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食欲怪人勇者姫リィエのぼうけん  作者: しいな ここみ
第一章:戦争勃発 ~ 魔族を食い荒らす食欲怪人と哀しげな魔王 ~
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おべんきょうの時間

ご飯が済むと執事がやって来て、言った。

「リィエ様、ご学習のお時間でございます。お2階の部屋へ参りましょう」



えーっ


勉強すんの?



「ちょうどいいわ。私も一緒に授業を受けてもいいかしら?」

 隣でプリンをつついていたリーザが言った。



えーっ!


すごい!


自主的に勉強したいだなんて……!



「それはよろしいでございますが……」

 執事は少し言いにくそうに言った。

「中級の内容でございますので、リーザ様には少し難しいと思いますよ?」


「武者修行の旅をしながら、独学で一つ上の級の内容まで拾得しています」

 リーザは自慢するようにでもなく、涼しい顔で言った。

「だからたぶん大丈夫です」



すげえ!


この妹……


しっかり者!






 なんだかバッハみたいな髪型をした肖像画のたくさん飾られた狭い部屋に移動し、机を二つ並べた。

 先生がやって来るまでの間、リーザとお喋り。



すごいなぁリーザ


勉強好きなん?



「うん。だって知らないことを知るのって楽しいでしょ。リエちゃまは勉強嫌いなの?」



うん


知らないことを知るのって


フランスパンを食べるのより固くない?



 リーザはひとしきり笑ってから、

「うん、そのぐらい固いけど、食べ応えがあって美味しいよ」



 先生が入って来た。先生もバッハみたいな髪型だった。


 授業内容はこの国、アーストントンテンプルの地理と歴史についてだった。

 聞いたこともない用語が説明もなく頻出し、リィエはお腹が満ちていることもあって、たちまち眠たくなる。


「先生」

 リーザが手を挙げた。

「お姉ちゃまは記憶をなくしているのです。これまで習ったことも皆お忘れになっているのですよ。もっと砕いて教えてあげてもらえませんか」


「リーザ様、それでは初等教育のようになってしまいます……が」


「それでお願いします」

 リーザはにっこり笑う。

「私も復習になりますし」




つまり


小学一年生レベルでやってくれるってこと?



 先生の口から出る言葉が一転してわかりやすくなった。

 それでもリィエはあまり多くのことが頭に入っては来なかった。どーでもいいようなことが多すぎた。

 それでも自分の今いるこの国がどんなところかをイメージできるような話については、興味をもって聞いた。


 先生はこども用の大きな世界地図をもって来て、黒板に貼ってみせてくれた。

 アーストントンテンプルが思っていたより遙かにおおきな国だったのにびっくりした。元いた世界でいえばオーストラリアぐらいの存在感で、それが世界のど真ん中にデーンと鎮座している。


 海に囲まれた大陸が丸ごとひとつの国で、隣国に接していないので結構平和なんだそうだ。それでも内戦はたまにあり、国家権力を我がものにしようと狙っている勢力なんかもあるらしい。

 とはいえ基本的には平和なもんで、そのため国王様も水戸黄門のごとく身分を隠して国中を漫遊している。絶大な力を持つ大賢者フーガ様が王都を守っているため反社会的勢力も大人しい。王政ながら治世も民衆の不平不満を激しく買うようなものではなく、国は資源豊かで、主な産業は西部の海側は食用巨大カメの養殖、山側はスイカぶどうの栽培、東部の山側はーー



せんせー


その真っ黒い部分はなんですか?



 リィエは思わず手を挙げ、質問をした。


 アーストントンテンプルの地図上に気になるものを見つけたのだ。


 今、自分のいるアーストントンテンプル城は東部の海側で、海からは少し離れたところにあった。

 そこから西へ目を移すにつれて、地図の色がだんだんと黒くなり、遂には暗黒と言ってもいいほどに真っ黒くなっている界隈がある。まるで内陸に突如現れた黒い海のように広く、目立つ。


 先生は『海ってなんですか?』ぐらい当たり前のことを聞かれたようにため息をつきながらも、教えてくれた。

「魔族の生息地『セブンス・イレブン』ですよ。およそ人間の近づけぬ、危険な領域です」




魔王サイラス・カルルスの


あのひとの


いるところ?



「人間と魔族は干渉し合うことなく、棲み分けているの」

 リーザが横から教えてくれた。

「ひとつの国の中に王様が2人いるわけだからね。昔は争っていたみたいだけど、今は落ち着いてるよ。不干渉条約が締結されてから。でもたまにセブンス・イレブンに迷い込んじゃった人とか、無謀にも冒険に入って行った人が……ね。食べられちゃうことはあるみたい」




食べられ……?



「うん。魔物は人間を食べるからね。セブンス・イレブンまで行かなくても、辺鄙なところならそのへんにも魔物はいるから気をつけて」




そうなんだ……


気をつけよう……





 授業が終わり、リーザと手を繋いで廊下を歩いていると、前のほうからシュカが歩いて来た。

 シュカもこちらに気がつくと、口を「あ」の形にして立ち止まる。


 リーザが急に不機嫌そうになり、ぷいと視線を逸らしたのがわかった。


「あ。リーザ姫……様」

 シュカが話しかけて来た。

「昨夜も今朝もお声をかけることが出来なくて……お帰りなさい。ご無事でよかったです」


「あまり気安く話しかけないでよね」

 リーザは目を逸らしたまま、言った。

「私は王女、あんたは家来なんだから。……いくら幼なじみでも」


「……ごめん……なさい」

 傷ついたような表情でぺこりと頭を下げると、シュカはすれ違って行った。



おいおい


リーザもしかしてシュカくんのこと嫌いなの?


同い年だよね?



「べっ……べつにっ!」

 リーザは口を尖らせ、頬を紅くした。

「きっ、嫌いじゃないよっ! 身分が違うくせにやたら親しげにして来ようとするから思い知らせてやってるだけ……っ!」



あれあれ?


リーザ?


なんか素直じゃなくない?



「そっ……そんなことよりも、リエちゃま。シュカも、レオも、まだまだなんか隠してるみたいなんだよね。なんか知らない?」



隠してる?



「私がいない間に、リィエお姉ちゃまとリエちゃまが入れ替わってしまった。でもそれ以外にもなにかあったはず。みんな言わないけど」




さっき人間と魔族は不干渉って言ってたけど


魔族の塩漬け茄子みたいな名前の人っていうかオオカミが


私をさらいにやって来たよ



「魔族が? 塩漬け……たぶんシオーズ・イクィナスね。魔王の側近の」

 リーザの眉間に皺が寄る。

「それ、一大事だよ。条約違反だもん。魔族は人間に干渉しないって約束を破ってる。下手したら戦争になっちゃうよ」




戦争?



「うん。宣戦布告の理由にじゅうぶんなってしまう。フウガはなぜそんな重大なことを私に黙っていたんだろう……」

 リーザは考え込んだ。




あとね……



「うん。まだなんかあったの?」


 リィエは昨夜、薔薇の小路で魔王サイラス・カルルスに会ったことを思い出し、言おうとして、やめた。



ううん


なんでもない



 リーザは不思議そうにリィエをじっと見た。『真実を見る瞳』で。そして意地悪そうに、にんまりと笑い、言った。

「そっか。うん、それなら言わなくていいよ」



え?



「それにしても誰なんだろう。リエちゃまの心をそこまで掴んじゃった人って? そんなかっこいい人、城内にいたかなぁ?」



は?





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