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食欲怪人勇者姫リィエのぼうけん  作者: しいな ここみ
第五章:シュカとリーザの恋物語 ~ それとリィエの食物語(たべものがたり) ~
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遊び相手

「見ていたよ」

 フウガは言った。

「君が光魔法を使えるとは知らなかった」


 大賢者の部屋に呼ばれて、シュカは少し怖い顔をしていた。隣にリーザもいるからだ。


「私からもお願いする」

 フウガが続けて言った。

「姫様たちの……特にリーザ姫とリィエ姫の遊び相手になってはくれないだろうか」


「お断りします」

 シュカは即答した。

 そして隣のリーザをチラリと見る。

「こんなおてんば姫と毎日遊んでいたら、いくら光魔法が使えたってそのうち死んでしまう」


「殺さないわよ」

 リーザは上から目線で言った。

「死なない程度にボコボコにするだけよ」


「君、お姫様だろ? もっとおしとやかに出来ないのか?」


「あんた男でしょ? 男のくせに女の子のわたしに勝てないの?」


「うるさい! 何が『わたしのために生きなさい』だよ! ごめんだね!」


「フフフ。女の下になるのが嫌なのね? これだから男って生き物は……」


「ユーダネシアに帰っても、身寄りはないのだろう?」

 フウガが2人の喧嘩を止めるように言った。

「ならばこの国で暮らせばいい。君が姫様の近くにいてくれれば、私としても安心だ」

 そして部屋の入口のほうに目を移し、

「ねえ? リィエ姫」


「え」

 扉の隙間から覗いていたリィエ姫が声を上げた。

「あの……」

 おずおずと中に入って来ると、シュカに向かってお辞儀をし、

「わたくしからもお願いいたしますわ。妹の遊び相手になってやってくださいまし。リーザは日頃生傷が絶えないので心配しておりましたの」


 長い金髪が綺麗だった。

 長いまつげが太陽にキラキラと輝いていた。

 自分より2つ年上の、この美しい女の子の言うことは、何でも聞かないといけないような気にさせられた。

 だから挙動不審になり、つい言ってしまった。


「あっ。はい!」




 シュカは自分にあてがわれた部屋に帰った。

 広い部屋はやはり虚ろな気持ちを増幅させる。


「はあ……」

 シュカはため息をつくと、言った。

「なんで君がくっついて来てるんだよ?」


「目を離したらあんたが死ぬと思って」

 シュカの袖をぎゅっと掴みながら、リーザは答えた。

「これからずっとあんたから離れず見張ってるわ。あんたはわたしの遊び相手なんだから、勝手なことは許さない」


「離れないって……寝る時も?」


「一緒に寝るから覚悟しときなさい」


 そこへ下女が部屋をノックし、入って来た。


「リーザ姫様。ここでしたか。ご入浴の時間でございます」





「いや、待ってよ」

 シュカは抵抗した。

「なんで僕、女の子と一緒にお風呂入らなきゃならないの?」


「目を離さないって言ったでしょ」

 リーザはシュカの腕を掴んで引っ張りながら、言った。

「お風呂も一緒よ」


「ま、いいけどね……」

 シュカは投げ槍に言った。

「君の裸なんて見たって何とも思わないし……」



 浴場に入ると、長い金色の髪の女の子が先に入っていて、下女たちに体を洗われていた。


「あら」

 リィエ姫は2人に気づくと、嬉しそうな顔を向けた。


「うわわ……!」

 シュカはその眩しさに目がくらんだように、後退った。

「ヴィ……ヴィーナスですかっ!?」


「リィエお姉ちゃま!」

 リーザが一大事のように駆け出し、リィエ姫の前で手足を広げ、壁を作る。

「見るなっ! リィエお姉ちゃまのはだかを見るなーっ!」

 そう言うリーザももちろん素っ裸だった。


「ふふふ。シュカ様おかわいい」

 リィエがくすくすと笑う。

