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食欲怪人勇者姫リィエのぼうけん  作者: しいな ここみ
第一章:戦争勃発 ~ 魔族を食い荒らす食欲怪人と哀しげな魔王 ~
16/77

出発

 よく晴れた朝。城門前には兵士の海が出来ていた。

 アーストントンテンプル軍総隊長レオメレオン・ベルンハルト・フォン・シュタイナーはその先頭に立つと、大声で言った。


「それではこれより魔族討伐の戦いに出発する! 魔王領まで距離はあるが気を抜くな! 油断することなく進軍せよ! 不意の奇襲もあるかも知れんぞ!」


 兵隊たちは表情を引き締め、総隊長の言葉にうなずいた。


「士気を高めよ! 神のご加護は我らとともにある! リィエ姫をお守りするため、全力を尽くすのだ!」


 オー! と兵士たちから嵐のような声が沸き起こる。


「それでは……出発するぞ!」と言いかけたレオメレオンの隣に誰かが立った。

 かわいいイエローの甲冑に身を包んだその人の顔を確認し、レオメレオンの顔に驚愕が浮かぶ。



やあレオ


出発しよう



 リィエは気合いの入った声でそう言った。


「リィエ姫様!?」

 レオはびっくりしすぎて腰を抜かしそうになった。

「なんですか、その格好は!? お戯れもほどほどに……」



あたしも


行くの


戦争に



「冗談はおやめください! フーガ様が何と仰るか……」



だって


そのフウガが


行けって……



「レオ」

 後ろから銀色の甲冑に身を包んだリーザが歩いて来た。

「本当よ。フウガに聞いたわ。手薄になる城内より、兵士の中に一緒にいたほうが安全だって。それに食べ物にも困らないだろうって」


「し……しかし!」


「私も賛成したわ。側についてたほうが安心だもの。ただ、お一人にしてはだめよ。あと、兵士たちには秘密にしておいて」


「しかし……っ!」



大丈夫だ


レオ


あたしがお前を守ってやる



 レオは泣いた。

 いやいやするように首を振って、子供のように泣いた。

 リィエはチェスの駒でいえばクイーンどころかキングなのだ。取られたら終わりだ。出来れば安全な城内に、出来ればチェス盤の外にでもいてほしい。

 一緒に戦地に赴くなど、心配で心配で体がいくつあっても足りないではないか。



 黒い軽装の鎧を着て、細い剣を腰に差したロウが面白いものを見るように近づいて来る。

「フーン。姫さん、死んでも知らねーぞ? 少なくともオレは守ってなんかやんねーからな。守られるばっかりの足手まといにはなるなよ?」


「無礼な! ロウ! 口を控えよ!」

 レオはそう叫んでから、また子供のように泣き出した。

「姫様……。お願いですからお城にいてください。レオは心配のあまりこれより一睡も出来ませぬぞ」


「いいじゃねーか。行きたいってんだから行かせてやれば」

 ロウは馬鹿にするように笑う。

「それによ。あのフウガの決めたことだ。間違いであるはずがないだろ」


「ウム……」

 そう言われて考え込む。レオはフウガを心から信頼していた。


「信じろ」

 ロウはそう言ってから、また馬鹿にするように笑った。

「オレは信じてねーけどな」


「リエちゃま。私が常に側にいます」

 リーザが言った。

「離れないでね」



うん


離さないでね



「……っていうか、リーザ……姫」

 シュカがやって来て、言った。

「リーザも……行くの?」


「何よ」

 リーザがシュカを睨みつける。

「何呼び捨てにしてるのよ」

 そしてすぐに目を逸らした。

「役に立ってみせるわ。強くなるために修行したんだから」


「僕が守る」

 シュカの顔が男らしく引き締まる。


「うるさい! あんたなんかの側にいてあげないから!」

 リーザは怖い顔でそう言うと、逃げ出した。



ああ


早速


側を離れて行っちゃった……



「敵は魔王城セブンス・イレブン城にあり!」

 仕方なくレオメレオンは泣き顔で兵士たちに向かい、叫んだ。

「出発だ! 進軍せよ!」




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