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食欲怪人勇者姫リィエのぼうけん  作者: しいな ここみ
第二章:食欲怪人 ~ 魔王城への進軍といっぱいのごちそう ~
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食欲怪人勇者姫発動

 リーザはシュカに手を繋がれて走っていた。

 森の中の小道を走る時、二人の顔を木漏れ日が優しく染める。


「あっ……、あのっ……! シュカ!」


 リーザに後ろから声をかけられ、シュカは振り向く。


「何? あ、走るペースゆっくりにしたほうがいい?」


「そっ……、それはっ……、別にいいけどっ……。その……。手!」


「あ。強く握りすぎ? ごめん」


「そうじゃなくて……っ!」


「ごめんね。手は離さないよ。嫌かもしれないけど、はぐれないようにするため必要なんだ」


「うん……」

 リーザは顔を真っ赤に染めた。素直にうなずき、シュカの手をぎゅっと握った。


「音が聞こえる」

 シュカが真剣な顔で前を向く。

「闘いが始まってるようだ。急ごう!」


「うんっ!」

 リーザも顔を上げ、まっすぐ向いた。




 野営地に着くと、レオメレオンとロウがそれぞれ闘っていた。

 2人の敵はそれぞれに強化魔法の効果を開放し、オーラが巨大になっている。レオもロウも不利なのが人目で見てとれた。


 リーザはそれを見ると声を上げた。

「シュカ! さっきの光魔法であいつらも消しちゃえ!」


 シュカにはすぐにわかった。2人の敵は純粋な魔ではあるが、末弟のテューカスとはレベルが違う。

「おそらく……効かない……けど……!」


 そう言いながらもシュカが光魔法をてのひらから放つ。

 敵の魔属性が強ければ強いほど効果を発揮し、即死させる魔法だ。

 しかしある一定レベル以下の敵にしか効かないそれは、目の前の敵ともに効果がなかった。

 光を浴びてもマーゼス・オーバもザールス・オーバも蚊に刺されたように頬を掻いただけだった。


「やはり……だめか」

 シュカはリーザに振り返ると、言った。

「僕は加勢に行く。君はどこかに隠れてるんだ」


「私も闘うっ!」

 リーザは強い目で言った。

「1人より2人のほうがいいでしょ!」


「まったく……。他の者は何をしてるんだ」

 シュカは呟いた。

 これほど激しい戦闘の物音がしているのに、誰1人駆けつけて来ない。

「……わかった。ただし相手は手練れだ。君は斬り合おうとはせず、ただ敵の気を引きつけてくれ。その隙に僕が……」


「なめないでよね!」

 リーザは怒った。

「私の剣の腕を知らないでしょう!? 見せてあげるわ!」


「だめだ! 君を失いたくない!」


「私の命よ! あんたには関係ないでしょう!?」


「関係あるんだ! 僕はこの世で君が一番大切なんだ!」


「そっくり同じ言葉をお返しするわ!」


「は!?」


「意味わかんない! 行くわよ!」


「ちょっ……!」


 その時、凄まじい爆発音のような、何かが殻を破って現れる音が天に響いた。



どっかーん!



「わっ!?」


「えっ!?」


 シュカとリーザは見た。

 天にそびえるような、巨大なゴリラのようなアリクイのような化け物が、リィエ姫のいたあたりから出現したのを。

 そいつはピンク色の濡れた唇をすぼめ、そこから細長い舌を出すと、チョロチョロと動かした。


「何、あれ!?」

 リーザがシュカに抱きついた。

「ばっ、化け物だよ!」


 シュカはそれがリィエ姫の変身した姿だということを知っていた。カラーゲイ・ヴェントゥスとの一騎打ちの時、リィエ姫は初めてこの姿を披露したのだった。

 リーザはその時、気絶して見ていなかったはずだ。


「あれは我が軍の誇る秘密兵器『食欲怪人』だよ」

 シュカはそれが姉の変身した姿だとは言わなかった。

「あれが出たからには大丈夫、僕らの勝利だ」


「な、なんで嘘つくの!?」

 リーザは『真実を見る瞳』でシュカが何かを隠しているのがわかってしまった。

「何を嘘ついてるの!? こんな時に!? あんた、わけわかんない!」




「ククク。ようやく変身したな?」

 ザールス・オーバはリィエの巨体を見上げながら、笑った。

「化け物。貴様は人型の魔物は食えぬと聞く」


「そしてお前の攻撃は『食うこと』のみ」

 マーゼスが言った。よだれを振りまき、細長い舌をぶんぶんと振り回すどこを見ているのかよくわからない目をしたリィエを見上げながら。

「つまりはお前は我らを攻撃できぬ。我ら兄弟が一方的に攻めるのみで、これは勝負にもならんな」


「しかし情けは無用。斬る!」

 ザールスが刀を構え、飛んだ。


「これで終わりだ!」

 マーゼスも大剣を振り上げ、飛んだ。


「姫様!」

 レオが叫んだ。

「お逃げを!」


 リィエは焦点の合っていない狂った目をきょろきょろさせた。

 その焦点がぴたりと合う。

 自分に向かって飛んで来る、2人の巨大なオーラに包まれた敵の姿を捕らえる。






そばあああああああ!!!



 リィエは両手で2人をむんずと捕まえた。

 細長い舌を口の中にしまうと、ザールスの頭を唇で包む。





ずぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞ!!!



「ザールスぅぅぅぅ!!!」

 マーゼスが悲痛な叫び声を上げる。




うまー!


和そば


うまあああああああー!!!



「なっ……なぜだ!」

 マーゼスは泣きわめいた。

「貴様は人型の魔物は……」


 リィエはマーゼスの赤茶色い髪の毛の匂いをクンクン嗅ぐと、うっとりと笑った。



感じる


花椒のぴりぴり風味


いただきます



 そしてまた唇でマーゼスの頭を包むと、激しい音を立て、啜った。



ずるずるずるずる!


ずぞぞぞぞぞぞぞぞ!


ずびずびずびずばばばばば!!!



 リィエは麺類に目がなかったのだ。




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