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食欲怪人勇者姫リィエのぼうけん  作者: しいな ここみ
第五章:シュカとリーザの恋物語 ~ それとリィエの食物語(たべものがたり) ~
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アーストントンテンプルへ

 シュカの6歳の誕生日にアクエリアは『ケーキ』というものを作った。


「すごい! これ何? アクエリア」

 シュカは喜びの声を上げ、珍しくはしゃいだ。

「すごい! きれい! パンの上になんかいろいろ乗ってる!」


 アクエリアも嬉しそうに笑った。

 固く焼いたパンを薄く切ってミルクに浸し、ホロホロ鳥の卵のしろみとココナッツミルクと山羊の乳とバターで作ったクリームをパイナップルと一緒にいっぱい挟み、上にもクリームと、あとは色とりどりのお菓子でデコレーションしたケーキは、見た目はぶさいくなものだった。

 しかしシュカにはそれが虹の世界の魔法のお菓子に見えた。

 まるでアクエリアの愛が形をもって現れたようだった。


「無事6歳になれたわね」

 アクエリアはケーキを木のナイフで切り分けながら、微笑んだ。

「おめでとう、シュカ」


「おいしい!」

 シュカはケーキを口に含みながら、笑った。

「こんなおいしいもの、初めて食べた!」


「ふふふ」

 アクエリアはとても嬉しそうに微笑んだ。



 姉の誕生日は不明だった。

 歳をとらないので不要とも言えたが、嬉しい日が楽しい間隔をとって続くようにと、2人でシュカの一週間後をアクエリアの誕生日と決めていた。

 百何回目の誕生日なのかも不明だった。

 その日を知らないはずのその人は、その日を狙ったように、ちょうどその日にやって来た。




「おめでとう、アクエリア~!」

 シュカはケーキのお返しに、ドングリをいっぱい集めて姉の誕生日を祝った。

「19歳おめでと~!」


「ふふふ。永遠の19歳だけどね」


 シュカが光魔法で小さな部屋を色とりどりの小さな灯りで満たす。

 それはロウソクの火のように明るく、こんぺいとうのように可愛く、アクエリアを取り巻いてきらめいた。


「ありがとう、シュカ」

 アクエリアは嬉しそうににっこり笑った。

「最高のプレゼントね」


 そこへ突然、入り口の扉がノックされたのだった。


「あら。誰かしら? もう夜なのに」

 アクエリアは座ったまま、扉の外に向かって声を投げた。

「誰? 開いてるわよ。勝手に入って」


 しかし扉は開かれず、もう一度ノックの音がした。


「はい、はーい! 僕、出ます」

 そう言ってシュカが駆け出した。

「どなたですかー? 僕が開けますよー」


 扉を開いたシュカは見た。

 見たこともないほど綺麗な男の人がそこに立っているのを。

 立派な絹の服とマントに身を包んだその人は、まるで妖精のような美しすぎる笑顔をシュカに向けて軽く頭を下げると、入って来た。


 アクエリアの動きが止まった。雷を身に受けてしびれたように。


「僕を覚えているかい?」

 その人は言った。


 アクエリアはしばらく喋ることが出来ずに口をぱくぱくさせていた。

 その顔が笑うと、その切れ長の目から涙があふれ、その口がその人の名を呼んだ。


「フウガ……!」

 背の高いその人に駆け寄ると、しなやかなその美しい体同士が抱きしめ合った。

「フウガ! フウガ!」


「待たせてごめんよ」

 とフウガは言った。

「迎えに来た。一緒にアーストントンテンプルのお城においで」


「80年以上よ!? こんなに待たせるなんて……!」

 アクエリアはその人の絹の服を着た胸をぽかぽかと叩いた。


「アクエリア」

 そしてフウガは言ったのだった。

「僕の妻になってほしい」





 小さな船で海を渡った。

 2人はとても幸せそうだった。


 シュカも一緒においでとフウガは言ってくれた。

 住み慣れたユーダネシアを出ることは何の苦でもなかった。

 アクエリアさえ一緒にいるなら、アクエリアさえ幸せそうなら、少年は笑顔でいられた。どこででも生きて行けた。


「こんな小さな船で大丈夫なの?」

 アクエリアがフウガに後ろから抱きかかえられながら、聞いた。

「さすがにちょっと心配だわ」


 船はフウガの風魔法の力で進んでいた。

 同時に風のシールドで守られ、雨が降っても雷に打たれても大丈夫とのことだった。


「僕を信じられないのかい?」

 そうフウガは冗談っぽく言い、安心させるように姉の腕をさすった。

「何かあっても絶対に守るよ。君は僕の妻なんだ」


 アクエリアは幸せそうに笑っていた。

 シュカもそんな姉を見ながら、心から幸せそうに笑った。


「シュカ」

 フウガはこちらに視線を向け、優しい笑顔で約束してくれた。

「君は大賢者の妻の弟君として、手厚い待遇と権力を与えよう」


 しかしそんなものはどうでもよかった。

 そんなものがなくても新しい国での生活は、心から喜べるものだった。

 もうアクエリアが寂しそうに空を眺めることはないのだ。




 嵐が吹いた。

 海の上は大荒れに荒れ、船は波に弄ばれた。


「私の水魔法の力も付加するわ」

 アクエリアが言った。

「水は私の力の源よ。2人の力が重なればもっとシールドは強力になるはず」


「僕のことが信じられないのか?」

 フウガは言った。

「君は何もしないでいい。僕にすべて任せて」


 シュカは船首のほうで船底に張りついていた。

 フウガの風のシールドに守られ、確かに雨は防げていた。波に飛ばされてもふわりと空を舞い、海面に叩きつけられることなくしなやかに着地した。

 しかし揺れ方は激しく、身を伏せていなければ投げ出されそうだった。


 稲光が空に走った。


 船は特別大きな波に打ち上げられ、空に舞った船に雷が落ちた。


「うわ……!?」

 シュカは思わず大声を上げた。


 シールドが船を守ってはいたが、衝撃は大きかった。

 船は雷の力で海面に向かって巨大な手で圧し潰されるように落ち、激突した。

 

 船が破片を撒き散らし、真っ二つに割れた。


「姉さん!」

 シュカはシールドの中から投げ出され、絶叫した。


 シールドに包まれたほうの半分の船は、どんどん彼から遠ざかって行った。


「姉さんーーーーー!!!」



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