……。ところでどうします? 僕がご入浴のお世話するの、まだ続けます」


 リィエはしばらく考えると、きっぱりと言った。



今日限りにしよう


本物のリィエ姫はきっとダラダラと続けてたに違いないけど


こんなことはやっぱやめにしないと……!


彼女に代わってあたしが終わりにさせる!



「そうですね」

 シュカはうなずいた。

「では、今日で終わりにしましょう」



シュカくん


一緒にリーザに報告しに行こう


安心させてやるんだ



 そう言うとリィエはタオルで股間をばしっと叩き、川から上がった。

 服を着ながら、シュカのほうを振り向き、気になっていたことを聞いた。



でもさ


フウガはなんで


お姉さんが死んだなんて嘘ついてたんだろ?



「フーガ様は水晶玉の通信で僕との会話を避けています」

 シュカはタオルを畳みながら、言った。

「是非、理由を聞かせてもらいたいところなんですが……」

 そして太い眉毛を険しくさせた。


☆ ★ ☆ ★


 リーザは焚き火にあたりながら、心ここにあらずな表情でパンをちょこちょこと齧っていた。

 食事よりも独り言のほうが多い。

「リィエお姉ちゃまはああいう性格だから……。へんな関係ではないとして、なんでリエちゃままで? 抵抗ないの? シュカは? 抵抗ないの? おかしいと思わないの? 17歳と15歳の男女が一緒にお風呂に入るなんて……。ぶつぶつ……。ぶつぶつ……」



リーザ



 後ろからリィエが声をかけても反応がない。

 気づいていないのか、気づかないふりをしているのか……。どうやら後者のようだ。少しずつ顔の方向がリィエから逃げている。



リーザ


今日限りでシュカくんとお姉ちゃん、お風呂一緒に入るのやめるから


安心しな



「今まで続けてたことが問題でしょっ!!!」


 そう言って怖い顔で振り向いたリーザの頭にシュカの手が触れた。


「なっ……、何よ!!!」

 リーザは涙を浮かべて身を避ける。

「触らないでよ! この変態!!!」


「せっかくの綺麗な髪が枝毛だらけだよ」

 シュカは微笑んだ。

「君にも髪にだけでも美容魔法をかけてあげる」


「いらないわよ!!!」

 リーザはその手をはね退けた。

「そんなことされなくても私は美しいんだからっ! 触んなド変態!!!」


 ド変態に合わせてようやくシュカの顔を直視したリーザの動きが止まる。

 顔を真っ赤にして怒っていた表情が緩み、心配そうな声を出した。


「シュカ……。なんか顔、変わってない?」


「僕が?」

 シュカは自分の顔を確認するように触りながら、言った。

「どこがどんな風に?」



「なんか表情が笑顔のまんま貼りついてるっていうか……。なんか……違う……。それに……」


「変わってないよ。気のせいだよ」


 そう言ってにっこり笑ったシュカにリーザは目を見開いた。


 シュカの嘘が読めなくなっていた。



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