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食欲怪人勇者姫リィエのぼうけん  作者: しいな ここみ
第二章:食欲怪人 ~ 魔王城への進軍といっぱいのごちそう ~
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シュカ vs テューカス・オーバ

 リーザは見た。森の中から突如出現した少年に敵は吹っ飛ばされた。しかし傷は負っていなかった。光の玉の当たった右腕が少しえぐれたようになっているが、血すら出ていない。おそらくは威力よりもスピードを重視した軽い攻撃だったのだろう。


 リーザはびっくりしていた。名前を呼んだ途端、その少年が現れた。自分の言葉が呪文のように、遠い場所にいたその少年を召還してしまったのかと思った。しかしそんなわけはない。その少年、シュカ・ルゥレンは、自分の危機を察知して、やって来てくれたのだ。


 リーザは何も声が出せなかった。シュカは自分のほうは見ず、まっすぐにテューカス・オーバのほうを睨んでいた。光魔法を放つ左手を前にかざして、早い足取りでずんずんと間合いを詰めていた。側を通る時、その幼なじみの顔が、今までに見たことがないほどに怒り狂っているのを見た。一瞬、目がこちらを向き、傷だらけのリーザの姿を認める。


「貴様……」

 シュカはテューカスに向かって、激しく歯ぎしりをしながら、言った。

「……許さん!」


「なんだ、またガキかよ」

 テューカスはいきなりの攻撃に驚いたようだったが、すぐにまたバカにするような笑いを浮かべる。

「近くにいたのか? もしかして姫様の水浴びを覗いてやがったのか?」


 最高潮の怒りを浮かべていたと思われたシュカの額にマグマのような筋が無数に浮かび、さらに怒りの色を増した。


「しかしバカかよ? たった1人で来たのか?」

 テューカスは高笑いした。

「まあ、何人来ようが関係ねーけどな」

 短剣をまた左右に大きく構える。回転とともにつむじ風のように消え、死角からシュカの首をはねるつもりだ。

「サイラス様から強化の魔法をかけてもらい、純粋で強大な魔と化している。今の俺様は無敵だ!」


 シュカの左手から光が放たれ、テューカスは一瞬でかき消された。

「あ?」と呟く暇も与えられなかった。


「あ」と、リーザがテューカスの代わりのように声を出した。


 戦闘の余韻も何もなく、シュカは振り返ると、急いでリーザに駆け寄った。


「リーザ!」

 傷だらけの彼女を見て、シュカのほうが深く傷ついたような顔をする。

「今、手当をするよ」


「……そっか」

 リーザはようやく言葉が出た。

「テューカス・オーバが強化魔法で『純粋な魔』になってたから、シュカの光魔法がよく効いたのね?」


「さすがに魔神級のレベルになると通じないけど」

 シュカは治癒の光をてのひらからかざしながら、言った。

「このひとは元々の力が僕よりも弱かった。だから強化魔法でいくらドーピングされていても一瞬で消せた」


 シュカのてのひらから発せられる光が瞬く間にリーザの傷を癒して行く。泥で汚れていたところも洗われたように白く綺麗になって行く。


「……まったく。昔のままのおてんばだな、君は」

 シュカはまるで年上のように言った。

「闘おうとしたりせずに、真っ先に逃げることを考えてくれ。君がテューカス・オーバに勝てるわけがないだろ」


 シュカの太い茶色の眉毛と長い睫毛をぼーっと見つめていたリーザはそれを聞くと大きな目をキッと怒らせた。


「助けなんていらなかったわよ! あのままにしといてくれたら勝てたんだから! ちゃんと勝つ方法は考えてあったんだからねっ!」


「僕の名前を叫んで助けを求めたのは誰だよ」


「あっ……! あれは……っ!」

 リーザは顔を真っ赤にした。

「だっ……! 大体……無礼よっ! アーストントンテンプル第三王女に向かってなんて口の聞き方っ!?」


 光魔法でサラサラを取り戻した金色の頭に、シュカはぽんと手を置いた。そして言った。

「幼なじみだろ」


「そっ……! それは昔のっ……! 子供の頃の話でしょっ! 私達、もう15歳なのよ! 身分の差をわきまえなさい!」


「ああ……そうだね」

 シュカは少し傷ついたような目をした。

「確かに僕は南方の島から流れて来た人間だ。この国での身分は低い」


「そっ……! そういう意味じゃ……!」

 リーザは慌てた。

「……そっ、そうっ! あんた、私のことを邪な目で見てるでしょ? わかってるんだからっ! 思春期の男の子特有の……」


「うん。君の目にはもう見透かされてしまってると思うから言うけど」

 シュカは治療を続けながら、言った。

「僕は君が好きだ。1人の女の子として、好きだ。悪い?」


 リーザは口をぱくぱくするばかりで何も言えなくなった。

 自分の『真実を見る瞳』は嘘を見抜くだけだ。相手の心が見えるわけではない。

 正直、シュカの自分を見る目つきが、性的な意味のみでのいやらしいものなのか、それとも真剣な気持ちによるものなのか、わかってなどいなかった。今言われて初めて知った。


「元奴隷の僕が王女の君にこんなことを言うのは不敬罪で罰せられるかもしれない。でも見透かされてるんだから、言うしかない」

 シュカはリーザの目をまっすぐ見つめた。

「僕は君を将来、お嫁さんにしたい。真剣に君を愛してる。……バカだよね?」


「ばっ……バカじゃ……。ないっ!」

 リーザは咄嗟に言った。

「その……。べつにあなたの身分をどうこう言ったわけじゃ……。今じゃ立派に……第二部隊の隊長なわけだし……っ」


「いいんだ。わかってる。君が僕のことを出自で差別なんかしてないってことはね」

 シュカは目を伏せ、笑った。

「ただ、それでも恋愛対象としては見られないってことも、わかってる。それをわからせるためにいつも冷たい態度をとってくれてるってことも……。ただ、僕の気持ちが邪なものじゃないって、わかってくれたら、それでいいんだ」


「あう!」

 リーザは言葉が出て来なかった。とても言いたい言葉があるのに、出て来なかった。

「あの……。あう!」


「それにしても何故、テューカス・オーバは君を狙って来たんだ? もしかしてリィエ姫と君を間違えたのか?」


 リーザは何も言えないまま、こくこくとうなずいた。


「バカ! 違うと言えばよかったろ? 敵の狙いはリィエ姫だけなんだから!」


 バカと言われても何も言い返せなかった。顔からいろんな液体が流れ落ちてしまっているのが恥ずかしくて、うなずいたまま顔を伏せた。


「……まあ、姉想いの君らしいとは思うけど、自分のことも大事にしてくれ。君が死んだら僕も死ぬぞ」


「あうーっ……!」

 リーザは泣き崩れた。


「しかし末弟テューカスが現れたということは……。上の兄2人はリィエ様のところへ行ったか……?」

 シュカは呟いた。

「レオメレオン様がついているから大丈夫とは思うが……。心配だ。行こう」


「うん!」

 リーザは顔を上げた。



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