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食欲怪人勇者姫リィエのぼうけん  作者: しいな ここみ
第二章:食欲怪人 ~ 魔王城への進軍といっぱいのごちそう ~
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からあげ弁当

 前に進み出た自軍の戦士を見てレオメレオンはびっくりした声を上げた。


「リィエ様!?」


 そして慌てて止めに向かおうとする。それを後ろから引き止める手があった。


「待て、レオ」


「邪魔をするな、ロウ!」


「フウガがやらせろってよ」


「馬鹿な!?」


 部下に水晶玉を持って来させると、ロウはそれを見せた。フウガの顔が映っており、言った。


「レオ。リィエ様には経験値が必要だ。相手は魔王親衛隊のカラーゲイ・ヴェントゥス。倒せば相当の経験値が得られる。やらせるんだ」


「無茶です! 剣術毎回赤点の姫様にそんなことはさせられません!」


「大丈夫だ。倒せる」


「倒せなければ!?」


「その時は私が責任を持つ。我らの姫様を信じろ」


 泣きそうなレオメレオンの前でリィエは馬から降りた敵将と対峙する。


「これはこれは。可愛い戦士さんだ」

 からっと揚がったようなキツネ色の長髪を輝かせ、カラーゲイ・ヴェントゥスは侮るように笑う。

「もしかして貴女は、第2王女のリィ……」



腹減った!!!


食わせろ!!!



 いきなりリィエが襲いかかる。

 空腹パワーに任せて5メートル飛び上がると、ヴェントゥスの頭上からぶさいくに手足を振り回して降って来る。



ウワアアアア!!!


からあげ弁当いただきまああああす!!!



「アハハ」

 ヴェントゥスは余裕を笑い声を上げながら、手に持った大槍を振り上げた。

「わかってないね」

 リィエの黄色い鎧の胸を貫いて、大槍が背中へ突き抜けた。


 一瞬、鮮血が飛び散り、すぐにそれはぽたりぽたりと滴に変わる。


「姫様ーーー!!!」

 レオメレオンが悲痛な叫び声を上げた。


「潔い自己犠牲に感謝いたします、リィエ姫様」

 滴る血を顔に浴びながら、ヴェントゥスは言った。

「これでたちまち戦争は終わりです。大賢者と交わした終戦条件は、魔王様か魔神が討ち取られれば我が軍の敗北。貴女か大賢者を討ち取れば、我が軍の勝利」


「おいおい」

 ロウが呆れて呟く。

「呆気ねェな」


「貴女は英雄として語り継がれるでしょう」

 ヴェントゥスはそう言いながら、リィエの兜を片手で脱がしにかかる。

「戦争を自分1人の血で終わらせた聖女として……。その首、いただきます」

 兜が脱がされると、中からゴリラのような顔が現れ、咆哮した。



グギャアアアアオ!!!



「なっ……!?」


 リィエの腕が横へ振られる。ヴェントゥスは紙一重でかわしたが、長い髪をひっ掴まれた。



ウガアアアアア!!!



 リィエが掴んだ髪を振り回す。ヴェントゥスが浮きかける足を踏ん張ると、ぶちぶちぶちと音を立てて髪の束が抜けた。


「ぎゃあああああ!!!」


 リィエは抜いた唐揚げ色の髪をむしゃむしゃと食べると、吠えた。



もっとだあああ!!!


これはただの衣じゃねえええかあああ!!!


肉食わせろおおおおお!!!



 腰を抜かしているヴェントゥスの目の前で、リィエがぐんぐんと巨大化して行く。

 黄色い鎧が弾け飛び、中から筋肉の隆々とした怪物の体が現れた。大槍が貫いたはずの胸には蜘蛛のような緑色の生き物がひっついており、ニヤニヤと馬鹿にするような笑いをヴェントゥスに向けていた。


「な……」

 ヴェントゥスは絶叫した。

「なんじゃこりゃあああああ!!?」


 聳え立つ巨大な怪物は華麗なサラサラ金髪を揺らし、ヴェントゥスに迫る。踏み潰す気はないようだ。踏み潰してしまっては食べられないからだ。


「ゆ、許して……!」

 ヴェントゥスが泣き叫ぶ。

「食べないでええええ!!」



しゃらくさいわボケ


腹ペコペコなんじゃ


食う!!!



 天に轟く大声でそう言うと、リィエは腕を伸ばし、動きを止めた。



……なんだ


こんなにおいしそうなのに……


我が腕よ、なぜ止まる?



 カラーゲイ・ヴェントゥスは人間型の魔物である。

 というかどう見ても人間にしか見えない。

 すごくおいしそうなのに、そこにどうにもならない抵抗があった。


 ふと向こうを見ると、2万の魔王軍があった。

 その中にはゴブリンも、オークも、ガーゴイルもいるのが見えた。



そっちじゃあああああ!!!



 リィエは巨体を揺らし、ずんずんずんと3歩でそこまで移動する。


「うっ……うっわあああ!」

 動揺し、隊列を乱しまくって叫ぶ魔物兵たち。

「こ、こっち来たぞおお!やっつけろおお!」



しぇからしか!!!



 リィエは爆音のような声でそう言うと、人間の姿をしていない魔物を選び、手当たり次第に食いまくった。

 つるんつるんとそうめんのように魔物たちがリィエの口へ吸い込まれて行く。


 魔物たちはアリクイに食われる蟻の恐怖を知った。

 リィエは細長い舌を出し、ぺろんぺろんと魔物たちを飲み込みはじめた。


「ばっ……化け物」

 ロウがぽかんと眺めながらそう呟いた。


「あれが……姫様?」

 シュカは泣きそうな顔で目を離せずにいた。


 リーザはあまりの出来事に気を失って倒れている。


「何ですか……これは」

 レオメレオンはようやく目を離すと、水晶玉の中のフウガに言った。

「何なのですか、これは!?」


「だから言ったでしょう?」

 フウガは満足そうに笑っていた。

「我らの姫様は最強だ。これで経験値を得て、さらにお強くなられることだろう」


「フーガ様……まさか」

 レオメレオンは恐る恐る聞いた。

「あなたがリィエ様に……何か……!」


「まあ、力をお貸ししたのは否定しないが」

 フウガは涼しい顔で言った。

「あれはまさにリィエ様のお力。私は魔力でそれを増幅させただけにすぎない」



ウガアアアアア!!!


うんめえええええ!!!



「よし!オレらも出るぞ!」

 兵士たちにそう呼びかけ、ロウが馬を走らせる。

「姫様をお守りするんだ(なんちゃって)!」


「自分が暴れたいだけだろ!」

 シュカも馬を走らせた。

「でも言う通りだ!姫様をお一人で戦わせていてはいけない!」



ああああああ!!!


ガーゴイルうめええ!!!


イカ焼きかと思ったらウナギの蒲焼き味いいいいい!!!


こらあああシュカ!ガーゴイル消すな!てめえも食うぞ!!!



 リィエは1万の魔物を食った。

 残り1万の兵も動揺のあまり雑兵と化しており、容易くアーストントンテンプル軍に蹴散らされた。


「あ……あ……あ……」

 カラーゲイ・ヴェントゥス将軍は小便を漏らして立ち上がれずにいた。



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