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食欲怪人勇者姫リィエのぼうけん  作者: しいな ここみ
第二章:食欲怪人 ~ 魔王城への進軍といっぱいのごちそう ~
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ロウ vs ザールス・オーバ

「噂は本当だったのだな」

 ザールス・オーバはロウが抜いた刀身を見つめ、言った。

「青く燃える刀身……。名刀『サラマンダー』か」

 そして目を細め、

「……美しい」


「きもっ」

 ロウはそう言ってお尻を向けた。

「男が美しいとか言うな。きもいわw」

 そしてお尻を叩いた。


「拙者が勝ったらその刀、いただくぞ」


「勝てたらな」


 ロウはそう言うなり、前へ飛んだ。


「ぐおっ!?」


 ギィン!


 刃の交わる音が響く。攻撃を防いだザールスが後ろへ飛ばされる。それを追ってロウも飛び、テントがひっくり返った。

 明るい表にいきなり晒されて、リィエはなぜだか恥ずかしくなり、叫んだ。



きゃっ!


着替えの途中でバスタオルひっぺがされたみたい!



 向こうのほうで戦っていたレオメレオンがびっくりして振り返っている。心配そうに眉を寄せるライオンさんの顔をリィエは生まれて初めて見た。その後ろからマーゼス・オーバが斬りかかる。



レオ!


気にすんな!


後ろ後ろー!



 間一髪レオは避け、ごろごろと横に転がると、爪を振った。

 マーゼスはそれを剣で受け、再び睨み合う。


 リィエは安心し、叫ぶ。



ふぅ……


こっちは大丈夫だからー!


そっちの戦いに集中してー!



 レオは背中を向けたまま、叫んだ。

「ロウ! 姫様を頼むぞ!」


「ザールス!」

 レオと睨み合いながら、マーゼスも叫んだ。

「しくじったのか!」


「邪魔が入った、兄者!」

 ザールスはそう叫んだが、その声は楽しそうだ。


「ふぃっ!」

 ロウのワイルドな黒髪がなびく。

 一瞬でザールスの足と胴と首を同時に狙う剣が振るわれた。


「素晴らしいな!」

 ザールスは後ろへ飛び退くしかなかった。

「まるで光の太刀だ! ますます欲しくなったぞ、その刀!」


「てめーにゃ使えねーよ。こいつは刀に愛された者にしか使えねー剣だ」

 ロウは楽しそうに笑いながら、さらにザールスの腕と胸と脳天を同時に狙う。

「オラッ!」


「しかし拙者には見える!」

 ザールスはまたもや避けると刀に手をかけ、言った。

「今度はこちらから行くぞ!」



 リィエは自分も戦いに参加しようと、頑張って唸っていた。



うーん


うーん


食欲怪人勇者姫


発動!


発動しろったら


発動しろ!


うーん!


うーん!



 その胸にくっついているメロンが言った。

「あら姫様、まるで便秘で苦しんでらっしゃるみたいよ」



うるさい!


あたしも大きくなって戦いに参加するんだ


おおきくなーれ


おおきくなーれ


うーんうーん!



 しかし食欲怪人の能力は発動しない。



 ザールスが鞘から刀を抜いた。

 光速の太刀がロウを襲う。


 キィン!


「なんだそりゃ」

 ロウは手元を狙って来た刀を軽々と弾いた。

「速いのは速いが、狙って来るとこバレバレじゃねーか。そのイアイギリっての、何の意味があんだ?」


「フフフ。貴様にはわかるまい」

 ザールスは鞘に収めた刀を構え、じりじりと間合いを詰める。

「……この美しさが」


「カッコだけかよ」

 ロウは笑い、すぐに怒り出した。

「ふざけんな。もう少し楽しめる相手かと思ってたのによ」


「しかし我ら……、同じタイプの剣士のようだな」


「ああ。片手剣のスピードタイプ……。お互いにな」


「タイプが同じということは、勝敗を決するのはすべて実力、ということになるな」


「そうだな。相性は関係ねェ」

 ロウは右手に持った細身の剣をゆっくりと下段に構えた。

「より速いほうが勝つ。それだけだな」


 刀身を包む青い炎は動かなかった。

 しかしロウは既に剣を振っていた。

 後に残った炎は残像だ。

 並の者なら剣が振るわれたことにも気づかず真っ二つになっていたことだろう。しかしザールス・オーバには見えていた。刀を収めた鞘でそれを受けると同時に抜く。


「フンッ!」


 ザールスの刀がロウの面を狙う。

 ロウはまた飛び退き、かわす。


「なるほどな」

 ロウはうなずいた。

「防御した後すぐに攻撃に移れるのか。普通なら受けた刀をどうにかしてからじゃねェと反撃に移れねーが、鞘で止めながらすぐに攻撃に移れる。……イアイギリじゃなけりゃ確かに出来ねェ芸当だ」


「美しいであろう?」


「それはどーでもいいが、意味は確かにあんな」

 そう言うとロウがにやりと笑った。

「じゃ、敬意を表してブッ殺させてもらうか」

 そしてオーラを放つ。

「おりゃ!」


 ザールスの全身が凄まじい力を感じ取り、ビリビリと震えた。


 ロウが発したそれは魔力であった。

 ロウを包んでいた黒いオーラが膨らみ、巨大な人狼のような形を作って行く。


 リィエはたまらず叫んだ。



黒毛和牛だ!


黒毛和牛の刺身みたいな匂いがめっちゃ大きくなった!


食欲そそる!


この食欲で変身だ!


とう!



 しかしやはり変身できなかった。



なんで!?



「なるほど。貴様、人間と魔族のハーフとか……」

 ザールスは面白いものを見るように、言った。

「魔族の力を解放したか……。これは手強そうだな」

 そしてマーゼスのほうへ声を投げる。

「兄者! そろそろか!?」


「ウム。あまり時間をかけてはいられぬな」

 マーゼス・オーバはレオから目を離さず、うなずいた。

「サイラス様から頂いた力、今こそ使う時!」


「残念だったな、ロブロウ・クロウ・ロウガよ」

 ザールスがロウを見ながら、哀れむように言う。

「我々には奥の手があるのだ」


「ウッ!?」

 ロウは距離を取った。

 ザールス・オーバの気配が変わった。

 姿はそのままだが、纏うオーラが明らかに巨大になった。

 それは自分の魔族のオーラよりも、較べようもないほどに大きい。

「これ……は……!」


 ザールスの居合い斬りが飛んで来た。

 先ほどまでとは較べようがないほどそれは速く、そして重かった。


「うおおおおっ!?」


 ロウは後ろへ飛んだ。

 飛んでかわしたロウの胸当てを裂いて、ザールスの刀はロウの胸骨を砕いた。

 そのまま吹き飛ばされ、地面をずざざざざと滑る。


「フハハハハ! 素晴らしい!」

 ザールス・オーバは和そば色の長髪を逆立て、哄笑した。

「サイラス様! 魔神の力を分け与えてくださり、感謝いたしまする!」


「ドーピングかよ」

 ロウは急いで立ち上がり、体勢を整える。

「こりゃー……ちと楽しさ通り越して無理ゲーになって来やがったな……」



 リィエは慌てた。



うわぁぁぁぁ


ロウさんがピンチだ!


変身はよ!


変身しろ、あたし!



「お命頂戴いたす」

 ザールス・オーバが飛んだ。




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