光
「姉さん……」
シュカは馬車から転げ落ちて草原に倒れながら、軍の先頭で魔神に食べられているものの気配を察知し、声を上げた。
「姉さんーーー!!!」
そこへリーザをお姫様抱っこしたロウが空から降りて来る。
「シュカ坊、死ねばよかったのに。生きてやがんのか」
「師匠っ! 下ろして! 早く下ろせっ!」
リーザがロウの胸をポカポカ叩いた。
しかしシュカは2人のほうを見向きもしなかった。
まっすぐ魔神のほうにだけ意識を向け、口はなにやら聞こえない声で何かを呟いている。
「あー。アクエリア、食べられちまったなぁ」
ロウが呑気な口調で言った。
「お前の姉ちゃんだったっけか? ま、いーんじゃね? あんな気が狂ったような女、世界からいなくなったほうが」
「シュカ……?」
リーザが心配そうに声をかける。
「お姉さんがいたの? 知らなかった……。た、食べられちゃったって……大丈夫?」
シュカは唇を噛むと、いきなり立ち上がった。
指で印を刻むと、足下に光の雲が出現する。
それに乗り、物凄いスピードであっという間に飛んで行った。
「シュカ!」
リーザの声も届かないほどにあっという間に視界から消えた。
☆ ★ ☆ ★
ばる!
ばるるるるるる!!
ばるすぅぅぅぅぅぅぅうううう!!!
リィエは山のように大きく真っ黒な何かに姿を変え、魔神ウィロイウめざして飛んでいた。
大きすぎるのでそのスピードはとんでもなく遅かった。
それでもなんとか地上から浮きながら、食欲のよだれを巻き散らしながら頑張って飛んだ。
魔神ウィロウがこちらに気づいたのがわかった。なぜかわかった。
前方から魔神の声が聞こえて来る。
こいいいいい
はやくこいいいいいい
おそいぞきさまああああああ
そんなことを言われても全速力だった。
でかいのですぐに魔神の元に到達するかと思っていたが、あまりにも遅すぎた。
しかし魔神は自分を待っているようだ。
何か罠にはまっているような気がした。
しかし理性がぶっ飛んでいたのでそのまま飛んだ。
うぎゃああああ
今行くぞぉぉぉぉおおおお
待ってろリブロース!!!
そんな雌叫びを上げて飛ぶリィエを、ひゅんと何かが追い越して行った。
な
なに、今の?
きんとうん?
「きっさまあああああ!!!」
シュカは形相が変わっていた。
いつもの穏やかな表情は陰を潜め、茶色く太い眉毛は鬼のように吊り上がっていた。
全身に光を纏い、あっという間に魔神の元へ辿り着いた。
シュカは見た。
巨大な地獄の番犬に姿を変えた姉の、無惨な姿を。
頭から胸までが食われ、内蔵が露出していた。心臓は鼓動を止めていた。
なんだ
きさま
小僧には用はない
魔神が大地を揺るがす声で言った。
「シュカ!」
下からレオメレオンが声を投げて来た。
「あれは無理だ! お前の光魔法でも消し去れん!」
「姉さん……。生きていてくれたのに……。9年ぶりに会えたのに……」
シュカは泣きながら怒り狂った。
「僕はあなたを許さない僕はあなたを許さない僕はあなたを許さない僕はあなたを許さない僕はあなたを許さない僕はあなたを許さない僕はあなたを許さない僕はあなたを許さない」
魔神は軽んじるように、言った。
どけ
小僧
じゃまだ
もうすぐあれがやってくる
あれと呼ばれたリィエはあまりの巨大さにとっくに姿はそこから見えてはいたが、遠いので霞がかかっていた。
目の前からどかないシュカを消そうと、魔神はハエを払うように腕を振った。
瞬間移動するようにそれを避けたシュカは、光の雲の上に立ち、だぼついた服を脱ぎ捨てた。
その両腕の付け根に近い部分には茨のようにトゲのついた、細い腕輪がはまっている。
トゲはシュカの肉に突き刺さり、何かを抑えつけるように暗い緑色を湛えている。
「決めたよ、姉さん」
シュカは覚悟を決めた者の顔で、呟いた。
「僕は姉さんのために……解き放つ!」
茨のような腕輪が、弾け飛んだ。
リィエがようやく到着した。しかし到着するなり、目がつぶれた。
腕輪をはずしたシュカの体が、弥勒菩薩のごとく、太陽光線を四方八方に発射するように、輝いたのだ。
ぎゃああああああ!!!
リィエは倒れた。
きさま
それは……
その力は……!?
魔神がたじろいだ。




