出発
よく晴れた朝。城門前には兵士の海が出来ていた。
アーストントンテンプル軍総隊長レオメレオン・ベルンハルト・フォン・シュタイナーはその先頭に立つと、大声で言った。
「それではこれより魔族討伐の戦いに出発する! 魔王領まで距離はあるが気を抜くな! 油断することなく進軍せよ! 不意の奇襲もあるかも知れんぞ!」
兵隊たちは表情を引き締め、総隊長の言葉にうなずいた。
「士気を高めよ! 神のご加護は我らとともにある! リィエ姫をお守りするため、全力を尽くすのだ!」
オー! と兵士たちから嵐のような声が沸き起こる。
「それでは……出発するぞ!」と言いかけたレオメレオンの隣に誰かが立った。
かわいいイエローの甲冑に身を包んだその人の顔を確認し、レオメレオンの顔に驚愕が浮かぶ。
やあレオ
出発しよう
リィエは気合いの入った声でそう言った。
「リィエ姫様!?」
レオはびっくりしすぎて腰を抜かしそうになった。
「なんですか、その格好は!? お戯れもほどほどに……」
あたしも
行くの
戦争に
「冗談はおやめください! フーガ様が何と仰るか……」
だって
そのフウガが
行けって……
「レオ」
後ろから銀色の甲冑に身を包んだリーザが歩いて来た。
「本当よ。フウガに聞いたわ。手薄になる城内より、兵士の中に一緒にいたほうが安全だって。それに食べ物にも困らないだろうって」
「し……しかし!」
「私も賛成したわ。側についてたほうが安心だもの。ただ、お一人にしてはだめよ。あと、兵士たちには秘密にしておいて」
「しかし……っ!」
大丈夫だ
レオ
あたしがお前を守ってやる
レオは泣いた。
いやいやするように首を振って、子供のように泣いた。
リィエはチェスの駒でいえばクイーンどころかキングなのだ。取られたら終わりだ。出来れば安全な城内に、出来ればチェス盤の外にでもいてほしい。
一緒に戦地に赴くなど、心配で心配で体がいくつあっても足りないではないか。
黒い軽装の鎧を着て、細い剣を腰に差したロウが面白いものを見るように近づいて来る。
「フーン。姫さん、死んでも知らねーぞ? 少なくともオレは守ってなんかやんねーからな。守られるばっかりの足手まといにはなるなよ?」
「無礼な! ロウ! 口を控えよ!」
レオはそう叫んでから、また子供のように泣き出した。
「姫様……。お願いですからお城にいてください。レオは心配のあまりこれより一睡も出来ませぬぞ」
「いいじゃねーか。行きたいってんだから行かせてやれば」
ロウは馬鹿にするように笑う。
「それによ。あのフウガの決めたことだ。間違いであるはずがないだろ」
「ウム……」
そう言われて考え込む。レオはフウガを心から信頼していた。
「信じろ」
ロウはそう言ってから、また馬鹿にするように笑った。
「オレは信じてねーけどな」
「リエちゃま。私が常に側にいます」
リーザが言った。
「離れないでね」
うん
離さないでね
「……っていうか、リーザ……姫」
シュカがやって来て、言った。
「リーザも……行くの?」
「何よ」
リーザがシュカを睨みつける。
「何呼び捨てにしてるのよ」
そしてすぐに目を逸らした。
「役に立ってみせるわ。強くなるために修行したんだから」
「僕が守る」
シュカの顔が男らしく引き締まる。
「うるさい! あんたなんかの側にいてあげないから!」
リーザは怖い顔でそう言うと、逃げ出した。
ああ
早速
側を離れて行っちゃった……
「敵は魔王城セブンス・イレブン城にあり!」
仕方なくレオメレオンは泣き顔で兵士たちに向かい、叫んだ。
「出発だ! 進軍せよ!」




