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食欲怪人勇者姫リィエのぼうけん  作者: しいな ここみ
第二章:食欲怪人 ~ 魔王城への進軍といっぱいのごちそう ~
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あの巨人兵は誰だ!?

 リィエは眠っていた。

 天幕の中に敷かれたふかふかの毛布の上で。

 リーザに背中から抱きつかれ、メロンに胸にくっつかれて。


 闇の中から何かが近づいて来る気配がした。



んん……?


誰……?



 薄目を開けて見ると、真っ黒な体に真っ白な顔をした蛇がにゅるにゅると近づいて来ていた。

 真っ赤な口を嬉しそうに開けて、先が二つに割れた舌をチョロチョロと出して動かしている。



ぎゃああああ!!!


蛇!


蛇女!!!



 リィエが叫んで飛び起きると、リーザが素早く転がって剣を取る。

 メロンは蛇女の顔を認めると、嬉しそうにニヤニヤと笑い出した。


「ひひひ。モーラ様」

「ホホホ。あらメロンちゃんじゃないの」


 なんだか同じようなテンションで会話をした2人に呆気にとられているリィエの後ろから、リーザが飛んで来た。


「モーラお姉ちゃまっ!」

「あらリーザ。大きくなったわね」


 リーザはモーラの腰に飛びつくと、すりすりと猫のように頬を擦りつけた。

 呆然としているリィエに顔を近づけると、モーラは鋭い目を丸くして、言った。

「あらあら初めまして。リィエの体に入っているのは誰かしら?」




わかるの?



「わかるわよぉ」

 モーラは警戒するでもなく、笑った。

「あたしも魔女のはしくれだもの。で、リーザがなついてるってことは、悪い人じゃないってことも、ね」



あの……


現世からやって来た小早川理恵といいます


あなたは誰?



「一番上のお姉ちゃまのモーラちゃまだよ」

 リーザが嬉しそうに紹介してくれた。

「見た目は怪しいけど、優しいの。リエちゃまもきっと好きになる」


「通称『真っ黒けモーラ』です」

 モーラはぺこりと頭を下げた。

「みんなからそう呼ばれてるわ。理由はそのうちわかる」




どうも


通称『食欲怪人』の小早川理恵です



「じゃ、私は通称『嘘発見機』リーザかな?」

 リーザが自嘲するように笑う。


「そのわりにみんなあんたのこと嫌がらないじゃないの」

 モーラがけけけと笑った。

「普通、嘘を見透かす人間は嫌われるものだと思うけど。あんたの可愛さのたまものよね」


「見ようとしなければ見えないからだよ」

 リーザは照れ臭そうに鼻の下を掻いた。

「そんなに積極的に嘘を見抜こうとかはしないもの」


「では、あたしの通称は……」

 メロンが上を向いて考えはじめた。


「ところで食欲怪人って何よ?」

 メロンをスルーしてモーラがリィエに聞く。



 リーザがすべて詳しく話して教えた。

 本物のリィエ姫が牛車に轢かれて死ぬところだったのを魔王サイラスが『転移の呪い』をかけて救ったこと、

 そのために体の中身が現世の小早川理恵と入れ替わったこと、

 しかしその際に何者かによって別の呪いがかけられ、魔族しか食べられない体になってしまったこと。


「通称『ガーディアン・スパイダー』のメロンです」

 ニヤリと笑いながらそう言ったメロンをみんなはスルーして、


「なるほどね。そんな呪いをかけられる人物ってのは、相当な力の持ち主ね」

 モーラは面白がるように言った。

「大賢者フウガぐらいかもね、そんな力が使えるのは」


「まさかぁ」

 リーザが笑い飛ばそうとする。


 しかしリィエは真顔でうなずいた。



うん


あいつが怪しい


……と思う



「ホホホ」

 モーラは笑い飛ばすように笑うと、

「じゃ、挨拶したから。ちょっと外でロウとやって来るわね」


「また明日の朝、おしゃべりしようね、モーラちゃま」

 リーザがにこにこ手を振った。



やって来るって


何を?



「約束なのよ。挨拶が済んだらやろうぜって言われてて」

 モーラは頬を赤くしながら天幕を出て行く。

「じゃ、また明日ね。リーザ。リィ……コバヤカワさん」



 モーラが出て行くと、リィエはリーザに聞いた。



一番上のお姉さんって……


つまり王位継承権一位の王女ってことじゃないの?



「モーラお姉ちゃまは自由な人だから、継承権を放棄してるの」

 リーザは再び毛布の上に寝ころぶと、リィエの背中に抱きついた。

「王位とかまったく興味がないんだよ。魔術の研究に夢中で全国を飛び回ってるんだから」



なるほど


雲のように自由ってわけね?



「ううん」

 リーザはふりふりと首を横に振る。

「蛇のように自由だよ」



蛇のように……


聞いたことないけど


蛇って自由なのか



「そしてあたしは蜘蛛のように自由」

 そう言ってメロンがくっくっくと笑った時、外で物凄い音がした。



何!?


この音!?


爆発音みたいだったけど



「2人がやってるんだよ」

 リーザはいつものことのように気にもせず、そう言いながら眠りに入って行った。

「モーラちゃまと……ロウが……」



やってるって……


だから何を!?



 再び爆発音のようなものが鳴り響いたが、リーザはすやすやと眠ってしまった。







 朝が来て、レオメレオンが部隊を整列させる。

 神妙な顔つきのレオメレオンに対し、兵隊たちは明るい顔をして、ざわざわしていた。


「隊長」

 兵の1人が質問をする。

「昨日の、あの凄まじい巨人兵は誰ですか?」


 それをきっかけに全員が喋りはじめた。


「あんな凄いのが味方にいるなら安心だよな」

「1人で1万の敵を食っちまったもんな」

「俺、感動と戦慄でションベンちびっちゃったよ」

「でもあんなモンスター級の兵士、どこにいたんですか?」


「だ ま れ」


 レオメレオンのその一言で兵士たちは雷に撃たれたように静まり返った。


「今日はいよいよ敵の領地に入る。気を抜くな」

 レオメレオンは大声でそう言い渡すと、付け加えた。

「それから昨日の巨人兵についてはあてにするな。あれは封印した」


 えええー?と兵たちの間から失意の声が漏れる。




 リィエとリーザは兵士たちの中に紛れ、立っていた。

 気づかれないよう、リィエは昨日とは違うピンク色の鎧に身を隠している。


「モーラ姉ちゃま、帰っちゃったのかしら」

 リーザが呟いた。

「朝に会おうって言っといて、姿を見せないなぁ」



そんな


勝手な



「そういう人なのよ。自由なの」



 そこへ後ろからロウが歩いて来た。足取りがフラフラしている。顔がげっそりとやつれている。そのわりには楽しそうだ。


「へへ……。昨夜は……楽しかったなぁ……」



ロウさん!?


げっそりしてるけど


何があったの?



「たっぷり絞り取られたからな。モーラのやつに」

 そう言うとロウは力尽きたように地面に倒れた。その顔は笑っている。



ロウさん!?


ロウさーん!?




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