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食欲怪人勇者姫リィエのぼうけん  作者: しいな ここみ
第一章:戦争勃発 ~ 魔族を食い荒らす食欲怪人と哀しげな魔王 ~
3/77

リィエ姫のお食事


すごーい


エルフだ


初めて本物見た



 純白のローブに身を包んだエルフの大賢者様はフレンドリーににっこり笑顔をリィエへ向けると、言った。

「やぁリィエ姫、ご機嫌麗し……くもないようですね。フフフ、お腹がペコペコだと聞きました。味覚に異常をきたしておられるようで」



あー


話が早くてたすかる


LINEかなんかで誰かが知らせてくれてたのかな?



「さすがはフーガ様。もう話が通じていらっしゃるとは」

 レオが言った。

「その通りで。何を召し上がってもクソまずいと仰るのです」


「姫の口からクソはないでしょう」

 ぷっと笑うフーガ様。


「いえ。確かにそう仰いました」


「フム」

 穏和な笑顔のまま、フーガ様は低い段を下りると、近寄って来た。

「どれ。見てあげましょう」



たのむ


あれめっちゃうまそうだったのに


うんこの味しかしなかったんだ



「口を開けて」


 フーガ様に言われるままにリィエはぱかっと大口を開けて中を見せた。


「フム……」

 フーガ様はリィエの顎と鼻にそれぞれ指を当て、綺麗なピンク色の口の中を覗き込む。

「これ……は…。なるほど……」


 笑顔の消えた賢者様に不安になった。



なんかわかったの?



「わかりました」

 フーガ様は無理矢理のように再び微笑むと、おおきなてのひらを前に差し出した。

 そこにぽん!と何かが出現する。

 ドブネズミみたいな何かだった。うねうねと動いている。

「これを見てどう感じられますか? おいしそうだと思いませんか?」



うん!


おいしそう!



 すごく気持ちが悪いはずだった。

 ふつうの神経ならそれを口に入れるなんて思わないようなものだった。



それなに?



 リィエがよだれを垂らしながら聞くと、フーガ様は頬に一筋汗を垂らして教えてくれた。

「魔物です」



ま も の ー ?



「ゴキドバディブスという臭いガスで攻撃する魔物の……幼虫みたいなものです。ふつうはこれを食べたいと思う人間はもちろん、魔族でもこんなものを食べたがる者はいないでしょう」


 その通り雑巾を腐らせた牛乳の中に漬けたみたいなそいつは食欲をそそるはずもなかった。



でもおいしそう……


じゅるり……



「そんなものを食べたいと思ってしまう病気なのですか!?」

 レオが一大事のように声を上げる。


「いえ……」

 フーガ様は首を横に振った。

「これは恐らく……呪いだ」



のろいー!?



「魔に属するものしか舌が受けつけないような呪いをかけられたのでしょう、誰かに……」


「一体、誰に?」

 保護者のようにレオがオロオロする。


「わかりません」


「呪いを解く術は?」


「私にもわかりませんが、調べてはみます。しかし姫にそれまで空腹でいろと言うわけにもいかないでしょうね」



それ


食わせろ



「これを食べさせるわけにもいきませんしね」

 フーガ様の手の上からおいしそうな虫がぼん!と消えた。



きえてしまったー!



「フム……」

 フーガ様の目がきらんと光ったような気がした。

「ちょうどいい。どうやら食べ物が中庭にこれから届けられるようです。レオメレオン、姫を中庭へお連れして、それがやって来るのを待ってください」


「食べ物が……? 中庭に……?」


「ええ」

 フーガ様はにっこりと笑った。

「私が一緒では恐らくやって来ないでしょう。二人きりで待つのです」





 意味がわからなかったけど、二人で中庭に出た。

 色とりどりの花が咲き誇り、優雅な白い噴水があるだけで、食べ物なんかなかった。

 レオメレオンは石のベンチにハンカチを敷くと、リィエに座るよう促した。

「食べ物がここへやって来るとはどういうことでしょうな」



ねえレオ



「はい」



あたしどうなったの?


大変な目に遭ったとか言ってたけど



「記憶がないのですね」

 レオは優しく微笑むと、教えてくれた。



 小早川理恵が体に入り込む直前、リィエ姫は城を出て少し離れた丘の上で花を摘んで遊んでいたらしかった。

 そこへ近くの村に住む老人が牛車に乗って通りかかった。

 老人は居眠りをしており、花の美しさに見とれていたリィエ姫は、牛車の車輪にゆっくりと薙ぎ倒され、倒れた姫の上を山ほどの藁を積んだ牛車がゆっくりと通っていた。

 護衛についていたレオメレオンが気がついた時には、牛車に踏み潰された姫の体からゴリゴリと石臼を挽くような音が響いていた。

 そういうことらしい。



なんか……


アホっぽい



 リィエはそう思ったが、考えたらトラクターに轢かれた自分も似たようなものだったので、考えるのをやめた。



 他にも聞きたいことが山ほどあったがお腹が空いていた。

 ここにいれば食べ物があっちからやって来てくれるとフーガ様は言っていた。

 ウーバーイーツの自転車でもやって来るのだろうか。


 レオメレオンは周囲を警戒し、立ったまま辺りを見回している。



 ベンチに座って項垂れていたリィエは、見た。


 何か雑巾のような小さな生き物が、芝生の上をコソコソとこちらへやって来るのを。



あっ


さっきのゴキなんとかだ



 お尻をこちらに向けて上げ、臭い攻撃をしようとしているらしいところを捕まえ、口の中に入れた。



おいしい!


この味は……


コンビニのツナマヨおにぎりの味だ!



「ん? 姫、今何か口に入れられましたかな?」



おかわり!


今のもっと!


もっとやって来い!






「フフフ。ゴキドバディブスを食べてしまったのか」

 フーガ様は部屋で水晶玉に映して見ていた。

「まぁ、お体に害はないだろう。見ている者が気持ち悪いだけだ。それよりも……」

 白いローブを揺らして立ち上がる。

「来るぞ!」




 ガサリ


 黒い大きな影が中庭の芝生を掻き散らす。

 濁った銀色の鋭い爪がリィエに襲いかかる。


「姫!」

 レオメレオンが気づいて立ち塞がる。


 ギイン!


 爪はレオメレオンの手にはめていたガントレットで弾かれる。


「姫を狙うとは不届きな! 何者だ!」


 四足歩行のその魔物は動きを止め、その姿を見せた。

 こちらを振り返る。赤い目で睨む。人間の言葉を喋る。

「我が名はイクィナス。魔王サイラス様がリィェ姫をお招きしたいとのことで、お迎えに参った」



わぁ


真っ黒いオオカミだ


初めて見た



「魔王サイラスだと?」

 レオメレオンは戦闘の構えを取る。

 城内での帯刀は許されていない。素手である。

「貴様、サイラスの部下のシオーズ・イクィナスか!」



しお……なす?


しおづけ……なす


塩漬け茄子だとぉぉぉお!?


おいしそう!




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