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食欲怪人勇者姫リィエのぼうけん  作者: しいな ここみ
第三章:四人の王女 ~ リーザはいらない子 ~
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誤解

「コハク姉!」


 ロウから毒をうつされた姉を見て、カーニィはすぐに飛び上がった。

 胸の間から解毒薬を取り出し、飲ませる。


「あら、あなたも飛べるんじゃない。なんでお姉ちゃんの背中に乗ってたの? 甘えっこ?」

 そう言いながらモーラがうねうねと空を泳ぐ蛇になって追いかけて来る。

「で……解毒薬はそこなのね」


「あたしは大丈夫よ、カーニィ」

 毒を消し、無表情に戻ったコハクが言う。

「そのゴミ姫を早く始末して」


「そしてオレたちはアレをしようか」

 ロウがコハクの肩を抱く。

「しっぽりアレしようぜ」


「そうね。うふん」

 コハクは無表情に言った。

「あなたのキス、美味しかったわ」

 そう言いながら思い切りロウの股間を蹴り上げた。


「ぎゃぁぁぁあーーーっ!!!」

 ロウが潰されたカエルの断末魔のような声を上げる。


「ファースト・キスだったのに!」

 コハクの顔に激しい怒りと涙が浮かぶ。

「殺してやる! このボサボサマユゲ野郎!!!」


☆ ★ ☆ ★


 リーザは再び意識を取り戻した。

 体から毒が消えているのを感じる。自分の喉元にフウガの大きなてのひらがあった。毒はそこから吸い出されているような感じだった。


「フウガ……。もう大丈夫みたいよ」

 リーザは起きあがろうとする。

「ご苦労様。もう休みなさい」


「まだ……僅かに残っています」

 元気を取り戻したリーザに対して、フウガは衰弱し、フラフラしている。

「すべて消すまでは……動くのはお待ちください」


「お前と話がしたいと前々から思っていたの。お話するぐらい、いいかしら?」


「どうぞ」


「助けてくれてありがとう。感謝するわ」

 リーザはそう前置きをし、

「でも本当はあなたは私を助けたくはなかった。そうよね?」


 フウガは黙って治療を続けた。


「お前は私を女王にしたくない。なぜなら私が人の嘘を見抜き、他人の知られたくないところまで見えてしまうから。そうよね?」


 フウガは衰弱した顔で苦笑する。


「不正をしている家臣は罰され、私をよく思っていない者は粛正する……。そんな社会に私がすると思っているのよね?」

 リーザは続けた。

「国は隅々まで正しいもので満たされ、今まで甘い汁を吸っていた者たちがそれに耐えかね、私を暗殺しようと動き出す。そうでない者たちも私に汚い面を見られることを恐れ、びくびくと過ごさざるを得ない」


「違いますか?」

 フウガは言った。

「私はそんな綺麗すぎる社会がまともなものだとは思えない。人間は天使と悪魔の間にあるものだ。どちらかに偏れば社会は異常をきたす」


「フウガ」

 リーザは毅然とした声で言った。

「私を誤解しないで」


「誤解?」


「私がこの力に気づいたのは7歳の時よ。それから8年、いろいろな醜いものを見て来たわ」


「そう……でしょうね」

 フウガはフラフラしながら笑った。

「それには同情いたします」


「それでも私、グレなかったでしょう?」

 自慢するようにリーザは明るく笑った。

「まっすぐ育ったでしょう? 誰も褒めてくれないけどこれ、実は自慢なのよ」


 フウガは治療をしながら黙って聞いた。


「お父様だけは汚すぎて直視できないけど、お母様が私を『いらない子』だと思っていることも知っているのよ」

 清々しい顔に微笑みを浮かべ、リーザは言った。

「私に見つめられてると自分の心の中の汚いものを強く意識しちゃうんだって。こんな悪魔みたいな子、母親として、王妃としての世間体がなければ、海にでも捨てて来たいんだって」


