ごちそうがいっぱい
シオナス……もといイクィナスは言った。
「魔王サイラス様からのご命令はリィエ姫をお連れせよとのこと。それだけだ。邪魔をするな」
レオメレオンは吐き捨てた。
「ふざけるな。姫はこの俺が命に替えてもお守りする」
「貴殿がアーストントンテンプル城の誇る一級の戦士だということは知り置いている。しかし、剣も持たずに勝てると思うか? この俺も魔城セブンス・イレブン精鋭部隊の一角をなすシオーズ・イクィナスだぞ」
セブン
イレブン
いい気分
いろんなおいしそうなもの売ってそうなところだ
行きたい!
リィエは進んで連れ去られようと足が前に出かけた。
「フン。貴様も武器を持たぬくせに何を言う」
そう言うと、レオメレオンの体が形を変えはじめる。
「我らは同類だ」
ガギギ
ゴギギ
ベコン
そんな骨と肉の軋む音。
レオメレオンの逞しい人間の体が変わっていく。
獣の姿に変わっていく。
「メタモルフォーゼ『百獣王』」
うわー
ライオンになった
黄金色のライオン初めて見た
綺麗
興奮するリィエの目の前で、闘いは始まった。
「どっせい!」
まるで相撲の張り手。
レオメレオンの太い前脚が飛び、鋭い爪が相手を襲う。
「フン!」
イクィナスは素早くそれを横へ避けると、
カウンターの一撃を繰り出した。
「くうっ……!」
レオ!
レオメレオンの右肩に三本の爪痕が刻まれる。
レオー!
「ご心配は無用ですぞ、姫」
レオは頼もしく笑った。
「そこを動かれぬように。すぐにこやつを仕留めますので」
イクィナスは笑う。
「フフフ。俺が一人で来たとでも思うのか」
そう言ったイクィナスの背後に穴が開く。
何もない空中に、穴が開いた。
「これは魔界に通じる穴だ。無尽蔵に魔物が出て来るぞ」
む
無尽蔵に
食べ物が出て来るだってー!?
穴の中からごわごわとした物音。
聞こえて来たかと思ったらどんどんそれが出て来た。
豚の顔した人間たち。
オークだ!
すごい
ブタモドキだ
初めて見た
これってやっぱりチャーシュー味なの!?
よだれを垂らすリィエの肩を誰かが掴んだ。
振り向くとそこに白いローブに身を包んだ背の高いエルフ様が立っていた。
近くで見るとまつげめっちゃ長い。
あっ
フーガ様
「リィエ様。ご馳走がたくさん、向こうからやって来てくれましたね」
フーガ様はにっこり笑う。
「私達が倒しますので、ごゆっくりお召し上がりください」
イクィナスもフーガが出て来たことに気づくと、明らかにたじろいだ。
「サイダ・フウガ! ハイエルフの大魔導師か!」
「オレらもいるぜ!」
茂みからそう言いながら黒い細身の男が飛び出した。
あっ
黒毛和牛くんだ
もといさっき廊下で会ったロウとかいうチャラいやつだ
「久々に暴れてもいいんだな? フウガよ?」
「ロウか。ちょうどいい。焼いて差し上げろ」
「了解。ヒャッハー!」
ロウの両手から放たれる地獄の業火に
オークたちがたちまち焼き豚になっていく。
おお
ぶたさんたちが魔法の炎に焼かれて
いい匂い
まるで黒毛和牛のステーキ
……ごめん
これは味方のあなたの匂いでした
リィエはてへっと自分の頭を叩く
それにしても
魔法だ
初めて見た
まるで火炎放射器だ
まるで魔法だ
「ロウっ! あんまりやりすぎるな」
あっ
シュカくんだ
やっぱりかわいい
「わかってんよ! 黒焦げにしちまったら姫さんが食えねェからな」
「そういう意味じゃないっ!」
なんかシュカくん
ロウさんの保護者みたい
13歳ぐらいのくせに
「あんまり力を出しすぎるなという意味だっ! やりすぎると君が持って行かれるぞっ!」
持って行かれる……?
どういう意味……?
「チィッ!」
イクィナスは舌打ちすると背後に開いた穴を閉じ、閉じきる前にそこへ飛び込んだ。
「俺がやって来ることを察知して兵力を周囲に待機させてやがったな? 今日のところは撤退だ!」
へいりょく……って
たった4人なんですけど?
イクィナスが穴を閉じると、7体のオークの死骸が残った。
4匹が丸焼き、2匹が傷まみれの生、1匹が綺麗なままだった。
うん
焼いたのもいいけど
生がとてもおいしそう
「それではどうぞ、姫」
フーガ様がにこやかに言った。
「好きなのを召し上がれ」
いただきまーす
リィエが一番綺麗な生の1匹に手を伸ばす。
「ぶがー!」
いきなりそいつが起き上がった。
おい
これ料理したやつ誰だ
まだ生きてんじゃねーか
オークはリィエの首を絞めた。
そして口をおおきく開く。
食う気だ。
食べ物だと思っていたものに食べられる!
こわがるな あたし
知らないのか
転生者はチート能力を授かってるはず
ブタモドキごとき敵ではないはず
怪力でねじ伏せてやる
しかしなんと!か弱いただの女子高生のままだった。
箸より重いものは持ったことがないなんてのは嘘だが、
3kgのダンベルは持ち上げられないのだ!
あ
これ
また死んだかも
死んだら元の世界戻れるのかな?
「無礼者が!」
レオメレオンの声がして、オークの首が吹っ飛んだ。
目の前でぴゅーぴゅー血しぶき上げるブタモドキを直視しながら、リィエは叫んだ。
すぷらった!