リィエ姫の告白
ねえレオ
「はい。なんでしょう、リィエ様」
リィエ姫のパパとママは?
まだお会いしてないけど城内にいるの?
「国王様とお妃様は大抵ご不在でございますよ。国のことはフーガ様に任せて諸国を漫遊しておられます」
な
なんだそれー?
国も子供もほったらかしかよ?
「そう申されますと聞こえが悪いですが、フーガ様をそれほど信頼しておられるのです。4人のお子様のことだってちゃんと愛していらっしゃいます。ただ、自由なご気性であられるだけなのです」
いやいや
愛されてねーだろ
それ
ん?
4人の子供?
兄弟いるのか……
聞こうかとも思ったけど面倒臭かったのでやめた。
それよりも、両親がそんなだからこそ余計にリィエ姫はレオメレオンのことをパパのように慕い、レオも姫のことが我が娘のように可愛いんじゃないだろうか。
そう思うとリィエはますます居心地が悪い気がした。他人の大切な恋人を横取りし、独り占めしているような。そんな気持ちになった。
返してあげなきゃ……本物のリィエ姫に、レオを
返してあげなきゃ……レオに、本物のリィエ姫を
そうだ! この世界で自分がするべきことはたった一つだ
自分は自分の世界に帰り、リィエ姫にはリィエ姫の世界を返してあげるのだ
リィエ姫……寂しがってるだろうな
スマホで遊んでたりするかもしれないけど
スマホなんかよりレオのほうが絶対いいよ
うん
あったかいもん
そしてリィエ姫が帰って来るまでは
あたしがリィエ姫の代わりにレオの側にいてあげるんだ
レオが寂しくないように
ねえレオ
「はい、なんでしょうリィエ様?」
レオは優しい笑顔で自分の肩に置かれたリィエの頭を撫で続けている。
フルネーム覚える
頑張って覚える
だからもういっぺん教えて?
レオはくすっと笑い、教える。
「レオメレオン・ベルンハルト・フォン・シュタイナーでございます」
えっ
前聞いた時より
増えてない……?
とにかく早くリィエ姫に体を返そう。しかしどうやれば。何をすればいいのかわからない。
レオに相談したって仕方がない。誰に相談すればいいのか……
あ
あの人しかいないじゃん
リィエはその部屋の前に立つと、扉をノックした。
中から美しい声が答える。
「どうぞ。開いていますよ、リィエ姫」
相手は自分の姿を見もせずに中からそう言った。
扉を開けると白いローブを着たハイエルフは椅子に座って微笑んでいた。
肘掛けに置いた腕に頬をつき、なんだか面白いものを見るみたいにこちらを見て来る。
あのー
フーガ様
「フウガでいいですよ。貴女は姫君なんですから。呼び捨てにしてください」
じゃあ
フーガ
「呼び捨てにする時はフウガと呼んでください。エルフの名前のルールなんです。ややこしいかもしれないですがね」
あー
フウガ
ちょっと相談があるんだけど
「何でしょう?」
フウガは聞く前から相談の内容をまるで知っているかのように、にこにこと笑う。
あたし実は
リィエ姫じゃないんです
「へぇ? そうなんですか? それは大変だ!」
棒読みの言い方だ。
実は
かくかくしかじかで……
リィエが説明すると、フウガの笑いが少し意地悪そうに変わる。
「なるほど。貴女はリィエ姫の中に間違って入ってしまったニセモノなんですね?」
そうなんです
「では、追放しなくてはならない」
え?
「ニセモノのお世話をする理由がない。貴女を森へ放り出して、あとは魔物に食われようが餓死しようが構わないということになる」
そ
それは……
っていうより相談なんです!
本物のリィエ姫をこの体に戻してあげる方法がないか……
「うるさい。黙れ。この皆を騙して食糧の調達を手伝わせたニセモノめ。オークを食べるなんて貴様、さては肉食魔獣の化けた姿だな?」
フウガはにこにこ笑顔のまま、言った。
「……と、いうことになると思いますが? そんなことは黙っていたほうがいいと思いますよ?」
えと……
あの……
「貴女は牛車に轢かれた際、体の損傷を避ける代わりに呪いにかかったのです。記憶を失い、ふつうの食べ物を受け付けないお体になった。ご自分が本物のリィエ姫でないなどと言い出すのも、その呪いのせいです」
でも……
「それ以上言うと本当に放り出しますよ」
フウガの表情から笑いが消えた。
「あなたは確かに王族だ。しかし実権は私にあるということをお忘れなく。私が命じれば城の者全員で貴女を追放する」
……
「そんなことはさせないでください」
また優美な表情に戻る。
「誰にも言ってはなりませんよ。自分がニセモノだなどと。この場にとどめてください。……まぁ、言ったところで呪いのせいだと皆思い、信じる者はいないでしょうけどね」
な
なんかフーガ様って……
思ってたより嫌なヤツかも……!