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食欲怪人勇者姫リィエのぼうけん  作者: しいな ここみ
第三章:四人の王女 ~ リーザはいらない子 ~
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2対2

 リィエがリーザの体を拭いてやっていると、背中でガチャリと扉が開く音がした。



えっ?


この馬車


扉なんてついてたっけ?



 振り向くと背の高い銀色の長髪のハイエルフがなんだか悔しそうな笑顔を浮かべてそこに立っている。

 その背後にいつの間にかそこに出現している扉があった。



どこでもドアだ!


出て来るところ見ちゃった



「ごきげんよう、リィエ姫」

 フウガは言った。



ごきげんよう


久しぶりに見ると


見た目の綺麗さも声の美しさも増して感じるね


中身はどんだけ汚いか知んないけど



「リーザ姫の治療に来たんですが」

 フウガは笑いながら、言った。

「そんなことを仰るのなら帰りましょうか」



ごめんなさい


ひどいこと言ってごめんなさい


お願いします



「シュカ。替わろう」


 昨日からずっとリーザの喉元に手を当て続けていたシュカは、フウガの言葉に安心したように笑った。

「お願いします、フーガ様。……よかったです、来てくれて」


 フウガがリーザの喉元に手を当て、光魔法を注ぎはじめると、シュカは仰向けに倒れた。しかし意識はしっかり保ったまま、フウガに聞く。

「解毒……できますか?」


「どんな種類の毒なんだ?」


「種類は……わかりません。肉体ではなく魂に作用する毒のようです」


「なるほどな」


「解毒……できますか?」


「やってみる」

 フウガは冷たい表情をして、光のパワーを上げた。


 リーザがびっくりしたように目を開ける。

 自分に光を当てている者の顔を確認すると、乾いた唇を動かした。


「フウガ……。来てくれたのですね」




喋った!


今まで喋ろうとすると血を吐いてたのに!


フウガすごい!



 褒め称えるリィエには何の反応もせず、フウガはリーザに話しかけた。


「もちろんですよ、リーザ姫。あなたは我が国になくてはならないお方ですからね。仕事があったのですぐには来られませんでしたが、一刻も早く私が手当をしに来てあげたかったのですよ」


 フウガの言葉を聞いて、リィエは心の中で突っ込んだ。



おいおい


あたしに『真実を見る瞳』はないけど


言ってることと心の中が食い違ってるのバレバレなんですけど……


大人って


汚い……



 しかしリーザはフウガに明るく微笑を返した。


「やはり我が国で一番頼りになる人物はあなたね、フウガ」


 シュカは2人のやりとりを暫く聞いていたが、すぐに安心したように眠ってしまった。


「来るのが遅くなってしまい、申し訳ありません。リーザ姫。ずっと心配しておりました。さぁ、もう黙って。お体に障ります」


 リーザはにっこりと笑い、目を閉じた。

『真実を見る瞳』でもフウガの嘘は見抜けない。

 しかし見抜くまでもなく、フウガが城で側近の者たちにどんなことを言っていたかは想像がついた。


「このまま毒で死んでくれたらいいのに」

「リーザ姫うざい」

「見抜かれたくない人の心を見抜くあの小うるさい姫が女王になったらこの国は乱れる」

「絶対助けになんて行かないぞ」


 そしてそんなフウガを動かしたのが誰なのかもわかっていた。父も母もフウガにそんな命令などしないだろう。表向きはどうあれ、実際にはフウガが国王に命令をする側なのだ。


「ヘーゼル」

 リーザは小さく呟いた。

「ありがとうね」


☆ ★ ☆ ★


 上空に出現した2体の魔物を仰ぎ、モーラの額を汗が伝った。


 1体は赤く燃える巨大な鳥、朱雀だ。炎の中に白い巫女装束を着ているのがわかる。赤と白で紅白かまぼこのようだった。

 もう1体は虎の体に蛇のしっぽ、猿のような顔をした魔物、鵺だった。虎の体はまるでかにかまのように赤と白のツートンだ。


「ふーん」

 モーラは言った。

「あんた達、本当はそんなにブスだったのね」


「ブスはてめーだろ、蛇女」

 鵺のほうが言った。


「あなた魔族の血が半分混じってるようね」

 朱雀が言った。

「その中途半端さ、まさにゴミ姫ね。人間なんて何の特殊能力もない、道具に頼らなければ何も出来ないゴミ生物よ。そんなものの血が半分入ってるあなたに私達は倒せっこない」


「人間を舐めない方がいいわよ」

 モーラは笑った。

「力を合わせたら凄いんだから」


「ほら、群れなきゃなんにも出来ないゴミじゃん」

 鵺が笑い返す。

「踏みつぶして本物のゴミにしてやるにゃー!」


 朱雀の背中に乗っていた鵺が飛び降り、襲いかかって来た。

 モーラは口の中で唱えていた呪文を発動させる。

 背中から無数に飛び出した蛇のしっぽが針のように、降って来る鵺を串刺しにしようとする。


「つまようじかにゃー!」


 鵺の巨大な顔が近づいて来た。蛇の針山をバキバキと音を立てて折りながら。

 その爪がモーラに襲いかかる。


「脆いわね、ゴミ姫」

 上空に留まったまま、朱雀が言った。


 ギィン!


 鵺の爪が弾かれた。


「にゃに!?」


「楽しそうなことやってんじゃねーか」

 男の強い声がした。


「ロウ!」

 モーラは自分を守るように立ち塞がった男に向かって、言った。

「邪魔しないでよ。これからが楽しいとこなんだから!」


 いつの間にか現れていた黒ずくめの剣士は、刀身が青く燃える細身の剣で軽々と巨大な爪を弾き返すと、鵺を後ろから羽交い締めにした。


「そんなでかいもの、よく羽交い締めにできるわね!」

 モーラがびっくりする。


「はあ? べつにそんな大女じゃねーだろ?」

 ロウが不思議そうに言う。

「ま、おっぱいは大きめだけどな」


 よく見ると鵺は普通の人間大の大きさに戻っている。

 モーラは上空の朱雀を楽しそうに睨みつけた。


「もしかして……。これも詐欺だったのかしら? 本当の姿はやっぱり可愛らしい女の子なの?」


「さあ、楽しいアレの始まりだ」

 ロウがカーニィの薄い皮の着物一枚のムチムチボディーを後ろから羽交い締めにしながら、言った。

「オレのアレをお前にアレしてアレをアレにしてやる」


「や、やめろぉぉぉぉお!!!」

 カーニィが絶叫した。

 その手は毒を放とうとしている。


 片眼鏡でロウのプロフィールを確認していた朱雀が声をかけた。

「ねぇ、ロウ。やめてあげて? 私達のこと忘れたの? 私達にそんなことするなんてひどい。もう友達やめるよ?」


「隙を作ろうったってそうはいかねェ」

 ロウは毒を放とうとしているカーニィの手を掴み、背中に自分の胸をねちっこく擦りつけた。

「大体オレはお前なんて知らねェ。一度会った女の顔は覚えてんだ」


「なっ、何?」

 朱雀がコハクの姿に戻り、無表情で狼狽える。

「こっ、この男……。私の騙しが効かない!?」


「ロウ、その女の子をリーザのところへ連れて行って。その子が毒使いよ」

 モーラはそう言うと、上空を睨んだ。

「あたしはあの無表情さんのお相手をするわ」


「いやだね」

 ロウは拒否した。

「オレはこれからこの娘とアレするんだ」


「アレはやめろぉぉぉお!」

 カーニィが動きを封じられながら絶叫した。

「やめてぇぇぇぇえ!!!」



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