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食欲怪人勇者姫リィエのぼうけん  作者: しいな ここみ
第一章:戦争勃発 ~ 魔族を食い荒らす食欲怪人と哀しげな魔王 ~
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リィエ姫のゆくえ

パキン


ポキン


むちっ むちりっ


はむっ がぶっ くっちゃくっちゃ



 そんな音を立ててオークを食べるリィエ姫の姿に、


「うげえ……っ」

 ロウは引いていた。


「姫……様……」

 シュカは放心していた。


「姫はご病気なのだっ! 呪いをかけられているのだ!」

 レオメレオンは泣いていた。


「とても勇ましい食べっぷりだ」

 フーガ様はにこにこ満足そうだった。




ふー


ごちそうさま


7体ぜんぶ


ちゃんとおいしくいただきました



 お腹が満ちたら理性が戻って来た。

 自分が食べたものの残骸を見る。

 ホラーだ。まるでホラーだった。

 でも気にしない。

 食べるということは本来、ホラーなのだ。



いのちは大切に


食べるために殺すのは


神様だって認めてる


あなたたちは私の血となり肉となり、骨となってくれるのです


感謝



「一刻も早く呪いを解かなければ……」

 レオメレオンが口を開く。

「フーガ様! このままでは姫があまりにも不憫です! 早く何とかいたしましょう!」


「まあ、そう慌てることもないでしょう」

 フーガ様は呑気に構えるつもりだ。

「このまま魔族を食い尽くしてくれれば、世界も平和になることですしね」


「しかしこれまで大人しかった魔族がなんで急に攻めて来たんだ?」

 ロウは不思議がる。

「おいフウガ。てめェ、何か知ってやがるんじゃねェのか?」


「フフフ……。まさか」


「姫様……」

 シュカは心配そうにリィエを見つめていた。






 だだっ広い自室に戻り、海みたいなベッドに身を投げ出すと、ぱんぱんになったお腹をぽんぽんと叩く。

 焼いたやつはスペアリブみたいだった。辛いのが結構好きなリィエに合わせてくれたみたいに黒胡椒が効いてた。

 生のやつは意外にも豚まんの味だった。皮がまんじゅうみたいにフカフカしてた。ピリッと辛子が効いてた。



おいしかったな……


でも


もう食べられません



 ようやく感傷が襲って来た。

 リィエは5人ぐらいがいっぺんに頭を乗せられそうな枕を抱くと、考えた。



パパ


ママ


泣いてるかな……



 そしてまた考えた。



牛車に轢かれた本物のリィエ姫は?


どこに行ったんだろう……



 閃いた。



もしかして


あっちの世界の


あたしが元いた世界のあたしの体の中に?


あたしたち


入れ替わったのかも?




 それなら心配いらないように思えた。

 リィエ姫様が小早川理恵になり、両親を泣かせずに、学校にもちゃんと行ってくれている。庶民の生活が、しかもこことは違う現代の生活が珍しくて、楽しくやってるんじゃないだろうか。

そう思ってからすぐ、違うような気がした。



きっと泣いてる


優しいレオと離れて



 そしてすぐに気づいた。



あれ?


リィエ姫のパパとママは?



☆ ☆ ☆ ☆


「申し訳ありません、サイラス様」

 イクィナスは城に戻ると平伏した。

 暗い城内で人間の姿に返っている。

「リィエ姫をお連れ出来ませんでした」


「サイダ・フウガに邪魔されたようだね」

 魔王サイラス・カルルスは穏やかな声で言った。

「仕方ないさ。彼のほうが一枚上手だった。さすがは大賢者だ」


「しかもオーク兵を7人……犠牲者を出してしまい」


「それだよ」

 魔王はそう言うと、涙声になる。

「あの姫君、非道すぎる。君は逃げたから見ていなかっただろうけど……見なくて幸いだ」


「まさか……やつらめ、死体を弄んで?」


「それどころじゃないよ。……まぁ、知らないほうが幸せだ」


 一体、死体に何をしたというのだろう?

 見たところ虫も殺せなさそうな、かわいらしい姫君だったと思ったが……。

 イクィナスは背筋にゾゾゾと寒気を覚えた。


「とりあえず手を考えよう」

 魔王はそう言うと、涙を拭いた。

「姫を一人に出来さえすれば、僕が何とかする」


★ ★ ★ ★


 眠りに落ちかけていたところにノックの音が3回鳴った。


「姫、レオでございます。入ってもよろしいでしょうか」


 リィエはその優しい声を扉越しに聞くと、なんだか居心地が悪くなってしまった。

 それでも「どうぞ」と声を返すと扉が遠慮がちに開き、黄金の額縁の中に心配そうな顔が覗いた。



「あのようなものをお召し上がりになって、体調は如何か心配でしたので、失礼ながら様子を伺いに参りました」


 立派な鎧姿に赤いマントの戦士はそう言うと、恭しく礼をする。

 リィエはその姿を直視出来ず、俯いて黙っていた。


「姫? やはりどこか調子がおかしいのですか?」

 レオメレオンの勇ましい声に不安の色が混じる。


 でもリィエはやっぱり黙っていた。


「お薬を持って来させましょう」



待って



 リィエはようやく声を出し、出て行きかけたレオメレオンを呼び止める。



やっぱり


黙ってらんないよ



「姫?」



あのね


 リィエは顔を上げると、泣きそうな顔で謝った。


あたしはね


リィエ姫じゃないんです


ごめんなさい



 打ち明けた。こことは違う世界で農耕用の車に轢かれて、おそらくは死んだのか、リィエ姫の中に転移して来てしまった一般庶民のただの女の子だと。レオが忠誠を尽くしてるお姫様はたぶん別のところにいて、ここにいるのは忠誠なんか尽くす必要もない、姫でもなんでもないうんこみたいなやつだと説明した。


 すると黙って聞いていたレオメレオンは優しく笑い、


「知っていましたよ」



え?



「私は姫が産まれてから17年間ずっとお側に仕えていたのです。中に別人が入り込んでしまったことぐらい、すぐに気づきますとも」



怒らないの?



「どうして怒るなど出来ましょうぞ」

 レオメレオンは敬礼すると、ベッドに座り込んだ。

「本物のリィエ様は貴女の体が受け入れ、守ってくださっておられるのでしょう? 感謝こそすれ、怒る理由などありませぬ」



でも


あたしはニセモノなんだよ?


図々しくお姫様の中に入ってる……



「あなたがいてくださらなければ姫様は、おそらくあの牛車に轢かれてお亡くなりになっていた。あなたのお陰でこうしてご無事でいてくださるのだ。呪いは解かなければなりませんが……」


 姫のベッドに座って来るなんて

 大胆!

 リィエがそう思っていると、レオメレオンはそれどころかおおきなてのひらで頭を撫でて来た。


「リィエ様のこの髪の毛の一本一本が、リィエ様なのです」

 保護者のような言い方で。

「貴女がどのように仰ろうと、私には貴女はリィエ姫以外の何者でもございません。お守りさせてください。たとえ貴女が不要と申されようとも、このレオメレオン、この命が尽きるまで、お守りする次第でございます」


 リィエの言葉を信じたのか、

 それとも信じてはいないが否定はしないのか、

 わからないが、レオメレオンはたとえニセモノでも守ってくれると言った。


 リィエはそれを聞くと、心から甘えるように戦士の肩に頭を乗せた。




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