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食欲怪人勇者姫リィエのぼうけん  作者: しいな ここみ
第一章:戦争勃発 ~ 魔族を食い荒らす食欲怪人と哀しげな魔王 ~
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食欲怪人勇者姫のめざめ

つまり


どういうことか


まとめよう


・あたしが死ねば→異世界にいるリィエ姫が戻って来て、魔王さんが助かる


・魔王さんが死ねば→異世界にいるリィエ姫が戻って来て、あたしは元の世界へ帰れる


・どっちにしろリィエ姫は戻って来るけど、魔王さんかあたしが死ななければならない


・どっちが死ねばいいか?


・魔王さんが死ぬと魔族のひとたちみんなが悲しむ


・あたしが死ぬとリーザ1人だけが悲しむ


・レオたちはあたしが死んだことなんか知らず、リィエ姫の呪いが解けて元通りになったとしか思わないから、ただひたすらに喜ぶ


なんだ


やっぱり考えるまでもないじゃん……


やっぱりあたしが死んだほうが……




「いい加減にしなさい、リエちゃまっ!」

 ベッドの上で向き合って座るリーザが叱った。

「言ったでしょ? リエちゃまを犠牲にしてのみんなの幸福なんて、私が許しませんっ!」

 リーザがリィエの頬をぺちぺちと叩く。

「それに魔族は私たち人間の敵なの! 死ぬべきは考えるまでもなく、魔王サイラスのほうよ!」



いや


でも


本当に


あたしこの世界の邪魔でしかないなって思うんだけど……


図々しくリィエ姫様のお体の中なんかに居座って……さ



「もう一回それ言ったら本気で叩くよ? リエちゃま」

 リーザは厳しい顔でリィエをまっすぐ見る。

「王位継承権第2位王女であるこの私、リーザ・アーストントンテンプルが命じます。生きることだけ考えなさい! 何より魔王の言ったことなんか真に受けないで!」

 リーザはベッドの上で立ち上がった。

「私も、魔王軍討伐の戦いに、参加します!」



ええ!?


姫様が戦争に?


参加するの!?



「お姉ちゃまとリエちゃまを助ける戦争ですもん! 私も参加しなくてどうしますっ! 何のために武者修行したと思ってるのよっ!?」

 リーザは眉を吊り上げて拳を握った。



えっと……


リーザって


強いの?



「自称最強よっ!」



自称なんだ……



「私が軍を率いて、魔王の死を見届けるの! リエちゃまはここで待ってて。きっと私が魔王の首を取って戻って来るわ!」



ちょっと


トイレ


行って来る



「行ってらっしゃい!」

 リーザは出て行くリィエを見なかった。

 興奮して天井ばかり見ていた。






 リィエはトイレには行かず、廊下を歩いて行くと、フウガの部屋の扉をいきなり開けた。


「これは驚いた!」

 椅子に座って出迎えながら、フウガが声を上げた。

「行儀が悪いですね……。ノックもせずに」



えーと


あたしが来るって


わかってるだろうと思ったもんで……



「わかってはいましたが、まさか断りもなくいきなり入って来られるとは思いませんでしたよ」



ごめん……


これから気をつける



「魔王討伐軍の編成は整いました」

 フウガはリィエの無礼に苛々しているのか、いつもの明るい笑顔もなく言った。

「明朝、出発します。レオを総隊長に、ロウとシュカにそれぞれ二万の兵をつけ、魔王城を攻めます」



え……


5人ぐらいのパーティーかと思ってた……



「戦争ですからね。私はここで城を守りながら、遠隔魔法で軍を守ります。魔王サイラスも同じく遠隔魔法で補助して来ることでしょう」



あのー


フウガ


話があって来たんだけど



「何でしょう?」

 フウガは明らかに苛々した調子で言った。



魔王を殺せば呪いは解けるって言ってたけど


あたしが死んでもいいんでしょ?


リィエ姫の体は死なせずに、あたしの魂だけが死ねば


リィエ姫も戻って来れて、みんなハッピーでグッドエンドなんだよね?



 フウガはリィエを睨んだ。

「外出するなとあれほど言ってあったのに、出ましたね?」


 リィエは何も言えず、固まった。


「魔王の言うことなど信じてはいけません。何があろうと明朝、軍を出発させます」


 リィエは叫んだ。



戦争反対!


戦争はね、しちゃいけないんだって


学校でも歌でも習ったよ



「あなたの元いた世界のことなど知らない。この世界にそんな平和な庶民の常識はない」



あたしのために


戦争なんかしてほしくないの



「貴女のために限りません。魔族が不干渉条約を侵し、王位継承権第一位のリィエ姫の命を狙った。これだけで立派に宣戦布告の理由となります」



あたし


魔王さんに


死んでほしくないの



 リィエはぽろぽろと涙を零しはじめた。



他にないの?


魔族を食べちゃう外来種みたいなあたしがいなくなって


リィエ姫がこの体に戻って来る方法……



 『ない』と即答されると思っていた。

 しかしフウガは暫く考えると、言った。

「ありますよ」



あるの!?



「ええ。貴女の気に入り、魔王も死ぬ必要なく、リィエ姫の呪いの解ける方法が、ひとつだけ」

 その顔は何かよからぬことを企んでいるようにも見えた。でもリィエは気にせず聞いた。



どんな方法?



「貴女も軍隊とともに戦争へ行くのです」



は?


あたしなんかがついて行って


何をすれば?



「魔王サイラスの魔力の源を食べてください」



魔力の


源……?



「ええ」

 フウガは立ち上がった。

「魔王サイラスの魔力はその体の内にあるのではなく、実は外に依存しています。その源になっているものの名は……魔神ウィロウ」



外郎ういろう!?



「魔神ウィロウを貴女に食べられてしまえば、魔王サイラスは魔力を失い、ただの人間となる。そうなれば魔王が貴女にかけた呪いも解け、貴女は元の世界へ帰り、リィエ姫はその体に異世界から戻り、魔王サイラスも死なずに済みます」



 リィエは少しだけ考えてから、力強く言った。



やる!


魔王さんが助かって


リーザも笑えるなら


それしかないよ!



 そう言ってから、急に自信なさげに俯いた。



でも……


あたしなんかがついて行って


足手まといにならないかな




「私が力をお貸しします」

 フウガは胸を張り、言った。




どうすんの?



「貴女の食欲をブーストする。食欲に取り憑かれた時、貴女は自己の潜在能力を300パーセント開放し、最強の狂戦士となる」



最強の……


狂戦士!?



「私が暗示魔法を貴女にかけます」

 フウガはそう言うと、リィエにてのひらを向けた。

「貴女は『食欲怪人勇者姫』となり、魔王領セブンス・イレブンへ、魔神ウィロウを食べに行くのだ!」



うおおお!


やったる!


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