リィエ、国王との初対面
リィエは朝食にハーピーの丸揚げを食べた。
ぱきぽきと羽根の骨を立てながらハーピーを貪るリィエをロウは隣で面白そうに見ていた。
ロウと一緒に森の側を通ってリーザのところへ向かう時、リィエは凄いものがそこにあるのを見た。
どこでもドアだ!
本当にあったんだ!
誰が通って来たんだろう?
やっぱり耳のないネコが!?
何もない空間に開かれているその扉を見て、ロウが言った。
「ああ。こりゃフウガの魔法グッズの一つ、『どこでもドア』だな」
やっぱりどこでもドアだ!
本当にあったんだ!
兵士たちがリーザのために川から汲んで来た水を運んで追い越して行った。
「あっ。国王だ。国王が来てやがる」
ロウが遠くを見ながら、言った。
「お前、うまくやれよ? 中身が本物のリィエ姫じゃねェってバレたら面倒なことになんぞ」
うまくって……
どうすれば?
「呪いにかかってアホになったフリしてりゃいい」
なんだ
素でいいんじゃん!
リーザ……大丈夫かな?
テントを潜るとでっぷりとしたオッサンが振り返った。
頼りなさそうな顔をしているわりに偉そうだ。
「おお! リィエ!」
ハグして来たので思わず避けた。
「どうした? ……何か様子がおかしいな。おかしなものでも食べたか?」
はい
ハーピーの……
リィエの失言を遮ってロウが言った。
「コイツ、魔王に呪いをかけられておかしくなってんだよ。これはその呪いを解くための戦争だ」
「呪いだと!?」
国王は腰を抜かすほどに驚き、遅れて飛び上がった。
「リィエがアホになってしまったというのか!?」
「ああ。その通り、超がつくほどのアホにされちまったんだ」
「まあ! リィエ!」
母が大袈裟なほどの悲しみを顔に浮かべて抱きついて来た。
「アホにされる呪いにかかってしまったの!? まあ! まあ! 替われるものなら替わってあげたい!」
いや
貴女のその真っ赤なソフトクリームみたいな凄い髪型
とっくにアホだと思います
リィエの暴言に後ろからロウが頭をスリッパでどついた。
いたっ!
ところでリーザは?
容態変わりない?
見るとリーザがおかしそうに笑っていた。
「笑わないで。じっとして!」
シュカが叱ると、リィエに説明をした。
「少しよくなったようです。笑ったり動いたりできるくらい……。でも、これはかなり特殊な毒で……正直よくわからない。よくなっているのか、それとも単に一時的に収まっているだけなのか……」
特殊な毒?
「はい。どうやらこれは肉体に作用する毒ではなく、魂に致命傷を与えようとするような毒だ。肉体を破壊しようとしているのなら僕の光魔法で何とか出来ますが、こんな毒は見たことがない」
そっか……
じゃあやっぱり
殺されかけたのはあたしだったんだね
「どういうことだ?」
国王が首をひねる。
ロウが後ろからリィエの耳たぶをぎゅっと掴んだ。
いたっ! いたたたたた!
「変な説明とかおっ始めんなよ?」
ロウはヒソヒソ声でリィエの耳に言った。
「魔王がてめーの肉体じゃなく魂だけを殺そうと狙ってるなんて。てめーの魂が死ねば異世界に転移してる本物のリィエも戻って来て、戦争も終わって万々歳だなんて、言うなよ? 誰にも言うな」
なんだ
そう説明されたらやっぱり
あたしが死ぬのが一番じゃん?
「バカ野郎!」
ロウはリィエの耳穴に唾を吹いた。
「戦争終わらせんじゃねェ! オレの楽しみを奪うな! あとてめーが死んでもリーザがよくなるわけじゃねェからな! お前のこと慕ってるリーザのことだ、むしろ生きる気力失ってヤバいかもしんねーぞ」
うん……
魔神をあたしが食べちゃうのが一番なんだよね?
それでみんなが助かる
「わかったらリィエ姫のフリしろ」
リィエは国王と王妃に向かって日本式お辞儀をすると、言った。
くたばるのは
お前らだ
「意味わかんねーよ!」
ロウが後ろから背中に蹴りを入れた。
「確かにこれはおかしい!」
国王が深刻さを顔で表現した。
「まるでリィエの中に悪魔が入ってしまったようだ」
ひっひっひ
リィエは悪魔みたいに笑って見せた。
「ひひひひひ」
その胸にくっついているメロンも笑った。
「リィエは元に戻るんですの、ロウ?」
王妃が聞いた。
「さっきも言った通りだよ。この戦争に勝ちゃ元に戻るさ」
「では、グズグズしていられんだろう!」
国王がレオメレオンを叱る。
「一刻も早く進軍せよ! 魔王軍を滅ぼすのが何より先決だ!」
レオは呻いた。
シュカに話しかける。
「……シュカ。リーザ様の治療をしながら動くことは可能か?」
シュカは何も言わず、リーザの喉元に手を当てながら、うなずいた。
「しかしながらお前の力は戦闘にどうしても必要だ」
レオはひげのなくなった顔をつるつると触りながら、言った。
「ここにいれば毒を仕掛けた敵が姿を現すかと待っていたが……やって来ん。探索もさせているが、見つからん」
そして言いにくそうに、言った。
「敵と遭遇したらリーザ様から手を離し、戦闘のほうに力を貸してくれるか?」
リィエが叫んだ。
ばっ
バカか貴様はーーー!!!
その勢いでレオはテントの外まで吹っ飛ばされた。
黙って怒ったような顔をしていたヘーゼルの表情がそれを見て、変わった。
おそるおそるリィエに近づいて行く。
リィエはテントの外まで追って出て、まだまだレオを叱りつけている。
そんなことは許さんぞレオー!!!
リーザを見殺しにする気かーー!!!
そんなことしたらてめー、食うぞ!!!
見損なったぞレオーーーー!!!!
「リィエお姉様」
弱々しい声が真下から聞こえ、視線を下げるとそこに黒いおさげ髪の可愛らしい小学生ぐらいの女子が立っているのをリィエは見た。
その子が言った。
「あなたは本当にリィエお姉様?」




