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食欲怪人勇者姫リィエのぼうけん  作者: しいな ここみ
第五章:シュカとリーザの恋物語 ~ それとリィエの食物語(たべものがたり) ~
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メロンの気持ち

 メロンは少しだけ寂しかった。


 ずっとリィエ姫の胸にくっついているのに、リィエとリーザとロウがじゃれ合っていても、人数は3人と数えられてしまうことが。

 自分はいつも人数のうちに入らないのだ。

 まるでリィエ姫のアクセサリーのように扱われているのだ。


 諦めてもいた。

 若くて美しくてかわいい姫様2人に対して、自分は34歳の、しかも見た目が人間というよりは蜘蛛に近い、れっきとした人間でありながら人外と見られがちな存在なのだ。

 一緒にいさせてもらえるだけでも感謝しなければと思っていた。


 しかし今、シュカに対しては親近感を覚えていた。


 メロンの口の中は異空間に通じている。

 それは食べ物を食べるための器官ではない。

 食べ物をまったく摂取しないというわけではない。彼女は体がとにかく小さいので、一年に一度食事をすれば事足りた。

 メロンはお尻から食べ物を摂取し、干しイモ一本で一年活動できる。

 燃費が凄まじくいいのだ。

 プリウスなど比較にもならない。


 シュカが『お腹が空かない』と言った時、メロンは何かを感じ取った。

 自分と同じような特殊さがシュカの中に備わったような気がして、少し心配にさえなった。


「リィエ様」

 メロンはリィエの顔を見上げ、話しかけた。

「ねぇ、リィエ様」

 リィエは気づかず、ロウのお尻に齧りついている。

「リィエ様ったら!」




メロン


ごめん、何?



「あたし、シュカ様とお話がしたい」



わかった


メロンはあたしから離れられないんだもんね


あたしがシュカのとこに連れてってあげる



 リィエはメロンを胸にくっつけて、とことことシュカの前まで歩いて行った。

 シュカは気づいていないように、ただ空を眺めていた。


「シュカ様」


 メロンが声をかけると、シュカは空から目を下ろし、にっこりと微笑んでこちらを見た。


「メロンさん、ありがとう」


「えっ?」


「心配してくれているんでしょう? でも僕は、ごはんが食べられない体になったわけじゃないから」


 何も聞いてないのに聞きたかったことをスラスラと答え出したシュカに、メロンはびっくりしてしまった。


 リィエがフォローのつもりで言う。



シュカくんは


お姉さんのことで心がいっぱいで


お腹が空かないんだよね?



