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食欲怪人勇者姫リィエのぼうけん  作者: しいな ここみ
第三章:四人の王女 ~ リーザはいらない子 ~
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食欲怪人勇者姫覚醒

 扉を通って帰って来た大賢者の姿を見て、側近のポカリス・ウェットン卿は驚きの声を上げた。


「フーガ様!? 大丈夫ですか!?」


「やられたよ……」

 フウガは悔しそうに笑うと、ソファーに身を投げた。

「まさか魔族の小娘ごときの毒にこれほど消耗させられるとはね……」


「アクエリア様を代わりに送られたようですが……あちらはどうなって……あの猛犬を放たれても大丈夫なのですか?」


「まぁ、最悪ヘーゼル様さえご無事なら私はいいんだ」

 フウガはそう言うと、水晶玉を取り出す。

「魔族の小娘は仕留めるところを見た。その後、どうなったやら……」

 少し残酷なものを楽しむ表情で水晶玉に景色を映し出す。


 水晶玉の中には『食欲魔獣』に変身するアクエリアの姿が映し出された。

 進軍する軍隊の先頭にとてもおいしそうなものを見つけたらしい。よだれが三つの口から溢れている。

 フウガは軍隊の先頭に立ちふさがった巨大なものの姿を確認し、声を上げた。


「魔神ウィロウ!? ……まさか」

 水晶玉に顔をくっつける勢いで近寄ると、届くわけもないのに声を上げる。

「やめろ! アクエリア! それにはお前は敵わない!」


 巨大な魔獣と化したアクエリアが駈ける。

 それより遙かに巨大な魔神が靄の中で待ち受ける。

 砂煙が上がった。いや砂嵐だ。

 咆哮を上げてアクエリアが魔神に飛びかかり、あえなく三つの頭すべてを食いちぎられる。


「アクエリア!!!」


 フウガは泣き叫ぶような声を上げた。


 それから水晶玉の中を見つめたまま、長い間絶句していた。


☆ ★ ☆ ★



モーラさん


どうもありがとう


あなたがいなかったらあたしは


この草原をどこまでもバスケットボールのように転がって行くところでした



 リィエはモーラに足首を掴まれて逆さまになったまま地上ギリギリを飛んでいた。


「理恵ちゃん」

 モーラは大蛇モードになって飛びながら、リィエに語りかける。

「あの魔神を倒せるのはあなたしかいない。頑張って」


 リィエは正直な気持ちを答えた。



頑張ってと言われても


意味がわかりません



「あなたの中に眠る力を呼び覚ますのよ」



あたしは出来れば


ずっと眠って食ってを繰り返したいです



「ふざけないで」



ふざけていません


元々こういう


うんこ人間ですから



「あなたはうんこ人間なんかじゃないわ」

 モーラは諭すように言った。

「あなたは世界すべてをうんこにする側の人間なのよ」



ははは



 リィエは逆さになって、まるで鷹にさらわれたウサギのようなポーズで地面スレスレをかすめながら大笑いした。



うまいことを言いますね



「その力を解放なさい」

 モーラは命令した。

「あなたの秘められた食欲の力を解放するの」




まさか


この私に


まだ秘められた食欲が!?



「あるはずよ」

 モーラはそう言いながら、前方を険しい顔で見つめる。

「潜在食欲が! それを今、解放しなければ……アーストントンテンプル軍は壊滅するわ! みんなあの魔神に食べられてしまう!」



食うか


食われるか



「そうよ!」



食われるしか


ないのか



 リィエは残念そうに言った。


「諦めないで! あなたはこの世界を救う勇者なのよ!」



逃げたい



「わかるでしょう!? 逃げたら回り込まれる!」



あー


うー



「食欲を発揮しなさい! それは得意でしょう?」



あー


むしろ


それしか得意がないというか……



「前にいるものに意識を集中して! ごはんを食べる時、目の前のウメボシに意識を集中して口の中をヨダレでいっぱいにするみたいに!」



どっちかっていうと


黒毛和牛ステーキのプラモデルを前に置いて


食欲を高めるイメトレをするほうですね、私は



「いいから早く!」

 モーラの声に焦りが混じる。

「あれを見て!」


 リィエは引きずられるように飛びながら、なんとか前を見た。

 巨大な緑色、白、ピンクの入り混じった何かが、首のなくなったアクエリアの胴体を両手で掴み、貪り食っていた。



なんだ


ありゃ!!!



「魔神ウィロウよ」

 モーラは教えた。

「あれをあなたが食べれば、この戦争は終わるの」



あれが外郎ういろう!?



「悔しいけど……あれを食べて戦争を終わらせましょう。フウガを殺り損なったからには仕方ない。サイラスも自業自得よ。あなただけに留まらずリーザの命まで脅かすなんて……」



外郎っていうより


あれは……



 リィエは魔神を見て叫んだ。



あんなでっかいリブロースステーキ


初めて見た!!!



 リィエの心の底から何かが這い上がって来る。

 マグマのように、元々世界一高い山をさらに高くしようとする何かが。

 オーバ兄弟を食べて大きく経験値を上げていたせいもあったかもしれない。

 しかしそれ以上に、魔神ウィロウの匂いと見た目はリィエの食欲を凄まじくかき立てた。

 芸術家が夜空に浮かんだ白い月を見て美しさの向こうに存在の真実を発見するように、雷に打たれるようにリィエは今、それを知った。



これが食欲というものだったのか


我、食べたいと激しく欲す


ゆえに我、あり



 そのリブロースステーキは万人向けに作られた人為的な商品などではなく、まるでリィエ1人のために作られた野性味あふれるお肉のかたまりだった。しかもリィエの大好きな麺類、うどんやスパゲッティや中華そばでぐるぐる巻きにしてある。リィエは一瞬で理性を突破した。



ぐげげ……


ぐげげげえげげえええ!!


食わせろぉぉぉぉぉぉおおおおお!!!!!!!



「きゃっ!?」

 モーラは思わず掴んでいたリィエの足を離した。


 それはそのままぎゅんぎゅんと前へ自分で飛んで行った。


 飛んで行きながら、どんどんと姿を変える。

 巨大化し、さらに巨大化し、山のような大きさになりながらもさらに飛んで行った。




ぷぎゃらららららら!!!


草生えるぅぅぅぅうううううう!!!!!!



 真っ黒な食欲のかたまりが、神か悪魔の放った巨大な弾丸のように、魔神どころか惑星ひとつを食い尽くさんとばかりに、よだれの大雨を地上に三日三晩降らせながら飛んで行った。



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