「リーザ。大丈夫ですよ。わたくしたちはまだ子供なのですから、気にすることはありません」


「うんうん。シュカ様おかわいい」

 下女たちがにやにやと笑いながら全裸のシュカを見た。

「シュカ様も洗って差し上げましょう。さ、こちらへ」


「あんたはわたしと並んで洗ってもらうの!」

 リーザがシュカの手を握る。


 シュカはリーザの体を見た。女の子というにはあっちこっち傷だらけで、肌もガサついている。短い金色の髪はいかにも固そうで、そこかしこでもつれていた。


「君、まるで男の子だよね」


「誉め言葉だわ」

 リーザは笑った。


「もっと女の子らしくしたほうがいいよ。お姉さんみたいに」


「じゃ、あんたがしてよ」

 リーザはちょっとカチンと来たように、挑発的に言った。

「光魔法って結構なんでもできるんでしょ? 怪我を綺麗に治すみたいに、女の子も綺麗にしてよ」


「うん。できるよ」

 シュカはそう言うと、てのひらに光を浮かべた。


 そしてそれをリーザにかざす。


「あれ……?」

 リーザの口から声が漏れた。

「はれはれはれぇ……!?」


 リーザの体中の古傷から新しい傷までがどんどんと消えてなくなり、肌が潤いを増した。

 もつれてあっちこっちを向いていた髪が柔らかくほどけ、絹のようになり、輝きを増す。


「すごい!」

 それを見ていたリィエが声を上げた。

「すごいですわ、シュカ様! わたくしも……わたくしにもしてくださいませんこと?」


「あ。はい!」


 顔を真っ赤にしながらシュカはリィエ姫にてのひらを当てた。

 元々美しかった長い金色の髪がさらに輝きを増し、魔法の櫛で梳いたようにサラサラになる。


「わあっ……!」

 リィエ姫は感激の声を上げた。

「わたくし、これから毎日、シュカ様にこれをしていただきますわ!」


「リィエ様……」

 自分の手でさらに美しさを増したリィエ姫をシュカはぼうっと見つめた。

「お綺麗です……」


「わたしは!? わたしは!?」

 まるで女の子のようになったリーザが感想を求めて来る。


「君はあんまり変わらないね」

 シュカは本心を言わず、憎まれ口をきいた。

「オカマみたいで気持ち悪くなった」


「はああああっ!?」

 リーザは手を振り上げた。その勢いで滑って後ろへ転ぶ。


「リーザ!」

 慌ててシュカが叫ぶ。


「いてて……」

 リーザは受け身を取り、お尻を打っただけで済んでいた。


「いい加減にしろ!」

 シュカが怒鳴る。

「岩の床で頭でも打ってたら、僕の光魔法でも助けてあげられないぞ!」


「ごめん……なさい」

 リーザは神妙に謝ると、打撲傷を負ったお尻を差し出し、シュカに治療を受けながら、

「それにしても光魔法って女の子を綺麗にすることまでできるのね」


「美容魔法です」

 シュカは治療をしながら、言った。

「姉の髪をいつも……綺麗にしていました」


 シュカの頭にユーダネシアの星空が浮かぶ。

 その下でアクエリアの髪にてのひらを当てると、長い黒髪はみるみる艶を増し、南国の星空よりも煌めいた。

 切れ長の目が振り向き、エメラルドグリーンの瞳がシュカを見つめ、感謝の色を浮かべて微笑んだ。


「ぐ……っ!」

 シュカは鼻水を噴き出し、止まっていた涙がまた勢いよく流れ出した。

「ねえさ……あん……っ。うぐぅぅぅぅ!」


「また思い出しちゃったの?」

 リーザがシュカの頬にお尻を押し当てた。

「わたしが忘れさせて……あ・げ・る」


 シュカはそのお尻を押しのけると、浴槽へ勢いよく飛び込んだ。


「溺れ死ぬ気ね!?」

 リーザも続けて飛び込んだ。

「そうはさせないわ!」


「ほっといてくれ!」

「ほっとかないわ!」


 お湯の中からざばんと立ち上がり、裸でもつれ合う2人を見ながら、リィエ姫は微笑んでいた。



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