メロン
だめだ、あたし
このままじゃ……
『この主人公、好きになれない』とか
『戦争の火種になっといて、しれっとごちそう食べて』とか
『許せない』とか言われてしまう!
そんな夢から覚めると朝だった。
リィエはお腹がペコペコで、スライムでもゴブリンでもなんでもいいから食べたくて、起き上がった。
「お早うございます、リィエ姫」
老戦士バーンがテントの入り口にひざまずき、頭を下げた。
「昨夜は申し訳ありませんでした。ロウガ隊長よりこっぴどくお叱りを受けました」
いや
あたしが抜け出したせいです
めんぼくない
焚き火跡に主力の戦士たちが集まり、会議を開いていた。
その中央には水晶玉が置いてあり、その中にはフウガの顔が映っている。
「リィエ姫様、おはようございます」
水晶玉の中のフウガが言った。笑っていない。
「ロウから聞きました。……また、勝手なことをされたようで」
ごめん
自由な生活に
慣れてるもんで……
小さくなっているリィエを厳しく目で叱りながら、フウガは言った。
「まぁ、私も貴女がだらしのない女子高生だと知っていながら警戒が足りなかった。リーザ様一人に任せているような状態にしてしまった」
リィエはちょっとフウガを責める調子で、言った。
あのさ
フウガ
食欲怪人のスキル
発動しなかったんだけど
「まだ自動的に発動するほどレベルが上がっていませんからね」
フウガは冷たい調子で答えた。
「経験を積めばそうなりますが、それまでは私が遠隔操作で発動させるしかありません。私の就寝中に危険な目に遭うのはやめてください」
そ
そうなんだ……
すやすや寝てたんだ……
ごめんね
「とにかく」
フウガは威厳を保ちながら、言った。
「新しくつける食事係にはボディーガードを兼任させます。いいですね?」
はーい
大した問題じゃないと高を括ってそう返事した。
フウガとの通信が切れると、戦士たちはリィエに話しかけて来た。
「姫様、ご勝手なことは慎まれますよう……」と、レオ。
「よかったです、姫様。ロウに変なことをされなかったようで」と、シュカ。
「一応、オレ、紳士だから」と、ロウ。
リーザは半ベソをかいていた。
リィエの前まで来ると、文句を言う子供のように言った。
「リエちゃま……。気づかなかった私も悪いけど、どっか行く時は私も同行させてよね?」
ごめん
リーザにはちょっと
刺激が強そうだなって
思ったんだ
「……? 何のことかわかんないけど、何かしたいことがあったら、私も一緒に誘って? 姉妹でしょ、私たち」
そっか
あたし
リーザのお姉ちゃんなんだよね
あっちでは一人っ子だったから
妹との接し方が……
「いつも一緒にいてよ。もう、リエちゃまに抱きついて離れないようにしとこうか?」
ははは……
リーザの言葉は冗談ではなくなった。
ただし抱きついて離れないのは妹ではなく、他人があてがわれた。
「メロンと申します。姫様、よろしくお願いします」
そう言って、五歳ぐらいにしか見えない34歳の女が言った。
その腕は長く、小さい体とのバランスが気持ち悪いぐらいにとれておらず、まるで蜘蛛みたいだった。
その長い腕でリィエに抱きつくと、がっしり掴んで離さない。体が小さいとはいえ結構重く、リィエは「うっ」と声が出た。
「ずっと姫様にくっついて離れないよう、言われております。これよりご入浴もトイレもご一緒します」
リィエは立ち上がるたびに「よっこいしょ」とか「ふんっ」とか言わなければならなくなった。
夜、眠る時も、これからはリーザとの間にこれを挟んで寝なくてはならない。
な
仲良くなろう
メロン
それしかない
「はい」とメロンは言って、口だけで笑った
大きな緑色の目はいつでも無表情で、何を考えているのかちっとも読めないのが少し、怖かった。