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食欲怪人勇者姫リィエのぼうけん  作者: しいな ここみ
第三章:四人の王女 ~ リーザはいらない子 ~
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モーラ vs ボコボコ姉妹

「見えて来たわ」

 草原をムササビのように低空飛行しながら、コハクが言った。

「リィエ姫のいる軍隊よ」


「蟻の大群のようだわ」

 その背中に乗っているカーニィが侮るように笑った。

「あたしたち2人だけで壊滅させられそう」


「あら? 何かこっちへ飛んで来るわね」

 そう言いながら、コハクが片眼鏡を懐から取り出し、かける。

「何かしら」


 黒い蛇のような何かだった。細長いそれはしっぽを風になびかせてあっという間に近づいて来ると、マシンガンの弾のように口から無数の蛇を発射して来た。


 コハクは腰につけていた狐のマスコット人形をはずす。

「フン」

 鼻で笑いながらそれを横へ放ると、蛇たちは軌道を変え、みんな狐を追いかけて行った。


「あら」

 ぐんぐん近づいて来ながら、真っ黒い女の顔が笑う。

「面白い術を使う子ね」


 コハクは片眼鏡を通して敵を見ながら、口の中で呟いた。

「第一女王モーラ……。王位継承権のないゴミ姫か」


「その背中に乗ってる毒使いの妹ちゃんを渡しなさい」

 モーラは強引にかっさらう勢いで突っ込んで来る。

「お姉さんのほうはいらないから、撃ち落とすわね」


 モーラの全身からハリセンボンのように無数の蛇が飛び出す。トゲつき鉄球のようになったモーラが突っ込んで来る。


「待って! あたしよ!」

 コハクは大きな声を出した。

「見忘れたの、モーラ?」


 そう言われてモーラの動きが緩んだ。

 トゲトゲを収めてコハクの顔を確認するように見て来る。


「あら? あなた……。そう言えば知ってる顔ね。とても親しかった気がするわ。誰だったかしら……」


「にゃー!」

 背中に乗ったカーニィが右手から毒を噴射した。

 顔面にまともに浴び、モーラは墜落して草原に身を叩きつけた。何度もバウンドしながら後ろへ消え去って行く。

「致死量の10倍食らわせたった。気持ちいー。死んどけ、バーカ」


「あなたみたいなゴミ姫とこの私が会ったことなどあるわけがないでしょう」

 コハクは無表情に言った。

「私の顔を見れば誰でもが『どこかで会った』と錯覚し、親しみを覚えるだけよ。おばかさん」


「さあ、あれに追いつこう。リィエ姫を殺しに行こう」

 カーニィがはりきる。


「今のでほんの少しだけスピードが落ちた。飛ばすわよ、カーニィ」


 コハクが飛行の速度を上げる。

 前方から何やら黒い蛇のようなものが飛んで来た。


「え?」

 コハクが思わず声を漏らす。


「あれって……」

 カーニィも声を出した。


細長いそれはしっぽを風になびかせてあっという間に近づいて来ると、マシンガンの弾のように口から無数の蛇を発射して来る。


「チッ」

 コハクは舌打ちをすると、腰につけていた狐のマスコット人形を横へ放った。

 蛇たちは軌道を変え、みんな狐を追いかけて行く。

「何だかわからないけど……、はめられた?」


「ホホホホ!」

 モーラが赤い口を開けながら突っ込んで来る。

「今度は騙されないわよ」


「うにゃ!」

 カーニィがまっすぐ毒を放つ。

 モーラは口の中にそれをすべて吸い込みながら、突っ込んで来る。

「うわー。バケモノだよ、あれ。コハク姉」


 コハクは上昇して逃げる。モーラは追って飛んで来た。


「逃げられないわよ」

 モーラは並んで飛びながら、姉妹に話しかける。

「真っ黒けの世界へようこそ」


「なるほど。ここはあなたの魔法フィールドの中なのね」

 コハクが納得したように、落ち着いた声で言った。

「いつの間に展開していたのかしら。プロの詐欺師を騙すなんて、なかなかムカつくじゃない」


「リーザの毒を解きなさい」

 モーラは脅すように言った。

「背中に乗ってるあなたが解毒薬を持っているんでしょう?」


「それなら闘う必要ない。私たち、間違えて毒をかけてしまったリーザ姫を助けに来たんですもの」

 コハクが言った。

「馬車に案内して。すぐに楽にして差し上げるわ」


「信じられると思う?」


「お互いの心の中なんて見えないんだから、人は信じ合うしかないのよ。信じることをやめてしまったら絶望しかない」


 モーラは問答無用で襲いかかった。自分の体を黒い霧に変え、コハクの中に口から入り込む。


「ああっ。絶望的な人ね」

 コハクは黒い霧に体を侵されながら、呑気な声で言った。

「リーザ姫を助けるという話だけは本当なのに」


 コハクの体が内側から弾けた。

 乗っていた肉体が四散し、足場を失って墜落しかけるカーニィに、再び実体化したモーラが蛇のように巻きつく。


「さあ、リーザのところへ連れて行くわよ」


「にゃはは!」

 カーニィは楽しそうに笑った。

「こんな毒々しい女の子を人のいっぱいいるところへ連れて行ってくれるの? 嬉しー」


「……なんかおかしいわね」

 モーラが怪訝そうな顔をする。

「お姉さんを殺されて、なぜそんなに楽しそうなの?」


「殺された?」

 カーニィはにやにやと笑う。

「誰が?」


 草原に自動車に轢かれた複数のネコの死体のように散らばるコハクを見せながら、モーラは答えた。

「あなたのお姉さんよ。あそこに死体があるでしょう?」


「なんで?」

 カーニィは大笑いした。

「なんであれがコハク姉だって思ってたの?」


「え?」


「そんでもってなんで?」

 カーニィはまた大笑いすると、

「なんでこれがあたしだって勘違いしてるの?」

 大量の毒を噴射しながらその体が爆発した。


「ううっ!?」

 モーラは咄嗟に魔法障壁を張り、毒を防いだ。

「なるほどね……」

 そして天を仰ぐ。

「それがあんたたちの本体ってわけね」


 太陽を覆い隠し、空には白い体を赤く燃やして舞う朱雀と、馬鹿にするような眼でこちらを見下ろしている鵺が飛んでいた。


「ゴミ姫のくせに」

 朱雀が言った。

「私を殺したつもりだった?」


「人間ごときが魔族にかなうわけねーだろ」

 鵺が哄笑した。

「毒を使うまでもねー。踏みつぶしてやんよ」


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