「それで……」

 フウガは聞いた。

「マルゴー様を……王妃様のことを恨んでらっしゃるのですよね?」


「いいえ」

 リーザはきっぱりと言った。

「許したの。お母様のことも、不正をしている家臣のことも。人間とはそういうものだと思って、許すことが出来たの」


 フウガは驚いたような顔をして、リーザを見た。


「だって私には人間の善い面もたくさん見えるんですもの」

 リーザは嬉しそうに笑い、言った。

「人間って可愛いのよ。悪魔にはとてもなりきれないわ。天使と悪魔を同時に心に飼っていて、悪魔が悪いことをしようとしても、必ず天使が止めに入るの。その時の天使の厳しいこと、厳しいこと。まるで鬼のよう。その時には悪魔のほうが可愛く見えちゃうほどよ」


「なるほど」

 フウガは苦笑した。

「確かに私はあなたを誤解していたようだ……」


「それに、こんな気持ちの悪い目を持った私でも、心から愛してくれる人たちもいるの」

 リーザはそう言って、シュカとリィエのほうを見た。


 リィエはシュカの頭を膝に乗せて、ぽかんと口を開けてこちらを見ていた。


「……そうだった」

 リーザはそれを見て思い出した。

「リエちゃまっ!! シュカとキスしたって……それがどう見たって嘘じゃないってどういうことよ!? いつの間にそんなこと……っ!!!」


 リィエはリーザの話を聞きながら「さすがだなあ、お姫様なんだなあ、天使みたいだなあ」と思っていたが、その天使の金髪の頭からツノが生え、悪魔か鬼のように変わるのを見た。



いや……


あれ実は


ペットのたぬきの話で……


からかっただけで……




「たぬき!? シュカはたぬきじゃないよっ!!」



いや……


あたしを見なさい


嘘、ついてないだろぉ?



「とにかく膝に乗せてるシュカの頭を下ろしなさいっ!!!」



はい……



「ム!?」

 フウガが声を出した。


 馬車が揺れた。

 人影が2つ、幌に映ると、それらは侵入して来た。


「見ぃ~つけた!」

 カーニィ・カーマ・ボコボコがリィエの顔を確認し、言った。

 そしてすぐに大賢者がいるのに気づき、驚いた声を上げる。

「あら! これって大賢者フウガちゃんじゃん! なんかあたしの毒のおかげでめちゃめちゃ弱ってるみたいよ!」


「凄いわ。今なら私達ごときでも大賢者を殺せちゃうかも」

 コハク・カーマ・ボコボコが無表情な顔を紅潮させた。

「リィエ姫を殺るより簡単そう。手柄としても比べようもないわ」


「じゃ、殺るわね!」

 カーニィが口から毒を噴射する。


「なめるな」

 フウガは印を結び、毒を空中で消した。

 しかし明らかにふらついている。


「やったわ。大賢者を殺せるなんてついてる」

 コハクがそう言いながら、短剣で刺し殺しに行く。


 フウガは無詠唱の風魔法でコハクの体を八つ裂きにした。

 しかしそれは本体ではなかった。後ろからコハクがフウガの首の後ろに短剣を振り下ろす。


「もらったわ」


 ギィン!


 短剣を弾かれ、コハクが後ろへ飛び退る。


「あんた……!」


「まさか……。あたしの毒を消したのか?」

 カーニィが驚いた顔で、コハクの短剣を防御した者の立ち姿を見た。


「フウガ、休んでいなさい」

 金色の長い髪をなびかせ、剣を構えて2人の敵を睨みつけるリーザ姫の姿がそこにあった。

「お前たちは許さない。この私が相手する!」





「ム!?」


 レオメレオンは軍の先頭を進みながら、前方に何かを発見した。

 人の形をしたものだ。しかし人にしては巨大すぎる。

 耳のあたりから大きなツノを二本、生やした巨人の影が、靄の中に出現したのだった。


「ロウはどうした? どこへ行った?」


 レオの問いに、近くにいた兵士が答える。


「モーラ姫様の助太刀に行くとか仰って、後ろのほうへ行かれました」


「こんな時に……!」

 レオは腰の剣を抜くと掲げ、兵士たちに叫んだ。

「前方に正体不明の巨大な敵出現! 気を引き締めよ!」

 そして付け足した。

「食欲怪人をあてにするな! 我らの力だけで撃退するぞ!」



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