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食欲怪人勇者姫リィエのぼうけん  作者: しいな ここみ
第三章:四人の王女 ~ リーザはいらない子 ~
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乱闘

「こっちへ来い!」

 リーザはそう言うと、馬車から身を乗り出した。

「幌の上で勝負だ!」


「フフ……」

 誘われたコハクは無表情にフウガのほうをチラリと見ると、ついて行く。

「リーザ姫、あなたは標的に入っていないけれど、お望み通り勝負してあげるわ」


「何をしている!」

 リーザはついて来るコハクの背中のほうに向かって目を向け、言った。

「ついて来い!」


「あらら」

 コハクはお手上げといった風に首を振ると、消えた。

「さすがにこの程度の騙しはあなたには通用しないようね」

 コハクの背後に座っていた本物のコハクが立ち上がる。


「毒を喰らった時は油断しただけだ」

 リーザはまっすぐ本物のコハクを見つめる。

「私にお前の『騙し』は通用しないぞ」


「へぇ、面白そう」

 コハクはケラケラと無表情なまま笑うと、今度こそ本当について来る。

「仕方ないわ。死にたいというのなら殺してあげる」

 そしてカーニィを振り返り、

「それだけ弱っているなら1人で殺れるわね? 私はこの邪魔者姫を始末するわ。すぐ戻るから、しっかり大賢者様を殺しておいてね」


「任せて、コハク姉」

 カーニィはそう言うと短剣を二本取り出した。刀身が緑色に濡れ、毒がたっぷり塗ってあることは明白だ。




フウガ


早くあたしを食欲怪人に変身させて!



 リィエの言葉にフウガは苦笑した。


「そんな力が残っていると思いますか?」


 メロンは毒の介抱をしようと思ってリーザの胸にくっついたままだ。

 リィエの胸に戻りかけようとして、どうしようかと迷っているうちにリーザとともに馬車の幌の上に登って行った。


 メロンがリーザにくっついて行ってしまったのを見て、フウガが舌打ちする。今、リィエを狙われたら守る者がいない。


「さあ、大賢者様」

 カーニィはフウガしか見ていない。美味しいものを目の前にしたように、ぺろりと舌なめずりする。

「あんたを殺せるチャンスをくれて、感謝感激するにゃー」




「あっ! メロン……」

 リーザはようやく自分の胸にリィエ姫のためのガーディアン・スパイダーがくっついていることに気づき、慌てた。

「駄目じゃない! リエちゃまを守ってなきゃ……」

 しかし既に馬車の幌の上に登ってしまっている。


「ひ、ひひひ……」

 メロンは緑色の髪を風になびかせ、ばつが悪そうに笑った。

「し、仕方がないでしょ。リーザ様がずんずん歩いて行くもんだから……」


「よそ見だなんて、余裕ぶっこかれたものね」

 コハクはそう言うと、短剣を構えて突進して来た。


 しかしリーザはよけようともせず、上を見る。


「見えている!」

 そう言うなりリーザは何もない空に向かって剣を振った。


 ギャアン!


 振った剣が何かに当たり、金属音が響く。


「ふぅん」

 何もなかった空にコハクの姿が現れ、短剣を引く。

「予想外に私の天敵みたいね」


「降りて来い」

 リーザが直立不動で空を睨む。

「正々堂々と勝負しろ、この卑怯者」


「あなたは空を飛べないのね」

 からかうようにコハクが口だけで笑う。

「人間って可哀想」


「あっ」

 リーザが声を上げた。

「あんた、後ろ後ろ。危ないよっ」


「引っかかるとでも思う?」

 コハクはつられて後ろを向くことはせず、言った。

「騙しのプロの私を騙そうなんて……」


 バコッ!


 後ろから飛んで来た大蛇にどつかれ、コハクが落下する。


「リーザ! 大丈夫!?」

 コハクを叩き落としたモーラが聞く。


 自分めがけて落ちて来るコハクにリーザは剣を構える。


「ハァッ!」


 剣筋一閃、コハクの足首を狙う。


「やめてよ!」

 コハクの足首から短剣がにょっきりと出現し、防御した。

「なんでそこを狙えるのよ! 憎たらしいわね!」


 足を引っ込めるなり、コハクの上下が逆になった。足のほうが頭で、首のほうは鎧を着けた足だった。リーザが首を狙っていたら剣を鎧で受け、短剣で腹部を突き刺すつもりだったようだ。


 リーザは飛んで来たモーラに声を投げる。

「お姉ちゃま! 私は大丈夫だから、リエちゃまとフウガをお願い!」


「わかったわ」

 モーラはそのまま幌の中へ入って行く。

「メロン! リーザをお願いね」


「うぅふ……」

 メロンは珍しく自信なさげに言った。

「コイツの攻撃、どこから来るのか見えない……」




 カーニィは用心しながらフウガに近づいていた。

 弱っているとはいえ相手は大賢者、油断はできない。


 フウガはちらりと後ろを見る。

 そこにはやって来た時のまま、開いたままの『どこでもドア』がある。


「……仕方ない」

 フウガは悔しそうに言った。

「カーニィ・カーマ・ボコボコ。君の毒は大したものだ。この私の力をここまで解毒のために消耗させるとは」


「隙ありにゃー!」

 喋りながら扉に向かって手を伸ばそうとするフウガにカーニィが短剣を振り上げ襲いかかる。


 リィエは何も出来ずにドキドキしながら見ていた。


 フウガは無詠唱の風魔法でカーニィの短剣を吹き飛ばした。が、右手だけだ。左手の短剣がフウガの頬をえぐる。



フウガ!


 リィエは思わず叫んだ。


食欲怪人


食欲怪人


あたしの中から出て来て!


うーん、うーん!



「リィエ姫」

 フウガは頬から血を流しながら、冷静に言った。

「実は食欲怪人はあなただけではない」

 そして扉に差し入れていた手を抜くと、その手には鉄の鎖が握られていた。

「来い、アクエリア! 久々に暴れさせてやる」


 フウガが鎖を強く引っ張る。

 扉の中から褐色の肌に長い黒髪の美女が現れ、ニヤリと笑いながらカーニィを見た。そして一言発した。


「わん」


 その静かな一言は馬車を揺るがし、カーニィの体を激しく震わせた。



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