「ええ、リィエ姫様」

 シュカはうなずくと、また空を見上げてしまった。




 ロウはリーザを組み伏せていた。


「ククク……。クソ弟子が師匠に刃向かおうなど138年早ェ」


「くっ……! お尻の上に乗るなあっ!」


「しかしこの新章のタイトル、ひでェよな」


「新章!? タイトル!? 何のことですかっ!?」


「『シュカとリーザの恋物語』って……バカじゃねーの? 戦争中に何おっぱじめるつもりだ? てめーら呑気にラブラブしちゃうつもりかよ?」


「は!? は!?(何の話かわからない!)」


「やるんならしっかりアダルトな恋物語にしろ」


「あ、アダルト!?」


「お姫様のアヘ顔とかだったら、きっと読者はそそられる。しっかりアヘるんだぞ?」


「アヘ……!? 何を言ってるのかわかりませんっ!」



「おーい! 何をやっている! 進軍するぞ!」

 レオメレオンの声が飛んで来た。


☆ ★ ☆ ★


「フウガ様……」

 側近のポカリス・ウェットン卿が心配して声をかける。

「大丈夫でございますか」


「何がだ」

 ソファに座り、大賢者フウガはうつろな赤い目を不機嫌そうに向けた。

「私は何も問題ない。何を心配しているのだ」


「失礼しました……」


「シュカの様子がおかしい」

 フウガは何か話題をそらすように言った。

「あれは近いうちに何か変化をきたす。残念なような、楽しみなような……複雑な心境なのだ、私は」


「左様でございますか……」


「なんだというのだ?」

 ハエでもうるさがるような目をして、フウガはウェットン卿を見た。

「貴様は何が言いたい?」


「アクエリア様のことでございますが……」


 ウェットン卿がその名を口にすると、フウガは激怒するような、泣き出しそうな表情になった。


「シュカとモーラ姫様が蘇らせようとしております」


 しかしその言葉を聞くなり、珍しく驚いた顔になる。


「……なんだと?」


「ご存じないのも無理ありません。奥様をご喪失されて、うちひしがれてらっしゃったので……」


「誰がうちひしがれていただと?」

 フウガは再び不機嫌な顔になり、睨みつけた。

「もういい。下がれ。一人にしてくれ」


「失礼いたします……」


 ウェットン卿が部屋を出て行くと、フウガは水晶玉の中に現在のシュカの姿を映し出し、呟いた。


「アクエリアが蘇ると言うのか……。お前は死者を蘇らせることが出来ると言うのか……」

 妬むような、期待するような表情で、唇を噛んだ。

「愛の神ニムスの力とは、そこまでだと言うのか……」


☆ ★ ☆ ★


 真っ暗な部屋の中で、魔王サイラス・カルルスは玉座に座り、頬杖をついていた。

 暗すぎて表情はわからないが、物憂げなオーラが全身から漂っている。


「相変わらず根暗なのね」


 突然、すぐ背後からした女の声にびくっとなる。


「モーラ。さすがの君でもアポはとってくれないかな」


 優しい笑顔を浮かべて振り返る。


「ロウソク一本でいいから灯りをつけなさい。これじゃ顔すら見えないわ」


 魔王がパチンと指を鳴らす。

 窓辺の燭台が灯りを点した。



「サイラス」

 オレンジ色の灯りに頬を照らされて、モーラ・アーストントンテンプル第一王女の白い顔が浮かび上がる。

「今の理恵ちゃんなら殺せると思って、先制攻撃で魔神と戦わせようとしたわね?」


「うん……。だけど、計算外だった。まさかニムスを宿す者がいるとは……」


「戦争をやめなさい。このままではあなたは殺されてしまうわ」


「そうかもしれないね」

 魔王は笑いながら、軽い口調で言った。

「それでもやめるわけには行かない」


「理恵ちゃんを放っておいたら魔族が食い尽くされてしまうからよね?」


「うん。だから……仕方ないんだ」


「フウガを殺せば理恵ちゃんの『食欲怪人』の呪いは解けるわ」


「でもそれは僕には無理だし、それではリィエ姫は永遠に現代日本から帰って来れない」


「それなんだけど」

 モーラは言った。

「シュカのニムスの力で、あなたの魔力を『一時的に』止めることは出来ない?」


 魔王は黙った。

 

「あなたも理恵ちゃんを殺したくはないんでしょう?」

 モーラは後ろから魔王の肩に優しく手を触れた。

「好きだった女性の娘さんなんでしょう? その女性を大切に思うあまり、あなたはむこうの世界で死に、この世界に転生した。そうでしょう?」


 魔王は唇に指を当て、考え込んでいる。


「あたしだってあなたを失いたくない」

 モーラは後ろから魔王を抱きしめた。

「あなたはあたしの可愛い坊やですもの」


「若くて美しい君をお母さんと呼ぶのには抵抗があるよ」

 魔王はようやく口を開いた。

 モーラの手を優しく撫でると、言った。

「ニムスの力がどれだけのものか……僕にはわからない。そんなことが出来るものだろうか」


「シュカに会って聞きなさい」

 モーラは母親が言い聞かせるように、言った。

「あたしがお膳立てしてあげる。シュカに会って、直接聞くのよ」



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